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異世界でカフェを開いただけなのに、なぜか英雄扱いされています  作者: 断捨離
第1章 街外れのカフェ編

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第3話 戦場にコーヒーを持っていくな

第3話 戦場にコーヒーを持っていくな


「戦闘前に飲む気か!?」


「当然だ」


 当然みたいに言うな。

 騎士団長は真顔だった。


「店主殿の黒薬があれば、兵の集中力は飛躍的に向上する」


「いや、多少眠気が飛ぶだけだからね?」


「十分だ」


 そう言って団長は立ち上がる。

 周囲の騎士たちも、なぜか期待に満ちた目で俺を見ていた。

 やめろ。

 その“軍の切り札を発見した”みたいな顔。


「代金なら払う」


「そういう問題じゃなくて……」


 俺は悩んだ。

 断るべきだろうか。

 でも、外では魔物が出たらしいし、切羽詰まっているのも事実だ。

 それに。


「……飲み過ぎないでくださいよ」


「承知した」


 絶対分かってない返事だった。

________________________________________

 

結局。

 俺は大鍋で大量のコーヒーを淹れることになった。

 店の奥で豆を挽きながら、俺は遠い目をする。


「なんで異世界来てまで業務用ドリップしてるんだろうな……」


「でも、少しかっこいいです」


 隣でリリアが言った。

 なぜか彼女まで手伝っている。


「英雄の秘薬を作る賢者みたいです」


「お前まで言うのか」


「違うんですか?」


「違います」


 即答だった。

 だがリリアは納得していない顔をしている。

 この世界の人たち、すぐ“賢者”とか“秘薬”とか言う。

 ファンタジー脳が強すぎる。

 やがて、店内に香ばしい香りが満ちていく。

 騎士たちがそわそわし始めた。


「来るぞ……」


「黒薬だ……」


「静かにしろ、香りを逃がすな」


「なんで儀式みたいになってるの?」


 完全に宗教である。

 俺は頭を抱えつつ、大きな金属容器にコーヒーを注いでいく。


「はい。これで二十人分くらい」


「おお……!」


 騎士たちが感動していた。

 ただの飲み物である。

________________________________________

 

数分後。

 騎士団と一緒に、俺は北門へ来ていた。


「なんで俺まで来てるの?」


「効果を確認していただきたい」


「治験か?」


 北門周辺は騒然としていた。

 城壁の上を兵士たちが走り回り、冒険者らしき連中も武器を構えている。

 遠くでは獣の唸り声。

 緊張感がすごい。

 俺、完全に場違いなんだけど。


「来ます!」


 兵士の声。

 次の瞬間、森の奥から魔物の群れが現れた。

 狼のような獣。

 巨大な猪。

 二足歩行のトカゲみたいなのまでいる。


「うわ、ファンタジーだ……」


 ちょっと感動した。


「感心している場合ではない! 総員構えろ!」


 騎士団長の怒号が響く。

 兵士たちが一斉に武器を抜いた。

 だが、その前に。


「黒薬を回せ!!」


 誰かが叫んだ。

 いや待て。

 本当に戦闘前に飲むの?

 兵士たちは金属容器から次々とコーヒーを受け取り、一気に飲み始める。


「苦ぇ!!」


「だが効く……!」


「頭が冴えるぞ……!」


「眠気が吹き飛んだ!」


 眠かったのかよ。

 すると隣でリリアが小声で呟いた。


「……なんだか、本当に軍用秘薬みたいになってきましたね」


「やめて」


 その時だった。

 魔物の群れの奥から、ひときわ大きな影が現れる。

 全長三メートルはある巨大な黒狼。

 赤い目。

 鋭い牙。

 周囲の魔物が道を空けている。


「……上位種!」


 兵士たちに緊張が走る。


「ブラックファングか……!」


 騎士団長が剣を抜く。

 空気が変わった。

 素人の俺でも分かる。

 ――あれはヤバいやつだ。

 だが。

 騎士団長は、ふっと口元を吊り上げた。


「面白い」


「え?」


「頭が異様に冴えている。身体も軽い」


 団長は剣を構える。


「これが店主殿の黒薬の力か」


「違うと思うなぁ!」


 次の瞬間。

 騎士団長が地面を蹴った。

 速い。

 さっきまでと明らかに動きが違う。


「おおおおおおッ!!」


 轟音。

 巨大な黒狼が吹き飛んだ。

 周囲が静まり返る。

 兵士たちが、呆然と団長を見る。


「団長が……上位種を一撃で……」


「黒薬のおかげだ……!」


「賢者様の加護だ!」


「だから違うって!!」


 しかし。

 その叫びは、誰にも届かなかった。


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