第29話 喫茶ミナト派、爆誕
「派閥できてる!?」
俺の叫びに。
目の前の貴族男性は真顔で頷いた。
「正式名称ではありませんが」
「正式じゃないんだ……」
「“会議後に喫茶ミナトへ行く派”と、“行けない派”で空気がかなり違いまして」
「高校の放課後みたいなノリで政治やるな」
すると。
男は疲れ切った顔で言った。
「王都貴族社会、今かなり荒れているのです……」
「それは知ってる」
「なので、“プリンを食べながら話せる派閥”が人気でして」
「プリン外交やめろ」
だが。
後ろにいたセシルが、小さく頷いた。
「実際、最近かなり平和です」
「え?」
「以前なら怒鳴り合っていた会議が、“会議後に喫茶ミナト行きません?”で終わるので」
「プリンすごくない?」
まさかのプリン和平である。
すると。
マリアも疲れた顔で続けた。
「昨日も、予算会議が揉めかけたのですが」
「うん」
「“限定プリン、今日までらしいですよ”で収まりました」
「貴族ちょろくない?」
いや。
むしろ疲れすぎているのかもしれない。
その時。
外から怒鳴り声が聞こえた。
「だから列に割り込むなと!」
「私は侯爵家だぞ!」
「侯爵家でも最後尾ですーー!!」
騎士たちが頑張っていた。
完全にテーマパーク運営である。
すると。
リリアが窓の外を見ながら呟く。
「店主」
「ん?」
「徹夜組、増えてます」
「増えるな」
見ると。
毛布まで持ち込んでいる貴族がいた。
なんでそこまでしてプリン食べたいんだ。
その時。
レオンが、興奮気味に書類を抱えてきた。
「店主殿!」
「嫌な予感」
「“喫茶ミナト派”の人数が急増しています!」
「報告いらないかなぁ!?」
「現在、若手貴族を中心に――」
「派閥分析始めるな」
すると。
レオンは真剣な顔で言った。
「これは新しい社交文化です」
「また始まった」
「今までの貴族交流は、“酒”が中心でした」
「まあそうだろうな」
「ですが喫茶ミナトでは、“落ち着いて会話する”」
「……」
「しかも酔わない」
「あー」
確かに。
酒の席より、ちゃんと話せるのかもしれない。
すると。
アリシアが静かに微笑んだ。
「だから皆、少し素直になれるんですよ」
「素直?」
「ええ」
彼女は少し楽しそうだった。
「以前の貴族会議は、“威圧”ばかりでしたから」
「疲れそう」
「でも今は、“プリン食べます?”から始まるので」
「平和すぎる」
だが。
その時だった。
店の入口が、勢いよく開く。
「失礼する!」
「また!?」
入ってきたのは、派手な服を着た若い貴族だった。
後ろに護衛までいる。
「頼む!」
「はい?」
「“喫茶ミナト派”に入りたい!」
「ファンクラブかな?」
すると男は真剣な顔で言った。
「最近、“プリンを知らない貴族”扱いされるんだ!」
「知らんがな!!」
その瞬間。
店内の空気が崩壊した。
リリアが吹き出す。
アリシアは肩を震わせている。
セシルは机に突っ伏した。
マリアは顔を覆っていた。
そして。
レオンだけが、小さく呟く
「……文化だ」
「お前もう止まれ」
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