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闇ガチャ、異世界を席巻する  作者: 白井木蓮


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第七十九話 聖剣対魔剣

「サクラ死んじゃった……」


 ジェルも寂しそうだ。

 あれだけ仲良くなってたんだから当然か。

 仲間モンスターも俺たちと感情は同じだもんな。


 なぜか急に昔飼ってた犬のことを思い出した。

 亡くなったときは子供心にも凄く悲しかったのを覚えている。

 それから俺はペットを飼うことをやめた。


 だが仲間モンスターはペットのようでペットじゃない。

 れっきとした仲間だ。

 しかも俺の代わりに戦ってくれてる。

 こんな思いをしてまでなぜ戦う必要があるんだ。


 ……俺も元の世界に戻りたいんだったらもっと必死になってるか。

 勇者たちからしたらサクラはただのモンスターだ。

 四天王を一人倒してることから俺を倒すことにもためらいはないだろう。

 自分たちの世界に戻ればどうせそんなこと関係ないからな。

 所詮全てゲームの中の話だ。

 特に勇者は俺が転移者であることを知らないわけだし。


 制限時間いっぱいで引き分け狙いにしようかと考えていたがそう上手くはいかないか。

 想像以上にこの二人は強いようだ。

 やらなきゃやられる。


「ジェル、いけるか?」

「やるよ。それがみんなを守るためでしょ?」

「あぁ。俺とアイリが死ぬか勇者たち二人が死ぬかのどちらかだけだ」

「それなら迷う理由がない」


 魔道士は魔剣を拾いあげ、勇者に渡した。

 勇者はすぐさま魔剣の振り心地を確認してるようだ。

 その間、魔道士は俺からいっさい目を離さない。


「……さっき鳥をやったのは聖魔法ってやつか?」

「そうよ」

「そうか。それなら魔剣鳥には有効なのも頷ける」

「魔剣鳥? なによそれ? ……もしかしてこれが魔剣なの?」

「ん? 魔剣?」


 勇者は怪訝そうに魔道士を見る。

 まぁ普通は魔剣とは気付かないよな。

 サクラに聖魔法を使ったのもモンスターだから効くだろう程度の考えのはず。


「その魔剣の力は凄いぞ? 試してみるか?」

「なんやて? てかさっきまでと口調変わってんで?」

「余裕がなくなったからじゃないか? お前らは強いからな」

「余裕ないやつがそんなこと言えるわけないやろ……」

「惑わされないで! 相手は魔王なんだから!」


 別に惑わしてるつもりはない。

 余裕がないのも本当のことだ。


 ただこんなときにまで自分の存在意義が気になって仕方ない。

 勇者たちの目的が俺ならばレファたちにはなんの影響もないはず。

 そして勇者たちが元の世界に帰ればこの世界は今までと同じはず。

 だから結局この世界の住人にとっては俺が死のうがなんの問題もない。


 俺はなんのために戦ってるんだ?

 アイリのためか?

 それとも自分が死ぬのが嫌なだけか?

 俺が死ななかったとしてもこいつら二人は死ぬんだぞ?

 異世界に来てまでなんで元の世界の住人同士で戦ってるんだよ。


「……ん?」

「わんわんっ!」

「にゃ~にゃ~!」


 いつのまにかミルクとココアが足に擦り寄ってきていた。

 あまりの可愛さに思わず笑みがこぼれてしまった。

 おかげで少し気が楽になった。

 そういやこの二匹もいっしょに転移してきたんだったな。

 アイリの次に付き合いの長い二匹だ。


 ……ふぅ~、ただのゲームなんだから難しく考える必要なんてない。


「大丈夫だ。危ないから離れて見ててくれ」

「わんっ!」

「にゃ~!」


 ミルクとココアは安心したのか、脇に走っていった。

 勇者と魔道士は見とれているようだ。


「おい、決着をつけようか」

「……せやっ! はよせな時間が!」

「……一気に終わらしてあげる」


 魔道士のほうは俺の状況をわかってる分、少しためらいがあるようだな。

 それが命取りになっても知らないぞ?


「ジェル、出てこい」

「は~い」


 ここで初めてジェルが俺の前に出る。


「スライム!?」

「きれい……じゃなくてずっと隠れてたの!?」

「でもこんな弱そうなスライムが最後の切り札なんか?」

「あなた、まだ自分では戦わないの?」


 魔王が戦わないなんて聞いたことがない。

 だが俺はただの寿司職人だ。

 包丁さばきに自信はあるが剣を同じように扱うことはできない。

 つまり戦闘能力は皆無に等しい。

 だから仲間モンスターに頼るしか戦う術がない。


「俺は戦闘タイプじゃない。さっきまでの魔法は全てこのスライムによるものだ」

「……ならスライムじゃなくてこの大将倒したほうが早いんとちゃうか?」

「だから惑わされないでって! 魔王が弱いはずないでしょ!」

「せやった! 危ない危ない! うっかり騙されるとこやんか!」


 だから惑わしてるんじゃなくて本当のことなんだって。

 魔王が悪いことばかり考えてるなんて思うなよ?

