第七十八話 魔王対勇者
「やっと来たみたいやな! ……小さいな。ドラゴンか?」
「このドラゴン……確かガチャ屋の入り口にいた……」
「ガチャ屋? 仲間モンスターなんか? それと小さい鳥もおるな」
「どこかで見た気が……可愛い」
「そんな強そうには見えへんし、なにしに来たんや?」
「…………来た」
先にベビーとサクラを転移させてみた。
思ったとおり、勇者たちは敵の強さを計ることはできないようだな。
そこは俺と同じだってことだ。
それを確認し、最後にアイリに頷いて見せ、俺も転移した。
「魔族か? 逃げてった四天王の一人か?」
「あなたは……確か寿司を握ってた方ですか?」
「はぁ!? あの寿司酒場の大将ってこと!?」
「たぶん……」
俺のことまでしっかり見ていたのか。
そりゃ転移者がもう一人いるとわかってたら常に警戒してるか。
しかも魔王なんだからな。
「お二人とも、こんにちは」
「え? ……こんにちは」
「……」
まだ俺が魔王とはわかっていないか。
寿司屋の大将と聞いて人間とすら思ってくれてる。
というか人間なんだけどさ。
「積もる話もおありでしょうが、時間がないんでしょう?」
「なっ!? なんで知ってんねん!?」
「昨日、今日魔王城に行かないといけないみたいな話をしてたじゃないですか」
「そやった! てことはやっぱ寿司屋の大将なんか!」
「冒険者たちの戦いを見るのが趣味なもんで」
「それなら最高の場所に店があってええやん!」
「えぇ。この子たちも勇者パーティと会えて嬉しそうです」
「ホンマか!? それよりなんでここに?」
「なぜでしょうかね? そちらの魔道士さんはお詳しいのでは?」
「え? あんたなんか知ってるん? てかなんでここに来たんやっけ?」
「…………魔王だ」
「え?」
魔道士は杖を構えた。
「ちょっ!? どういうことなん!? なんで寿司屋の大将が魔王やねん!」
「それはあとで説明するから! 早く態勢を整えて!」
勇者は言われるがままに剣を構える。
「もう始めますか? 聞きたいことはないですか?」
「ありまくりやわ! なんで急に魔王が出てくんねん! なんで寿司握ってんねん!」
「だからあとで説明するって!」
勇者は混乱しているようだ。
さすがに自分に攻撃したりはしないな。
魔道士も冷静ではいられなくなってるようだ。
そりゃラスボスが目の前にいるんだからな。
俺さえ倒せば二人の異世界生活は終わりだ。
「では始めましょう。早く倒さないと戻れなくなりますよ?」
「なんで知ってんねん!?」
「構わないで! とにかく倒すわよ!」
次の瞬間、勇者が俺に向かって一直線に襲いかかってきた。
アイリによると戦闘が開始したら格闘場は地下二階から隔離されるらしい。
つまりこれから援軍がかけつけることはない。
誰にも邪魔させたくない神様の仕業だろうな。
そんなに勇者が勝つところを見たいのか?
「ベビー」
「お任せください!」
ベビーが俺の前に出て勇者の剣を腕で受け止める。
「うぉっ!? なんやこのドラゴン!?」
「ヤマトさんには指一本触れさせません!」
ベビーにはミスリル装備を配合した。
それも剣と防具一式を全て。
今のベビーはミスリルドラゴンと言っても過言ではないだろう。
戦闘力はカイザーよりも数段上のはず。
いつのまにかベビーは俺の仲間モンスターになっていたようだ。
つまり俺やジェル、サクラと同じ色になっていたということ。
俺のことを慕ってくれてるんだから素直に嬉しい。
ミアは泣いてたけどな。
「私がやるから少し離れて!」
「了解! ドラゴン! ちょっとこっちきぃや!」
勇者とベビーは剣と腕を交えながら少し脇にいく。
そして魔道士が俺に向かってどでかい炎魔法を放ってきた。
「ジェル」
「は~い」
ジェルは俺の前に魔法で防御結界を張る。
するとそれに当たった魔道士の魔法は音もなく消滅した。
「へっ? 嘘でしょ……」
魔道士は驚いている。
簡単に防がれてショックなんだろう。
おそらく俺の魔法だと思ってるしな。
ジェルは俺の後ろに隠れてるから見えていないはずだ。
こちらからも少し攻撃してみるか。
「サクラ」
「やっとボクの出番だね」
サクラは羽を広げ、魔道士に向けて魔法で魔剣を何本か放出した。
……魔道士はなんとか避けたようだ。
「ちょっと! 危ないでしょ!」
「……こっちみたいに魔法防御したらいいのに」
「えっ!? 私にもできるの!?」
……今まで見る機会がなければ使うような機会もなかったんだろう。
上級者二人といっしょのパーティだったんだからな。
それにあの二人は魔法を使ってなかったし。
サクラはもう何本か魔剣を放出してみせる。
魔道士は見様見真似で魔法による防御結界を作り出したようだ。
それに当たったサクラの攻撃は全て防がれた。
「ホントだ! 私凄いじゃない!」
キャラが崩壊してるな……。
今まではもう一人の転移者という見えない敵を警戒しすぎておとなしくしてたのかもしれない。
それより敵を強くしてしまったのは失敗だったか?
神様による能力の恩恵か、こんなにすぐ習得してしまうとは。
サクラの攻撃を簡単に防がれるようだと少し心配だな。
……ベビーも徐々に押されてるか?
さすが勇者だ。
実践でどんどん強くなっていってるようだ。
勇者は強くなきゃ面白くない。
「サクラ、体当たりで」
「うん」
「その後は本気でいっていい」
「わかった」
俺の指示通り、サクラは凄い速さで魔道士にぶつかっていった。
あまりの速さに魔道士はなすすべなく攻撃をまともに受け、そのまま壁まで吹っ飛んでいった。
死んだか?
モッスンですら地面にめり込むんだからな。
……そう甘くはないか。
なにかしらの魔法でダメージを抑えたようだ。
すぐに回復魔法も使ってる。
レファが勇者並みに警戒をしていたわけだ。
「ギャァァァァァァァァーーーー」
「なんだ!?」
聞いたこともない声があたりに響き渡った。
……ベビーか!?
慌てて勇者と戦ってたほうを見る。
そこではベビーが地面に倒れていた。
しかも黒焦げになっている……。
なんてことだ……。
酷い後悔に襲われる。
俺が戦わせてしまったばっかりに……。
……いや、まだ生きてる。
「ジェル」
「わかった~」
……ジェルの回復魔法によりなんとか一命は取りとめたようだ。
ミスリル装備が落ちてないことがその証拠とも言える。
だが意識は戻っていない。
勇者もこれ以上攻撃しようとはしない。
そしてどこかに隠れていたのかミルクとココアがやってきて、ベビーをゆっくり端まで引きずっていった。
勇者は犬と猫の可愛さに見とれているようだ。
そんなことより勇者の攻撃のことだ。
ミスリルドラゴンを黒焦げにするなんてどれだけの破壊力だよ……。
そういやゲームでは勇者しか使えない雷系の魔法があったな。
それとも雷嵐の剣の効果か?
聖剣を手に入れさせてたらもっとヤバかったかもしれない。
というか今もヤバい状況には変わりない。
最強ドラゴンのベビーがやられてしまうくらいだ。
「ゲゲッ!」
「えっ!?」
また聞いたことのない声がした。
嫌な予感がしてサクラと魔道士のほうを見る。
…………。
地面には魔剣が転がっていた。




