第13話 休業パニック
「知らんがな!!」
俺のツッコミが、通りに響いた。
だが。
騎士団長は真顔だった。
「笑い事ではない」
「いや笑うだろこんなの!」
「冒険者ギルドで軽い騒ぎになっている」
「なんで?」
「“黒薬の備蓄を独占した者がいる”という噂が出た」
「終わってるなこの街」
定休日一日で治安悪化してるんだけど。
すると騎士団長は腕を組む。
「商人同士でも争いが起きかけた」
「コーヒーで!?」
「落ち着けと言ったのだが、“騎士団は備蓄しているだろう”と疑われてな」
「お前ら備蓄しようとしてたよね?」
「…………」
「目を逸らすな」
絶対やろうとしてた。
すると。
後ろからアリシアが小さくため息をつく。
「だから言ったでしょう」
「何を?」
「この店、もう街の一部なんです」
「重いんだよなぁ……」
ただのカフェなんだけど。
するとリリアが真顔で言う。
「街のライフラインですね」
「コーヒーを水道扱いするな」
だが。
騎士団長まで頷いていた。
「実際、兵士たちの士気に影響が出ている」
「そんなレベル!?」
「“今日は飲めないのか……”と落ち込んでいた」
「ただの常連なんよ」
完全に朝の喫茶店依存である。
すると。
通りの向こうから、また別の声が聞こえた。
「店主ー!」
走ってきたのはレオンだった。
息を切らしている。
「大変です!」
「また!?」
最近ずっと大変である。
するとレオンは、深刻な顔で言った。
「王都で、“喫茶ミナト閉店説”が流れています」
「早すぎるだろ情報!」
「商人ネットワークを甘く見てはいけません」
「そこ強いなぁ……」
異世界なのに情報速度だけ妙に高い。
するとレオンは続ける。
「既に、“黒薬の供給が止まる前に契約を”と動き始めた商会もあります」
「コーヒーを資源扱いするな」
だが。
誰も笑っていなかった。
本気である。
本気でコーヒー市場が形成されつつある。
怖い。
するとアリシアが、少し考えるように言った。
「……逆に考えれば」
「ん?」
「それだけ、この店が必要とされているということです」
「プレッシャーになる言い方やめて」
胃が痛い。
しかし。
騎士団長も静かに頷く。
「店主殿」
「はい?」
「貴殿は、人を集める」
「コーヒーの匂いに釣られてるだけでは?」
「違う」
珍しく、騎士団長の声は真剣だった。
「皆、“ここへ来れば安心できる”と思っているのだ」
「……」
「だから休みで不安になる」
その言葉に。
俺は少し黙った。
周囲を見る。
騒がしい常連たち。
毎日来る騎士。
笑っている冒険者。
楽しそうに働くリリア。
静かにコーヒーを飲むアリシア。
……確かに。
いつの間にか、この店は“居場所”になっていたのかもしれない。
すると。
リリアがぽつりと呟く。
「店主」
「ん?」
「そろそろ開けます?」
「え?」
「外、かなり並んでます」
「は?」
慌てて窓を見る。
すると。
店の前に、めちゃくちゃ列ができていた。
「なんで!?」
「休みだから諦めると思ってました」
「俺もそう思ってたよ!」
しかも。
「店主ー!」
「お願いだ、黒薬を……!」
「プリンでもいい!」
「最後の一杯を……!」
「末期患者みたいになってる!」
もう駄目だこの街。
すると。
アリシアが、肩を震わせて笑い始めた。
「ふふっ……」
「え?」
「あはは……っ」
初めて見るレベルで笑っている。
侯爵令嬢なのに。
「……店主」
彼女は涙を拭いながら言った。
「もう諦めた方がいいと思います」
「何を?」
「英雄扱いを」
「嫌です」
即答だった。




