第八十話 決着
……う、うぅ……。
…………痛い。
……なにがどうなったんだ?
……そうだ……凄い衝撃で後ろへ吹っ飛ばされたんだ。
俺はうつぶせで倒れこんでいるのか。
全身が火傷したかのように熱くて痛い。
立ち上がるどころか動けそうすらない。
ピクリと動かすだけでも痛い。
おそらく衝撃で壁に叩きつけられたんだろうな。
これは全身骨折ってやつじゃないか……。
……視覚は大丈夫のようだ。
ジェルは生きてるか?
…………いた!
だが地面に倒れているようだ。
意識はないであろうが死んではいない。
勇者は?
…………遠くに立ってるのが勇者か。
やはり強かったな。
魔剣を手にしてないということは砕け散ったか。
……こっちに向かって歩いてきてる?
まだそんな力があるのか。
そうだよな、俺が生きてる限りは負けだもんな。
早くとどめをささないとな。
…………まぁそれは不可能なんだけどな。
あれだけの攻撃をくらってジェルも俺も死んでないということがその証拠だ。
そして勇者をよく見ると脇腹から血が溢れ出ている。
ほら、そんな状態で歩けるわけもなくすぐに倒れこんだじゃないか。
それに今もジェルの傍には守るようにミルクがいる。
俺のところに来るにはミルクの横を通らなければならない。
「にゃ~」
ん?
俺の傍にはココアがいてくれたのか。
どこか傷口を舐めてくれてるようだが感覚がなくて気付かなかった。
声をかけてやりたいが苦しくて声が出せない。
ココアがここにいるとなると魔道士は……あそこで倒れてるな。
こちらも勇者と同じく出血多量のようだ。
回復魔法を使ってないということは意識を失ってるんだろう。
そのうち血の海になるんじゃないか。
今の勇者の状態でミルクとココアを倒せるとは思えない。
二人の傷から察するにミルクとココアの配合は成功したみたいだ。
魔剣との配合がな。
魔剣犬と魔剣猫となって格闘場に来たのは戦闘開始直前だ。
ジェルも同じタイミングで俺の後ろに現れるようにアイリに頼んでおいたから二匹が格闘場に来てるのはわかっていた。
念には念を入れて魔剣と配合する前のただの犬と猫の状態の二匹と魔道士を会わせもした。
気付くとしたら勇者よりも魔道士のほうだろうからな。
そして魔道士が一度帰ったときに二匹には地下一階に戻ってきてもらった。
レファに預けたのはそのときだ。
魔道士が二匹の変化に気付く可能性も考えてたが、ベビーとサクラへの反応を見て確信に変わった。
途中、ベビーが退場するというハプニングはあった。
目的がわからなくなった俺を励ましてくれたりもした。
俺とジェルだけになったこともありすぐに助けに入りたい様子も見られた。
だがあくまでただの弱いペットとして振る舞うように言ってあった。
俺が合図を出す最後の瞬間まではな。
勇者と魔道士は俺とジェルのことしか頭になかっただろうからな。
それに攻撃だけに集中してた瞬間でもあった。
ミルクとココアのことは完全におとなしいペットと思い込んでたはず。
死角からしかも魔剣級の攻撃はさすがに予想できない。
そのせいで勇者の剣の軌道が少し逸れたんだろう。
おかげで俺とジェルは生き延びることができた。
ミルクは噛みついたのかな?
ココアは爪で引っ掻いたのかもしれない。
そして今、勇者と魔道士は瀕死状態。
魔剣の攻撃を直にくらってただですむはずがない。
まぁそんなこと言ってる俺も死にそうなのは間違いないがな。
どうやらジェルの回復を待ってる余裕もなさそうだ。
引き分け狙いだとしてもそこまで俺の体が持つ保障はない。
だからとどめをさそうと思う。
「コ……コア」
残り少ない力を振り絞ってココアを呼ぶ。
「にゃ~」
「た……の……んだ」
「にゃ~!」
こんなに声が出なくなるものなのか?
意識はハッキリしてきてるのに。
喉が潰れてしまってるのかもしれない。
ココアはミルクの元に行き、なにか話しているようだ。
そしてミルクは勇者、ココアは魔道士に警戒しながら近寄っていく。
ある程度近付いたところで二匹が臨戦態勢に入る。
その直後、二匹は二人に飛びつきかかった。
…………なにっ!?
二匹はなにか壁にでもぶつかったかのように跳ね返された。
魔法防御か?
いや、二人がなにかした様子はない。
だとするとなんだ?
「ヤマト」
俺を呼ぶ声がする。
この声は……
「ごめんね。約束守れそうにないや」
アイリだ。
俺の横に来て座り込んだ。
……なぜここにいる?
「ア……イ…………リ」
「無理しないで。喋らなくていいから」
そんなこと言ってる場合じゃないだろ?
