第12話 定休日なのに人が来る
翌朝。
店の扉には、しっかり張り紙を出していた。
『本日、定休日』
完璧である。
これで今日は休める。
ゆっくり寝て、のんびり仕込みでもして、王都行きの準備を――
コンコン。
「店主ー! 開いてますかー!?」
「開いてないです」
即答だった。
まだ朝だぞ。
なんで来るんだ。
すると外から、残念そうな声が聞こえる。
「そ、そんな……」
「黒薬が……」
「今日は仕事にならない……」
「依存症患者多すぎない?」
俺はベッドの上で頭を抱えた。
すると隣の部屋から、リリアがひょこっと顔を出す。
「店主」
「ん?」
「多分、今日はずっと来ますよ」
「嫌すぎる予言やめて」
だが。
その予言は当たった。
コンコン。
「店主! プリンだけでも!」
「休みです!」
コンコン。
「せめてコーヒー豆を……!」
「卸売店じゃない!」
コンコン。
「一口だけ!」
「駄目です!」
昼前には、完全に撃沈していた。
「休めないんだけど!?」
俺は机に突っ伏した。
するとリリアが、少し呆れた顔をする。
「人気店ってそういうものです」
「いや絶対違う」
定休日に客が押しかけるカフェとか嫌すぎる。
その時。
カラン、と扉が開いた。
「こんにちは」
「普通に入ってきた!?」
アリシアだった。
なんで自然に入店してるのこの人。
「今日はお休みだと聞いたので」
「聞いてて来たの?」
「はい」
「貴族の圧が強い」
すると彼女は小さく笑った。
「安心してください。今日は客ではありません」
「じゃあ何?」
「差し入れです」
そう言って、彼女は籠を差し出した。
中には大量のパンや果物。
「おお……!」
「店主、感動してます」
「だって異世界で差し入れ文化あると思わないじゃん」
しかも高そう。
絶対うまいやつだ。
するとアリシアは店内を見回した。
営業中とは違い、静かな空間。
椅子も整えられている。
コーヒーの香りだけが、ほんのり残っていた。
「……こうして見ると、本当に普通のお店ですね」
「営業中だと普通じゃないみたいな言い方」
「実際、普通ではありません」
即答だった。
するとリリアが、小さく頷く。
「騎士団長が朝から来てましたし」
「来てたの!?」
「“本当に休みか確認したかった”そうです」
「なんでだよ!」
完全に常連の行動では?
だが。
アリシアは少し考えるように言った。
「皆、不安なんだと思います」
「不安?」
「ええ」
彼女は静かに窓の外を見る。
「この街は最近、色々ありましたから」
魔物被害。
治安悪化。
ギルド対立。
貴族の空気も悪い。
そんな中で。
「この店だけは、安心できる場所だった」
「……」
「だから、閉まっていると少し落ち着かないのでしょう」
その言葉に。
俺は少し黙った。
……そんな大したことはしていない。
ただ店を開けて。
飯作って。
コーヒー淹れてるだけだ。
でも。
それだけで、安心できる場所になることもあるのかもしれない。
すると。
リリアがぽつりと言った。
「店主、顔がちょっと嬉しそうです」
「気のせい」
「にやけてます」
「気のせいだって」
否定したが、アリシアまで微笑んでいた。
その時。
外からまた声が響く。
「店主ー!!」
「また来た!?」
扉の向こうから、騎士団長の声。
「緊急事態だ!」
「嫌な予感しかしない!」
俺は半ば諦めながら扉を開けた。
すると。
騎士団長は真剣な顔で言った。
「街中で、“喫茶ミナト休業による黒薬不足”が問題になっている」
「知らんがな!!」




