第10話 王都の招待状
プリンを出して三日後。
『喫茶ミナト』は、さらにおかしくなっていた。
「プリン三つ!」
「白の黒薬とセットで!」
「お持ち帰りできますか!?」
「容器がない!」
もう完全に甘味店である。
しかも女性客が一気に増えた。
冒険者だらけだった店内に、商人の娘や街娘まで来るようになっている。
リリアがぽつりと言った。
「店主」
「ん?」
「今、この街で一番人気のお店ですよ」
「やめてくれ。胃が痛い」
俺はぐったりしていた。
すると。
カラン、と扉が開く。
入ってきたのは、見覚えのある鎧姿だった。
騎士団長である。
「店主殿」
「また来た」
「失礼だな」
でも最近、本当に常連なんだよなこの人。
騎士団長はカウンターへ座ると、真面目な顔で言った。
「今日は個人的な用ではない」
「その時点で嫌な予感しかしない」
すると彼は、一通の封筒を取り出した。
白い封蝋。
金色の紋章。
見るからに偉そう。
「……何これ」
「王都からの正式招待状だ」
「帰りたい」
まだ開けてもいないのに疲れた。
周囲の客たちがざわつく。
「王都!?」
「ついにか……!」
「賢者様が中央へ……!」
「だから違うって!」
だが騎士団長は真面目だった。
「内容は二つ」
「二つもあるの?」
「一つは、ローゼンベルク侯爵家から」
アリシアが少し気まずそうに目を逸らした。
お前関係しているのか。
「王都での出店協力」
「あー……」
レオン商会経由だろう。
予想はしていた。
「そしてもう一つ」
騎士団長が、一瞬言葉を区切る。
「王城からだ」
「…………は?」
店内が静まり返った。
いや待て。
今なんて言った?
「王城?」
「うむ」
「なんで?」
「知らん」
「知らんのかい!」
騎士団長まで困惑していた。
するとアリシアが、小さく咳払いする。
「……おそらく、“黒薬”の件かと」
「その呼び方やめよう?」
「最近、王都でも噂になっています」
「なんでだよ……」
「騎士団の集中力向上」
「不眠改善」
「精神安定効果」
「だからコーヒーだって!」
だが。
客たちは完全に納得顔だった。
「やはり国家レベルの秘薬……」
「王家が目をつけるのも当然か……」
「賢者様すげぇ……」
「違うんだよなぁ……」
俺は頭を抱えた。
しかし。
アリシアは少し真面目な顔になる。
「ですが、悪い話ではありません」
「そう?」
「王家からの招待は、普通なら一生に一度あるかどうかです」
「いらないかなぁ……」
「しかも断ると大問題になります」
「急に怖いこと言うじゃん」
異世界、権力が重い。
すると騎士団長が腕を組んだ。
「安心しろ」
「何が?」
「護衛は我々が担当する」
「行く前提なんだ」
もう逃げ道がない気がしてきた。
その時。
レオンが静かに笑った。
「ですが、これは大きな機会でもあります」
「機会?」
「ええ」
商人は指を立てる。
「王都には、数十万人の人間がいます」
「多いな……」
「つまり、客も数十万人です」
「商人の目だ」
完全に金の計算をしている。
だが。
リリアまで、少し楽しそうだった。
「王都、行ってみたいです」
「お前まで」
「大きな図書館もありますし」
「あー、エルフって本好きそう」
「あと美味しい店も多いと聞きます」
「食い気も強いな?」
最近、だいぶキャラが分かってきた。
するとアリシアが微笑む。
「もし王都へ来るなら、案内しますよ」
「侯爵令嬢直々に?」
「ええ。常連ですので」
「常連って便利な言葉だなぁ」
だが。
少しだけ。
本当に少しだけ。
王都への興味が湧いていた。
巨大な街。
新しい食材。
新しい料理。
新しい客。
面白そうではある。
すると。
騎士団長が真顔で言った。
「店主殿」
「はい?」
「王都でも、我々騎士団への黒薬供給を――」
「それは断る」
即答だった。
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