 俺だってお前らと同じ普通の人間なんだ。


「なぁ、勇者に秘密にしてることが色々あるんじゃないのか?」

「ちょっと!? ないわよなにも!」

「なんや!? そんなこと言われたら気になってまうやろ!」

「魔王の声を聞いちゃダメ! ほらっ! 早く魔剣でやっちゃいなさい!」

「ホンマなんか!? なんもないんやな!?」

「ない! 仮にあっても元の世界に戻ってから時間はたっぷりあるでしょ!?」

「やっぱなんか隠してるやんか! 絶対あとで話してや!?」

「わかったから! だからさっさと勝負をつけましょう!」


 一言でここまで勝手に戸惑ってくれるとは……。


「じゃあいくで!?」

「私も同時に魔法使うけど卑怯なんて思わないでよね!」

「あぁ。化けて出たりしないから殺す気で来い」

「!?」


 こんなこと言われたら戸惑っちゃうだろ?

 特に魔道士。

 それに勇者といっても十七歳の女子高生だ。

 攻撃なんかできないだろ?


 ……なんだかとてつもない魔力を感じる……ような気がする。

 さすがにもう通用しないか。

 時間稼ぎだと思われたのかもしれない。


 勇者が魔剣を振りかぶって襲いかかってくる。

 それはサクラの魔剣だったのに。

 それにその剣に纏わりついてる電気のようなものはベビーをやったやつか?


 勇者が動くと同時に魔道士も魔法を放ってきた。

 これが聖魔法ってやつか?

 なにか魔力の塊みたいなのが飛んでくるとしかわからないが。

 サクラがやられたやつだな。


 ……あれ?

 なんだか動きがスローモーションに見える。

 まさか走馬灯ってやつか?

 俺、死ぬのか?


 いや、走馬灯ってのは記憶が駆け巡ったりするんだったな。

 これは単に相手の動きが遅く見えてるだけだ。


「ジェル、防御」

「は~い」


 こんなときでもジェルは相変わらずだ。

 一瞬で死ぬかもしれないのにな。

 ジェルの魔法による防御に勇者たちの攻撃が激突する。


「うわっ!」

「えっ!?」


 甲高い音が鳴り響いた。

 それとともに勇者は後ろへ吹っ飛ばされ、魔道士は尻餅をついた。


「ぐっ…………なんやねん今の」

「剣だ……剣で防がれた」

「剣? あのスライムが剣を持ってたんか?」

「いや、魔法の剣で防御されたんだと思う」


 魔道士は後ろから見ていただけあって気付いたようだな。


 勇者は起き上がると再び襲いかかってきた。

 だがまたすぐに後ろへ吹っ飛んだ。


「ホンマや! でも防御されたというより逆に攻撃された感じや!」

「……まさかあのスライムも魔剣を? いやそれなら聖魔法は通じるはず……」


 さすが冷静沈着な魔道士だ。

 やはり魔道士はこうじゃないとな。


 そうだ、ジェルにもサクラと同じように武器を配合した。

 ただし、魔剣じゃなくて聖剣をな。


 だから聖魔法なんて効くわけがない。

 そもそもジェルはエンジェルスライムって呼ばれてるんだぞ?

 元々聖属性だから効くどころか吸収するんじゃないのか?


 勇者の攻撃を防げたのは単に聖剣の威力が凄いんだろう。

 魔剣の闇の力であろうが勇者の雷属性の攻撃であろうが関係ないくらいにな。

 さっき魔道士の炎も防いだしな。

 つまり聖剣は最強なんだと思う。


 だがジェルの場合、回復特化だけあって防御力だけが向上した。

 攻撃力は以前といっさい変わってない。

 つまり防げはするけど倒せはしないってことだ。


 その後も勇者と魔道士は何度か攻撃をしてきたがジェルの前では意味をなさない。


「このままやと無理やな」

「そうね。時間切れになるくらいなら力を使い果たしましょう」

「しゃあない。意識飛んだとしても倒せばええんやろ?」

「えぇ。そうなったら次に会うのは元の世界かもね」

「そうか。こっちの生活もまぁまぁ楽しかったで」

「私もよ。でも私たちがいるべき世界じゃない」

「そやな。リアル体験ゲームは終わりにしよか」


 なに勝手に締めに入ってるんだ?

 負けることなんてまるで考えてないような言い方だな。

 ジェルの防御を突破できる手段をまだ隠してるというのか?


 魔道士は勇者の魔剣に杖の先をくっつけた。

 魔力を注ぎこんでいるように見える。

 次の瞬間、魔道士が持っていた聖女の杖が粉々に砕け散った。

 同時に魔剣は先ほどまでとは比べものにならない電気が纏われた。

 周りの空気までビリビリしてるのがわかる。

 勇者の持つ雷の力を増幅させたんだろう。


 ……これはヤバいかもしれない。

 もし防げなかったら黒焦げどころではすまないな。

 確実に塵になりそうだ。


「ジェル、どうだ?」

「無理かも」

「わかった」


 聖剣持ちのジェルでも防げそうにないのなら仕方ない。


 魔道士はふらふらになりながらも予備の杖を取り出した。

 本当にこの世界の袋って便利だよなぁ。

 これで勇者が俺たちを倒しきれずに力を使い果たしても魔道士がとどめをさせるわけか。

 勇者は限界まで力を高めているようだ。


 ミルクとココアは……左右に分かれて座ってるな。

 そして最後までしっかり俺のことを見てくれてる。

 賢い犬と猫だ。


「これがホンマに最後やからな!」

「そうみたいだな。後悔しないように全力でやれ」

「言われなくてもやったるわ! うぉぉぉぉ!」


 勇者が叫びながら襲いかかってくる。


「ジェル! 全力で防御だ! 全魔力を使ってもいい!」

「は~い」

「いくぞ!? ……今だ!」


 そしてジェルの全力の防御に勇者の全力の攻撃が激突した。

 次の瞬間、強い衝撃が俺を襲った。

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