第43話 サンドイッチ、朝の文官を救う
翌朝。
『喫茶ミナト 王都店』の厨房では、朝から慌ただしい音が響いていた。
トントン。
シャッ。
ジュウ。
「……なんか普通に忙しいな」
俺はパンへ具材を挟みながら呟く。
今日は、新しい朝メニューを試していた。
「サンドイッチですね」
リリアが、綺麗に切り分けられたパンを並べていく。
「ハムと卵」
「野菜入り」
「あと、少しだけ辛いのもあります」
「朝から気合い入っているな」
すると。
リリアは真顔だった。
「朝は大事です」
「急にしっかりしてる」
その時。
開店ベルが鳴る。
カラン。
「黒薬を……」
「もうちょっと挨拶しよう?」
入ってきた限界文官は、今日も死んだ目だった。
だが。
カウンターへ並んだ新メニューを見ると、ぴたりと止まる。
「……これは?」
「サンドイッチ」
「食べやすそう……」
反応が完全に朝の社会人である。
すると。
後ろから来た魔導師も、興味深そうに覗き込む。
「片手で食べられるのか?」
「まあな」
「便利では?」
「便利だよ」
その瞬間。
店内の空気が変わった。
「…………」
「…………」
嫌な予感がする。
すると。
限界文官が、おそるおそる聞く。
「……持ち帰れますか?」
「え?」
「会議室へ……」
「始まった」
さらに。
別の文官も立ち上がる。
「移動中に食べられるのでは?」
「朝礼前でも……!」
「書類持ったまま食べられる……!」
「お前らどんだけ忙しいの?」
すると。
レオンが、後ろで静かに震えていた。
「……革命だ」
「またか」
「“歩きながら食べる文化”が始まる……!」
「そんな大げさな」
だが。
周囲の反応は本気だった。
王都では、食事は基本的に“ちゃんと座って食べるもの”。
だから。
短時間で済ませられる軽食文化が、あまりなかったらしい。
すると。
グランベル侯爵が、サンドイッチを見ながら呟く。
「……朝会議前でも食べやすいな」
「完全に仕事基準だ」
侯爵は、卵サンドを一口食べる。
「…………」
静かに止まる。
「また語彙消えた?」
そして。
「……うまい」
「シンプル!」
だが。
その一言が、妙に説得力あった。
すると。
周囲の客たちが、一斉に注文を始める。
「ハムを!」
「卵!」
「両方!」
「持ち帰りも!」
「増えるなぁ!?」
朝の喫茶ミナトが、一気に騒がしくなる。
その中で。
リリアが、少し嬉しそうに呟いた。
「皆、ちゃんと朝ごはん食べてますね」
「……だな」
昨日まで。
黒薬だけ飲んでいた文官たちが。
今日はちゃんと、食べ物も頼んでいる。
少しだけ。
“生きるため”じゃなくて、“暮らすため”の朝になっていた。
すると。
限界文官が、サンドイッチを抱えながら真顔で言った。
「……これなら、今日も頑張れます」
「朝から重いんだよなぁ」
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
もし「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけましたら、
下にある**【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】を★★★★★**にして応援していただけると、執筆の励みになります……!
ほんの少しの応援でも、作者にとっては嬉しいものです。
どうぞよろしくお願いいたします!




