第16話 暗雲の金星
「BARレッサー」での密談を経て、一行はついに地球を後にした。
目指すは灼熱の惑星・金星。
そこにはアパッチが愛してやまない「旧時代の遺産」が眠っているという。
しかし、宇宙の旅は平穏なものではなかった。
未知の加速、そして静寂の中で語られる、依頼主・真矢博士の危うい真実。
カイとリング、二人の絆が試される中、銀色の船「オクトパス」は時空の裂け目へと飛び込んでいく。
地球を出て、宇宙怪獣と激戦のあとワープ航法に入る「オクトパス」
「野郎ども、歯を食いしばれ! 舌を噛んでも知らねえぞ!」
アパッチの怒号とともに、操縦席のレバーが最深部まで押し込まれた。
「オクトパス」の全身を覆う派手な電飾が、七色から白銀の光へと一変する。
超重力エンジン:オーバードライブ
キィィィィィィィィィィン――。
鼓膜を突き刺すような高周波が船内を支配した。
次の瞬間、窓の外の星々が「点」から「線」へと引き延ばされる。
視界の崩壊
「う、うわあああっ!?」
カイはシートに体がめり込むような重圧に襲われた。
視界が歪む。空間そのものが洗濯機に放り込まれたように捻じ曲がり、光の粒子が猛烈なスピードで背後へと流れていく。
それは「加速」という生易しいものではなかった。
まるで宇宙という布地を無理やり引き裂き、その裂け目に飛び込んでいくような、暴力的な感覚。
「重力偏角、マイナス40! 時空境界線を突破するぜ!」
アパッチの叫び声さえ、引き延ばされてスローモーションのように聞こえる。
リングは凄まじいGに耐えながら、静かに目を閉じていた。鋼の精神で、内臓が裏返るような不快感をねじ伏せている。
虚無の領域、一瞬の静寂。
全ての音が消え、船外は真っ白な光の奔流に包まれた。
質量を持たない光の川を、オクトパスはタコのようにその四肢(放熱板)をくねらせながら泳いでいく。
「……これが、ワープ……」
カイの震える声が、真空に近い静寂の中に響く。
宇宙の法則を無視し、数年の距離を一足飛びに超える禁断の技術。
船体はミシミシと悲鳴を上げているが、超重力エンジンの鼓動だけは力強く、一定のテンポで刻まれていた。
ワープから数時間。船内が安定期に入ると、カイは一人、窓の外を流れる銀河を見つめていた。背後から近づく静かな足音に、彼は振り返ることなく口を開く。
「……ねえ、リングさん。真矢博士って、本当に信じていい人なの?」
「……どういう意味だ、カイ」
リングがカイの隣に立ち、同じ闇を見つめる。
「アパッチさんが言ってた『マッド・サイエンティスト』って言葉が引っかかって。恩人なのは分かったけど、地球連合の人間が、なぜわざわざ僕たちにその、レオン将軍を助け出させるんだ?」
「博士は元々何処に属するタイプではないが、天才故に、命も狙われる可能性は高い、隠れ蓑としては、最高レベル。連合と言う、資金力、武力が必要なのだと思う。博士の目的は、常に研究にある。万物を超えた宇宙の心理を解きあかすという、現実的な連合という組織の論理とは、元より噛み合っていないのだ」
長い金髪を片手でかき上げるリング。
「彼女は言っていた。『レオン将軍がコキュートスに幽閉されているのは、彼が、連合を束ねれば、この戦は平和解決出来る大きな鍵になる。だから、失敗すると、以降数千年は、この世界は戦場解かすだろうと、博士は危惧している…。しんじりれないか……?」
申し分ない気持ちのカイ
「疑ってすまない。リングを信じるよ。」
「ワープ出るぞ!!カウント、3……2……1……」
ドォォォォォォォンッ!!
凄まじい衝撃と共に、白い世界が弾け飛んだ。
目の前に広がったのは、漆黒の宇宙ではなく――煮え滾るような黄金の雲海だった。
厚い硫酸の雲に覆われ、地獄の業火に焼かれた惑星。
アパッチの故郷、金星だ。
「……ふぅ、到着だ。計算通り、二日分の距離を一気に食ってやったぜ」
アパッチが汗を拭い、不敵に笑う。
だが、その視線の先――
金星の分厚い雲海を割って、惑星共和国ライコウの部隊が、宇宙空港にお出迎えしており、数条の赤いレーザー照射がオクトパスを捉えた。
ついに始まった宇宙の旅!
今回はSFの醍醐味である「ワープ航法」の臨場感にこだわりました。単なる移動ではなく、空間が捻じ曲がる暴力的な感覚をカイの視点を通じて表現しています。
また、リングが語った「数千年の戦場」という言葉……。平和の鍵を握るレオン将軍の重みが、より一層際立つ回となりました。
ようやく辿り着いた金星で、待ち構えていたのはまさかの共和国ライコウ部隊。
次回の第16話では、アパッチの秘密基地を舞台に、因縁の再会と伝説の「装甲艦マキシマム」がついにその全貌を現します。
どうぞお楽しみに!




