第33話 王城の文官、限界だった
王女来店騒ぎから数時間後。
『喫茶ミナト 王都店』は、相変わらず満席だった。
「黒薬セットお待たせしましたー!」
「プリン追加お願いしまーす!」
「三番卓、“会議延長セット”入りまーす!」
「そんなメニューないんだけど!?」
勝手にメニュー名が増えていた。
ちなみに“会議延長セット”は、
•コーヒーおかわり自由
•甘味付き
らしい。
完全に社畜向けである。
すると。
リリアが注文票を見ながら呟く。
「でも人気ですよ?」
「嫌な人気だなぁ」
その時。
入口が、ゆっくり開いた。
「……失礼します」
入ってきたのは、やつれた男だった。
高級な文官服。
大量の書類。
隈。
死んだ目。
「あっ」
見た瞬間分かった。
「限界社会人だ」
すると。
男は、ふらふらと席へ座る。
「黒薬を……」
「略しすぎなんよ」
「あと、ぷりんを……」
「完全に癒やし求めている」
だが。
男は真剣だった。
「もう駄目なんです……」
「何が?」
「会議が終わらないんです……」
「また会議か」
すると。
近くの席にいた別の文官が、静かに頷いた。
「今、“喫茶ミナト派”と“紅茶派”で揉めていまして」
「まだやってたの!?」
「予算配分が……」
「カフェで政治するなって!」
だが。
文官たちは本当に疲れていた。
コーヒーを飲む。
ため息。
プリン食べる。
ちょっと元気になる。
完全に会社帰りの喫茶店である。
すると。
王女が、心配そうにその様子を見ていた。
「……やっぱり王城支店必要では?」
「まだ言ってる」
その時。
限界文官が、コーヒーを一口飲んだ。
「…………」
止まる。
そして。
「……生き返る」
「毎回リアクション強いな」
さらにプリンを一口。
「…………」
今度は、目に光が戻った。
「……いける」
「何が?」
「午後の会議……まだ戦えます……」
「栄養ドリンク扱いされてる」
すると。
周囲の文官たちがざわつく。
「おお……」
「回復してる……!」
「やはり黒薬と黄金の甘味は本物……!」
「ただの糖分とカフェインなんだよなぁ」
その時だった。
限界文官が、突然立ち上がった。
「決めました!」
「え?」
「“喫茶ミナト予算案”を通します!」
「何その予算!?」
すると。
別の文官も立ち上がる。
「私も賛成です!」
「休憩室導入を!」
「プリン定期供給を!」
「王城の福利厚生改善を!」
「会社みたいな話になってきたな!?」
だが。
周囲の客たちは拍手していた。
なんで。
すると。
セシルが、疲れた顔で呟く。
「……王都の文官社会、限界だったんですね」
「今さら?」
だが。
その時。
奥の席で静かにコーヒーを飲んでいた魔導師長が、ぽつりと言った。
「実際、必要だとは思うぞ」
「お前まで!?」
「最近、魔導師塔の離職率が高くてな」
「異世界に離職率あるんだ……」
妙にリアルだった。
すると。
魔導師長は真顔で続ける。
「休まぬ者は壊れる」
「……」
「だから、“休める場所”は必要だ」
その言葉に。
店内が少し静かになる。
だが次の瞬間。
王女が元気よく言った。
「では王城支店で!」
「話を戻すな!!」
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