「このままだとあの二人は死ぬ」
「……」
「でもね、元々あの二人が巻き込まれたのは私のせいなの」
「……」
「だって私が勇者になってれば二人はこの世界に来ることなかったんだもん」
それを言ったらなにもかもが変わらないか?
俺とアイリは戦うことになってたんだろ?
そっちのほうが俺は嫌だったぞ?
「だから二人には元の世界に戻ってもらう」
なにを言ってるんだ?
それはつまり俺に死ねと言ってるのか?
それでアイリはどうなる?
生き残れるのか?
「違うの。今ね、私は反則をしたの」
「は……」
「戦いが始まったら私はなにもしちゃダメだったんだけど、二人を守るために手を出しちゃったもん」
「……」
「あれね、いつもの卵なの」
「え……」
「正確には卵や宝箱に使ってる技術ね。あれって空間能力の応用だから」
なにを言ってるのかさっぱりわからない。
「ヤマトは寿司職人とモンスターに好かれる能力でしょ?」
「……」
「私はガチャ職人の他に空間を自由に操れる能力をもらったの」
空間を自由に操れる?
それを卵や宝箱に使ってる?
卵の大きさよりも大きなモンスターが入れたのはその空間能力のおかげだっていうのか?
確かにいつも持ち歩いてる袋みたいだなとは思ってはいたけどさ。
それを作る技術がアイリにはあるというのか?
「だから今あの二人はある意味隔離された空間にいるの」
隔離された空間?
どこかで聞いた話だな。
……まさに今俺たちがいる空間がそれなんじゃないのか?
「勘のいいヤマトならわかると思うけど、この空間は私が作り出したの」
「!?」
やはりそうなのか!
卵や宝箱以外にそんな使い方もできるのか。
でもそうなると…………もしかして……
「うん。いつも改装してたのは私」
「な!? うっ……ゴホッゴホ」
「無理しないで。まだ少し時間はあるから」
俺が神様に頼んでた改装は全部アイリがやってくれてたということか!?
そんな能力チートすぎるだろ……。
でもなんで教えてくれなかったんだ?
昨日のことといい、秘密が多すぎじゃないか?
「私の制約はガチャに関する以外の能力を誰にも知られてはいけないこと」
「え……」
「だから言いたくても言えなかったの」
「……」
「ごめんね。知ってたらもっとやりたいことあったよね? でもここの地下限定でしか使えない能力だったから」
なんで謝るんだよ……。
制約なんだから仕方ないじゃないか。
「ヤマトにいつ気付かれるか不安だったんだよ?」
「……」
「バレたらその時点で私はこの世界からいなくなるし」
「な……」
制約ってのはそんなに厳しいのか?
でもそれを俺に話してるということはやはりアイリは……
「実はね、一目見たときからこの人とは戦えないって思ったの」
「……」
「勇者になるのをやめたのだってそう」
「……」
「でもガチャにハマってたのは本当だよ?」
「……」
「たぶん私はヤマトとただずっといっしょにいたかっただけなの」
……くそっ。
声を出せないことがこんなにツラいこととは。
今話せなければアイリはどこかに行ってしまう。
おそらく二度と会えないんだろう。
「でもやっぱりヤマトに人を殺してほしくない」
「……」
「だからこの二人を元の世界に戻して私もどこかに行く」
「え……」
「死ぬようなことはないと思うから心配しないで」
死ぬわけではないのか。
少し安心はしたがそうじゃない。
俺はアイリにどこにも行ってほしくないんだ。
「ヤマトも二人と同じように元の世界に戻れると思うけどどうする?」
「え……」
「たぶんヤマトはもう少し時間もらえると思うから考えてみて」
俺も元の世界に戻れるのか?
でもその世界にアイリはいないんだろ?
それなら戻る理由がないじゃないか。
それに俺はアイリやレファたちとこの世界で生きるって決めてたのに……。
「もう時間みたい。ミルク、ココア」
「わんわんわんっ!」
「にゃ~にゃ~!」
二匹の目からは涙が流れている。
犬や猫が泣くのを初めて見た。
もしかして配合により知性が身についたからか?
アイリがいなくなることを理解してるんだ。
「ヤマトのことお願いね。もちろん他のみんなのことも」
「わんっ!」
「にゃ~!」
せめてお前たちはアイリに付いていってやってくれよ。
そのくらいのサービスはないのか?
この世界にだって連れて来れたんだろ?
「ヤマト、じゃあ行くね」
「ア……イ……リ!」
「短い間だったけど楽しかった…………大好きだよ」
「待……て! アイリ!」
俺が最後に声を振り絞った瞬間にアイリは消えていなくなった。
同時に勇者と魔道士の姿も消えたようだ。
格闘場にはミルクとココアの鳴き声だけが響き渡っている。




