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異世界でカフェを開いただけなのに、なぜか英雄扱いされています  作者: 断捨離
第1章 街外れのカフェ編

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第15話 宮廷魔導師、来店する


 王都の視察団。


 その情報が流れた翌日。


『喫茶ミナト』の前は、朝から妙な緊張感に包まれていた。


「おい、来るらしいぞ……」


「宮廷魔導師だって……」


「やっぱり黒薬の調査か……!」


「国家機密扱いされるんじゃ……」


「やめてくれ本当に」


 俺は開店準備をしながら頭を抱えた。


 ただのコーヒーなんだけど。


 なぜ国家規模の話になっているのか。


 すると。


 リリアが窓の外を見ながら言った。


「店主」


「ん?」


「すごい人数です」


「え?」


 外を見る。


 ……いた。


 店の周囲に、妙に野次馬が多い。


 冒険者。


 商人。


 街の住民。


 完全にイベント扱いされていた。


「なんで見物客いるの!?」


「歴史の瞬間だからでは?」


「歴史じゃないんだよなぁ」


 その時。


 通りの奥から、馬車の音が聞こえてきた。


 高級そうな白い馬車。


 金の装飾。


 護衛付き。


 そして。


 止まった。


『喫茶ミナト』の前に。


「来た……!」


 周囲がざわめく。


 馬車の扉が開いた。


 最初に降りてきたのは、年配の男性だった。


 白髪。


 ローブ。


 杖。


 いかにも“魔法使い”って感じである。


 続いて、貴族らしき男。


 さらに秘書っぽい女性。


 視察団、本当に来てしまった。


 白髪の男は店を見上げる。


「……ここか」


 低く落ち着いた声だった。


 すると周囲がざわつく。


「あの人……」


「宮廷魔導師長だ……!」


「え、トップ!?」


 なんでトップが来るんだよ。


 もっとこう、中間管理職的な人じゃないの?


 すると。


 魔導師長らしき男が、ゆっくりこちらを見る。


 目が合った。


 鋭い。


 完全に“本物”の強者だった。


 だが。


 次の瞬間。


 ぐぅぅぅ……


 腹の音が響いた。


「…………」


「…………」


 空気が止まる。


 すると。


 魔導師長は静かに咳払いした。


「……朝食を抜いてきた」


「普通のおじさんだ!」


 周囲の緊張が、一気に崩れた。


 リリアが吹き出しそうになっている。


 アリシアは口元を隠して肩を震わせていた。


 すると魔導師長は、少し気まずそうに言った。


「店主殿」


「はい?」


「まずは、“黒薬”をいただけるだろうか」


「コーヒーです」


「……うむ」


 訂正された。


 だが納得はしてなさそうだった。


 俺はため息をつきながら、カウンターへ案内する。


「どうぞ」


「失礼する」


 魔導師長が座る。


 その瞬間。


 店内の全員が緊張した。


 無理もない。


 王国トップクラスの魔法使いが、街のカフェに来ているのだ。


 だが。


「店主」


「ん?」


「プリンも頼めますか?」


「甘い物好きなんですか?」


「……嫌いではない」


 ちょっと照れていた。


 ギャップがすごい。


 数分後。


 俺はいつも通りコーヒーを淹れていた。


 豆を挽く。


 湯を注ぐ。


 香りが広がる。


 魔導師長の眉が、ぴくりと動いた。


「……ほう」


「?」


「魔力が落ち着く」


「リラックス効果かな」


 すると。


 後ろにいた秘書らしき女性が、小声で呟いた。


「やはり精神安定系の秘術が……」


「入ってません」


 即否定した。


 だが誰も信じていない顔である。


 やがて。


 コーヒーとプリンを置く。


「どうぞ」


「いただこう」


 魔導師長は、まずコーヒーを一口飲んだ。


 静寂。


 そして。


「……なるほど」


 低く呟く。


「頭が澄む」


「カフェインですね」


「身体の疲労感も薄れる」


「気のせいでは?」


 だが。


 魔導師長は真剣だった。


「魔力循環が滑らかになる感覚がある」


「気のせいでは!?」


 いや、あるのかもしれない。


 リラックスで集中力が上がるとか。


 でも。


 絶対そこまで大層なものではない。


 すると今度は、プリンを一口。


 その瞬間。


 魔導師長の動きが止まった。


「…………」


 店内が静まり返る。


 皆が見守る。


 そして。


 魔導師長は、ゆっくりスプーンを置いた。


「店主殿」


「はい?」


「これを王都へ持ち込むのは危険だ」


「えっ」


 空気が凍る。


 やばい。


 なんか怒られる流れ?


 だが。


 魔導師長は真顔で続けた。


「貴族社会が壊れる」


「そっち!?」

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