第25話 まだ王都に着いてないんだけど?
王都への旅、六日目。
俺たちは、最後の宿場町へ到着していた。
「ついに明日ですね」
アリシアが窓の外を見ながら言う。
夕暮れの宿場町。
旅人で賑わっている。
だが。
俺はそれどころではなかった。
「……多い」
「何がです?」
「人」
宿屋の食堂が、めちゃくちゃ混んでいる。
冒険者。
商人。
貴族っぽい人。
旅芸人までいる。
都会へ近づくにつれて、人の数が明らかに増えていた。
「王都周辺は人口密度が高いですから」
セシルが普通に解説する。
「異世界で人口密度とか聞くと思わなかった」
すると。
リリアが、じーっと窓の外を見た。
「……あ」
「ん?」
「見られています」
「え?」
外を見る。
……めちゃくちゃ見られていた。
宿屋の前に、なんか人だかりができている。
「なんで!?」
すると。
レオンが小さく咳払いした。
「実は少し情報が漏れまして」
「何の?」
「“黒の賢者、王都入り間近”と」
「お前か!!」
商人は目を逸らした。
絶対こいつである。
すると。
宿屋の店主が、おずおずと近づいてきた。
「あ、あの……」
「はい?」
「もしかして、“喫茶ミナト”の……?」
「……はい」
瞬間。
食堂がざわついた。
「本物だ!」
「黒薬の人!」
「黄金の甘味の!」
「なんでプリンの方まで有名なんだよ!」
すると。
一人の冒険者が勢いよく立ち上がる。
「頼む! 一杯だけでも!」
「ここ宿屋なんだけど!?」
だが。
周囲も完全に乗り気だった。
「俺も飲みたい!」
「王都じゃ予約半年待ちって聞いたぞ!」
「まだ店開いてないから!」
どこでそんな話になってるんだ。
すると。
セシルが静かに目を逸らした。
「……王都の貴族社会で、若干過熱しておりまして」
「若干?」
「“喫茶ミナトの席を確保できる者が真の上流貴族”みたいな流れが」
「意味が分からん!」
カフェでマウント取るな。
するとアリシアが苦笑する。
「あり得ますね」
「止めて?」
「王都の貴族、流行には弱いので」
嫌な予感しかしない。
その時。
食堂の隅にいた疲れた顔の男が、ふらふら立ち上がった。
目の下に隈。
書類を抱えている。
完全に社畜だ。
「あの……」
「はい?」
「王城文官なんですが……」
「うわ、本物だ」
「もし可能なら、黒薬を……」
「仕事帰りのサラリーマンみたいなテンションだな」
すると文官は、死んだ目で呟いた。
「三日徹夜でして……」
「異世界にもあるんだ、徹夜」
「会議が終わらなくて……」
「つらい」
妙に共感してしまった。
すると。
リリアが小声で言う。
「店主、今すごく優しい目してます」
「他人と思えないんだよ……」
結局。
俺は宿屋の厨房を借りて、簡単にコーヒーを淹れることになった。
「なんで旅先でも営業してるんだろ」
「もう運命ですね」
「嫌な運命だなぁ」
だが。
コーヒーを飲んだ文官は、数秒後。
「……生き返る」
と呟いた。
「ただのカフェインです」
「ありがとうございます……本当に……」
めちゃくちゃ感謝された。
すると。
周囲の客たちも次々集まってくる。
「俺も!」
「こっちも頼む!」
「プリンは!?」
「宿場町でプリン要求するな!」
気づけば。
宿屋の食堂は、完全に『喫茶ミナト』状態になっていた。
騒がしい。
でも。
皆ちょっと楽しそうだ。
すると。
宿屋の店主が、ぽつりと言った。
「……なるほど」
「?」
「あんたの店、ただ飯食う場所じゃないんだな」
その言葉に。
俺は少しだけ考える。
……まあ。
そうかもしれない。
すると。
店主は笑った。
「王都、大変そうだな」
「今から怖いです」
すると周囲の全員が頷いた。
なんでだよ。
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