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異世界でカフェを開いただけなのに、なぜか英雄扱いされています  作者: 断捨離
第1章 街外れのカフェ編

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第20話 旅立ち前夜


 王都行きの日程が決まった。

 三日後。

 ついに、この街を出る。


「……なんか実感ないな」


 閉店後。

 俺はカウンターを拭きながら呟いた。

 するとリリアが、食器を片付けながら頷く。


「私もちょっと不思議です」


「王都ねぇ……」


 異世界最大の都市。

 王城。

 貴族街。

 巨大市場。

 正直、まだ半分くらい観光気分だった。

 すると。


「店主殿」


 騎士団長が真面目な顔で言った。


「王都はこの街ほど平和ではない」


「急に不安になること言うな」


「人も多い。欲望も多い」


「うわぁ都会」


 異世界でも同じなのか。

 するとアリシアが苦笑する。


「ですが、面白い場所でもありますよ」


「そうなの?」


「新しい文化が集まりますから」


「食べ物とか?」


「はい。各地の料理もあります」


「それは楽しみ」


 ちょっとテンション上がった。

 するとリリアがじーっとこちらを見る。


「店主」


「ん?」


「顔が分かりやすいです」


「仕方ないだろ。食文化は大事なんだ」


 料理人としては当然である。

 その時。

 レオンが、大量の紙束を抱えて現れた。


「店主殿!」


「うわ増えてる」


「王都店の候補資料です!」


「仕事熱心だなぁ……」


 机へ積まれる大量の書類。

 地図。

 店舗図面。

 客層分析。

 なんか急に現実感が出てきた。


「……本当に店出すんだな」


「もちろんです!」


 レオンは目を輝かせている。


「王都飲食史の転換点ですよ!」


「まだそこまでの実感ないんだけど」


「いずれ分かります」


 商人は断言した。

 すると。

 セシルが、ふっと真顔になる。


「実際、王都ではかなり期待されています」


「そんなに?」


「はい」


 彼女は指を折りながら数え始める。


「不眠気味の貴族」


「長時間労働の文官」


「徹夜続きの魔導師」


「社会問題かな?」


 異世界ブラック社会だった。

 すると。

 セシルは少し疲れた顔で言った。


「王都、休むの下手な人が多いんです」


「……」


「なので、“喫茶ミナト”みたいな場所は珍しいんですよ」


 その言葉に。

 俺は少しだけ考える。

 前世でもそうだった。

 忙しい人ほど、休み方が分からなくなる。

 だから喫茶店へ行く。

 少しぼーっとする。

 コーヒー飲む。

 それだけで、なんとか次の日も頑張れる。

 ……まあ。

 そういう場所は、確かに必要かもしれない。

 すると。

 リリアがぽつりと言った。


「店主って、“頑張れ”より“休め”って言いますよね」


「そうだっけ?」


「よく言ってます」


 アリシアも頷いた。


「だから皆、安心するんだと思います」


「……」


 少しだけ照れくさい。

 そんな立派なつもりはない。

 でも。

 ブラック企業時代、休めなかった経験はある。

 だからせめて。

 ここへ来た人には、少しくらい落ち着いてほしい。

 そう思ってるのかもしれない。

 その時。

 カラン、と扉が開いた。


「こんばんは!」


 入ってきたのは、いつもの孤児の少女だった。

 最近ちょくちょく来るようになっている。


「いらっしゃい」


「えへへ」


 少女は嬉しそうに笑う。

 そして。


「これ!」


 小さな花束を差し出してきた。


「ん?」


「おみおくり!」


「……」


 少し、不意打ちだった。

 すると少女は慌てて言う。


「また帰ってくるんだよね!?」


「……ああ」


 俺は笑って頷く。


「ちゃんと戻ってくるよ」


 その瞬間。

 少女はほっとした顔で笑った。

 その様子を見て。

 店内の空気が少し柔らかくなる。

 すると。

 騎士団長が静かに呟いた。


「もう、この街にとって必要な店だな」


「また大げさな」


「大げさではありません」


 アリシアも微笑む。


「皆、“帰ってくる場所”だと思っていますから」


 その言葉に。

 俺は少しだけ店内を見回した。

 木のカウンター。

 漂うコーヒーの香り。

 騒がしい常連たち。

 笑っている客。

 ……異世界で、なんとなく始めたカフェだった。

 でも。

 気づけば。

 ちゃんと、“居場所”になっていた。

 その事実が。

 少しだけ、嬉しかった。


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