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異世界でカフェを開いただけなのに、なぜか英雄扱いされています  作者: 断捨離
第1章 街外れのカフェ編

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第21話 王都への道


 出発の日。

 朝早いというのに、『喫茶ミナト』の前には大勢の人が集まっていた。


「多くない?」


 俺は馬車の前で引き気味だった。

 騎士。

 冒険者。

 商人。

 街の住民。

 常連客たち。

 なんなら泣いている人までいる。


「店主ぅぅぅ!」


「黒薬を忘れないでくれぇ!」


「プリンも頼むぞー!」


「帰省する家族みたいな空気やめよう?」


 数週間でここまでなるとは思わなかった。

 すると。

 リリアが荷物を抱えながら小さく笑う。


「愛されてますね」


「圧が強い愛情だなぁ」


 その時。

 騎士団長が近づいてきた。


「護衛の準備は整っている」


「本当に護衛つくんだ」


「当然だ」


 見ると、街道用の騎士が数人待機していた。

 王都まで同行するらしい。

 コーヒー屋に対する扱いではない。

 するとアリシアが苦笑する。


「店主、今かなり重要人物扱いですよ?」


「未だに納得してないんだけど」


「もう諦めてください」


 最近、皆それを言う。

 その時。

 レオンが大きな地図を広げた。


「では改めて道程を確認します!」


「仕事熱心だなぁ……」


「王都までは七日」


「長いな」


「途中、三つの街へ寄ります」


「へぇ」


「そして既に、その街でも“喫茶ミナト”の噂が広がっています」


「なんで?」


「情報網です」


 商人ネットワーク怖い。

 するとセシルが小さくため息をつく。


「昨日も、“黒の賢者はいつ到着するのか”という問い合わせが王城に……」


「だからその呼び方!」


 だが。

 もう誰も訂正を聞いていなかった。


________________________________________


 出発直前。

 俺は、店の前へ立つ。

 見慣れた木の看板。

『喫茶ミナト』

 最初は本当に、小さな店だった。

 異世界で生きるため。

 仕方なく始めたカフェ。

 でも。

 いつの間にか、人が集まって。

 笑って。

 落ち着ける場所になっていた。

 すると。

 後ろから、小さな声が聞こえた。


「店主」


「ん?」


 孤児の少女だった。

 今日も来ていたらしい。

 少女は、少し不安そうに言った。


「……王都行っても、お店なくならない?」


「なくならないよ」


「ほんと?」


「ああ」


 俺は笑う。


「ちゃんと戻ってくる」


 すると少女は、安心したように頷いた。


「……よかった」


 その姿を見て。

 胸の奥が、少し温かくなる。

 その時。

 騎士団長が馬車へ乗り込みながら言った。


「店主殿」


「はい?」


「そろそろ出発だ」


「了解」


 俺も馬車へ向かう。

 すると。


「店主ー!!」


 後ろから、大声が飛んだ。

 振り向く。

 街の人たちが、手を振っていた。


「王都でも頑張れー!」


「黒薬広めてこい!」


「プリン頼むぞー!」


「だから薬じゃないって!」


 最後にツッコみ返すと、皆が笑った。

 その笑い声を聞きながら。

 俺は、ふっと息を吐く。

 ……まあ。

 少しくらいなら。

 王都へ行くのも悪くないかもしれない。

 そう思いながら。

 馬車はゆっくり、街を出発した。



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