第26話 王都、並びすぎでは?
翌朝。
俺たちの馬車は、ついに王都へ到着した。
「……でっか」
思わず声が漏れる。
高い城壁。
巨大な門。
人、人、人。
馬車の列だけで渋滞していた。
「都会だ……」
すると。
リリアが窓の外を見ながら呟く。
「店主、口開いてます」
「仕方ないだろ。異世界東京みたいなもんだぞ、これ」
「とうきょう?」
「人が多い場所」
間違ってはいない。
すると。
セシルが苦笑する。
「今日はまだ少ない方ですよ」
「これで!?」
「普段はもっと混みます」
王都怖い。
その時。
騎士団長が前方を見ながら、眉をひそめた。
「……妙だな」
「ん?」
「門の前、人が多すぎる」
「いや元から多いじゃん」
「違う」
騎士団長は真顔だった。
「こちらを見ている」
「……え?」
嫌な予感がした。
すると。
門前にいた誰かが叫ぶ。
「来たぞーーー!!」
「うわぁ」
次の瞬間。
人だかりが、一気にこちらを向いた。
「黒の賢者だ!!」
「本当に来た!」
「喫茶ミナトの馬車だ!」
「黄金の甘味は!?」
「プリン目当て多くない!?」
人が押し寄せてくる。
怖い怖い怖い。
すると。
門の衛兵たちが慌てて列を整理し始めた。
「押すな!」
「順番に並べ!」
「喫茶ミナトの予約はこちらではない!」
「なんで整理始まってるの!?」
完全にイベント会場だった。
しかも。
「店主ー!」
「王都店いつ開くんだ!?」
「黒薬は毎日飲めるのか!?」
「朝営業ありますか!?」
「まだ何も決まってない!」
だが。
周囲は全く聞いていなかった。
すると。
レオンが遠い目で呟く。
「……想定以上ですね」
「お前の想定どうなってるんだよ」
「ここまでとは」
商人すら引いていた。
その時。
門の奥から、豪華な馬車が現れた。
白銀の装飾。
王家紋章。
周囲がざわつく。
「王家の馬車!?」
「迎えが来てる……!」
「やっぱり国家案件だ……!」
「違うってぇ……」
もう否定する元気も薄い。
馬車から降りてきたのは、一人の女性だった。
淡い青の制服。
きっちりした姿勢。
完全にエリート。
「王城案内係のマリアです」
「どうも……」
「“喫茶ミナト”御一行をお迎えに参りました」
「御一行って」
なんか劇団みたいになってる。
すると。
マリアは周囲を見回し、小さくため息をついた。
「……やはり集まっていますね」
「やはりなんだ」
「昨日から、門前に並んでいた方もいます」
「何しに!?」
「店主様を一目見たいと」
「アイドルかな?」
すると。
後方の女性客たちが叫んだ。
「プリン食べたいですーー!!」
「黒薬くださいーー!!」
「疲れてるんですーー!!」
「切実だなぁ……」
王都、だいぶ疲弊しているのでは?
すると。
マリアが真顔で言った。
「実際かなり疲弊しています」
「本当に?」
「文官局、魔導師塔、騎士団、貴族会議」
「全部空気が悪いです」
「現代日本かな?」
異世界なのに妙に生々しい。
すると。
マリアは、少しだけ柔らかい顔になる。
「だから皆、“喫茶ミナト”を楽しみにしていたんです」
「……」
「休める場所として」
その言葉に。
少しだけ、周囲の騒ぎが遠く感じた。
すると。
リリアが小声で言う。
「店主」
「ん?」
「……並んでます」
「何が?」
指差された方向を見る。
そこには。
王都店予定地の前にできた、めちゃくちゃ長い行列。
「まだ店開いてないんだけど!?」
周囲が一斉に頷いた。
「知ってる!」
「でも並ぶ!」
「前日待機だ!」
「テーマパークじゃないんだぞ!?」
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