第40話 閉店したくない客たち
「知らんがなぁぁぁ!!」
夜の店内に、俺のツッコミが響いた。
だが。
限界文官は本気だった。
「皆、“やっと休める場所を見つけた”って……!」
「重いんだよ理由が!」
すると。
店内の文官たちも気まずそうに目を逸らした。
「……分かる」
「閉店後、急に現実へ戻される感じが……」
「ここ、空気が柔らかいんだよな……」
「王都どんだけ張り詰めてるの?」
すると。
老齢の文官が、静かにコーヒーを置いた。
「王都は、“止まる”ことを許されない街ですからな」
「……」
「だから皆、休むのが下手なんです」
その言葉に。
店内が少し静かになる。
確かに。
昼間の王都は、ずっと慌ただしかった。
貴族も。
文官も。
騎士も。
皆、ずっと何かに追われている。
だから。
この店みたいな、“急がなくていい場所”に人が集まるのかもしれない。
すると。
リリアが、小さく笑った。
「店主の店、夜は特に落ち着きますね」
「まあ静かだからな」
「昼は戦場ですけど」
「否定できない」
その時。
奥の席で、魔導師がぼそっと呟いた。
「……閉店後も居ちゃ駄目ですか?」
「駄目です」
「そこをなんとか……」
「帰れ」
すると。
周囲の客たちが、妙に真剣な顔で頷き始めた。
「確かに、もう少し居たい」
「分かる……」
「帰ると仕事思い出すんだよな……」
「王都の社会人の闇が深い」
その時だった。
入口のベルが、静かに鳴る。
カラン。
「……まだやっているか」
入ってきたのは、グランベル侯爵だった。
昼間の派手な格好ではない。
落ち着いた服装。
一人だ。
「あれ、今日は静かですね」
「夜くらい静かな方が良い」
侯爵はそう言って、カウンター席へ座る。
なんか普通に常連っぽくなってきている。
「紅茶を頼む」
「はいよ」
「あと……ふれんちとーすとを」
「ちょっと気に入ってるな?」
すると。
侯爵は少しだけ咳払いした。
「……悪くない味だからな」
ツンデレみたいな反応だった。
その時。
限界文官が、突然はっと顔を上げる。
「そうだ!」
「今度は何?」
「閉店後の喪失感を減らすために――」
「嫌な予感しかしない」
「朝営業も始めませんか!?」
「働かせる気満々じゃねぇか!!」
店内が爆笑に包まれた。
リリアが肩を震わせる。
アリシアも笑っていた。
グランベル侯爵ですら吹き出している。
すると。
限界文官は真剣だった。
「出勤前に黒薬を飲めれば……!」
「完全に社会人の発想なんよ」
だが。
周囲の文官たちがざわつき始める。
「確かに欲しい」
「朝の会議前に……」
「革命では?」
「一日中営業させる気か!?」
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