第42話 朝限定メニューを求められる
早朝営業開始から三日後。
『喫茶ミナト 王都店』の朝は、完全に定着していた。
カラン。
「黒薬を……」
「はいよ」
カラン。
「濃いめで……」
「今日も死んだ顔だな」
カラン。
「甘い物もください……」
「糖分まで求め始めた」
朝の王都民、だいぶ限界である。
だが。
昼や夜とは違って、店内は静かだった。
ぼーっとコーヒーを飲む者。
書類を眺めながら固まっている文官。
窓際で放心している魔導師。
皆、“起動中”という感じだった。
すると。
リリアが小さく笑う。
「最近、“おはようございます”より“黒薬を”の方が多いですね」
「駄目な常連の店になってる」
その時。
グランベル侯爵が、静かに席へ座った。
「紅茶を頼む」
「朝から優雅だなぁ」
「あと黒薬も」
「結局飲むんだ」
最近、完全に両方飲んでいる。
紅茶派の誇りはどこへ行ったのか。
すると。
侯爵は疲れた顔で言った。
「朝会議が連日でな……」
「お疲れ様です」
「王城の文官たちが、“朝喫茶”を基準に予定を組み始めた」
「何してるの?」
しかも。
周囲の文官たちが気まずそうに目を逸らしている。
「いや、その……」
「出勤前に寄れる時間を……」
「少し落ち着いてから会議へ……」
「お前ら完全に生活に組み込んでるな?」
すると。
限界文官が、小さく震えながら言った。
「ここ来ないと、朝が始まらないんです……」
「重い」
完全にインフラ扱いだった。
その時。
奥の席で、魔導師がぼそっと呟く。
「……朝向けの軽食、欲しくないか?」
空気が止まる。
「…………」
「…………」
嫌な予感がする。
すると。
周囲がざわつき始めた。
「確かに……」
「フレンチトーストは美味いが、朝だと少し重い」
「軽く食べられるものが……」
「始まった」
王都民、新メニュー会議を始める速度が早い。
すると。
リリアが、ぽつりと言った。
「パンと卵なら、サンドイッチとかどうです?」
「……あ」
俺は一瞬、固まった。
サンドイッチ。
確かに朝向けだ。
軽い。
片手で食べられる。
コーヒーにも合う。
すると。
レオンが、音もなく立ち上がる。
「店主殿」
「なんで急にいるの?」
「サンドイッチですか?」
「うん」
その瞬間。
商人の目が光った。
「携帯食市場が変わります」
「まだ何も作ってないんだけど!?」
すると。
レオンは真剣だった。
「移動しながら食べられる」
「短時間で済む」
「朝需要に合致」
「また始まったなぁ」
だが。
確かに相性は良かった。
忙しい王都。
朝。
出勤前。
軽食。
コーヒー。
……うん。
これはたぶん、流行る。
その時。
リリアが、小さく微笑む。
「朝、少しだけ余裕ができるかもしれませんね」
「……それは、いいかもな」
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