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異世界でカフェを開いただけなのに、なぜか英雄扱いされています  作者: 断捨離
第1章 街外れのカフェ編

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第14話 王都行きの準備


 結局。


 その日は午後だけ店を開けることになった。


「負けた……」


 俺はカウンターで遠い目をしていた。


 するとリリアが、慣れた手つきでコーヒーを運びながら言う。


「店主、顔が死んでます」


「定休日とは何だったのか」


 午後営業だけのはずだったのに、店は大盛況だった。


 むしろ普段より混んでいる気さえする。


「休み明けの黒薬だ……!」


「染みる……!」


「生き返る……!」


「コーヒーなんだよなぁ……」


 もう訂正する気力も薄れてきた。


 すると。


 カウンター席で騎士団長が深く頷く。


「やはり違う」


「何がです?」


「一日空いただけで、ありがたみが分かる」


「限定商品みたいに言うな」


 だが周囲の客たちも真剣に頷いていた。


 怖い。


 その時。


 レオンが帳簿を抱えながら店へ入ってきた。


「店主殿!」


「また仕事増えそうな顔してる……」


「王都行きの日程ですが――」


「もう決まってるの!?」


 話が早い。


 するとレオンは当然のように言った。


「馬車の手配、宿の確保、王都側への連絡は済ませました」


「有能すぎる」


「商機は速度が命です」


 完全に仕事のできる商人だった。


 しかも。


「王都の貴族街に、仮店舗候補もあります」


「待って」


「内装案もあります」


「待ってって」


「あと、“喫茶ミナト王都店”の看板案も――」


「進める気満々じゃねぇか!」


 店内の客たちが盛り上がる。


「おおお!」


「ついに王都店!」


「賢者様の伝説が広がる!」


「だからなんでそうなる!」


 だが。


 レオンは真面目だった。


「今なら勝てます」


「何に?」


「市場です」


 商人怖い。


 するとアリシアが、少し呆れた顔をする。


「レオンさん、少し落ち着いてください」


「ですがアリシア様! これは歴史的転換点ですよ!」


「歴史?」


「王都の飲食文化が変わります」


「そんな大げさな……」


「いえ、本当に」


 レオンは断言した。


「“コーヒーを飲みながら会話を楽しむ空間”」


「“甘味を味わいながら休む文化”」


「これは王都になかったものです」


 そう言われると、少し不思議な気分になる。


 前世では当たり前だった。


 カフェも、喫茶店も。


 休憩も。


 雑談も。


 でも、この世界では違うのかもしれない。


 すると。


 リリアがぽつりと言った。


「この世界、意外と“休む”のが下手なんですよね」


「……あー」


 なんとなく分かる。


 騎士も。


 冒険者も。


 商人も。


 みんな常に張り詰めている。


 だから。


 コーヒー飲んで一息つくだけで、妙に感動されるのだ。


 すると騎士団長が真顔で言った。


「実際、店主殿の店ができてから騎士団の空気はかなり変わった」


「そうなの?」


「以前は、休憩中も皆気を張っていた」


 だが今は違う。


「“とりあえず喫茶ミナト行くか”で空気が緩む」


「便利な合言葉みたいになってる」


 すると。


 アリシアが静かに微笑んだ。


「だから王都でも必要とされるんですよ」


「……」


「きっと、この店みたいな場所を求めている人がたくさんいます」


 その言葉に。


 少しだけ、胸が温かくなった。


 ……まあ。


 悪い気分ではない。


 その時だった。


 外から大声が響く。


「大変だぁぁぁ!!」


「また!?」


 最近、本当に多い。


 飛び込んできたのは、冒険者ギルドの職員だった。


「王都から視察団が来るぞ!」


「……は?」


 店内が静まり返る。


 職員は息を切らしながら叫んだ。


「“黒薬”と“黄金の甘味”を調査するため、王都の貴族と宮廷魔導師が来るって!」


「なんで魔導師まで来るんだよ!?」


 すると。


 騎士団長が重々しく呟く。


「……ついに国家案件か」


「違うから!!」

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