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闇ガチャ、異世界を席巻する  作者: 白井木蓮


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第七十七話 アイリの秘密

「わんっ!」

「にゃ~!」

「……」


 魔道士一人か?

 一人ということは様子見に来ただけか?

 ……やっぱりすぐ帰っていった。

 ミルクとココアの歓迎に一瞬微笑んでなかったか?


 ……今度は勇者もいっしょか。


「どこやここ!?」

「静かに。見覚えあるでしょ?」

「えっ? ……格闘場か?」

「そうね。さっき犬と猫がいたのに……」


 昨日ここで散々暴れまわってたんだからさすがにこの勇者でもわかるか。


「でもなんで格闘場なんや? 魔王城ちゃうんか?」

「……」

「……誰もおらんしやっぱ戻って魔王城行ったほうがええんちゃうか?」

「……少し待とう」


 誰もいないのに待ってくれるのか?

 やはりアイリの言ってることは本当だったみたいだな。


 昨日、寝る直前にアイリから話があると言われた。

 レファにも聞かれたくない様子だったのでわざわざ地下一階に行って話をした。


 そこで聞いた話は俺が知らない話ばかりだった。

 俺が転移したときから今までアイリは秘密を抱え続けていたのだ。


 まず、勇者は転移者で間違いないということ。

 そして、あの魔道士も転移者であるということ。


 勇者は魔道士以外に転移者がいることを知らない。

 だが魔道士はアイリが転移者であるということを事前に聞かされている。

 さらにもう一人転移者がいるということも知っている。

 勇者たちの目的は魔王を倒すこと。

 大魔王ではなくて魔王だ。

 だけど三か月のリミットがあって、その最終日がまさに今日。

 魔王を倒せば勇者たちは自分たちの世界に戻れる。

 今日中に倒せなければ死ぬまでこの世界で生きていくことになる。

 二人はどんな手を使ってでも元の世界に戻りたいらしい。

 つまり二人にとっては魔王を倒せなければ死も同然ってことだ。


 ならもっと早く魔王を倒しに行けよと思った。

 だが勇者と魔道士が覚醒したのはつい最近。

 そして魔王も準備が整ったのはつい最近。

 本当に悪趣味な神様だ。

 最終日にどう決着がつくかを見て楽しんでるんだろう。


 勇者たちが元の世界に戻れたらいいなとは思う。

 でもあの神様、俺にはもう元の世界に戻れないなんて言ってたのに。

 全部嘘だったのかと思うと腹がたつ。

 だけど怒る気にまでは全然ならない。

 俺が前の世界よりこの世界で生きていきたいと思ってるからだろう。


 おそらく勇者たちも神様に目をつけられて巻き込まれただけのはずだ。

 だから二人にはぜひ魔王を倒してほしい。


 俺が魔王じゃなければの話だがな。

 魔王を倒すということは魔王が死ぬことを表している。


 アイリの話で一番驚いたのはやはり俺が魔王であるという事実だ。

 転移した瞬間……コンビニに入った瞬間から魔王だったらしい。

 しかもアイリはその瞬間からそれを知っていたという。


 その時点ではアイリは勇者。

 つまり俺と戦うことが決まってたわけだ。


 神様にとっては魔王が寿司職人であろうがガチャ屋であろうが関係ない。

 自分が楽しめればいいとしか考えていないんだろうからな。

 あの場での会話も全て演技だったってわけだ。

 誤算だったのはアイリが勇者をやめたいって言いだしたことだろう。

 だから急遽アイリを俺と同じ魔族側の人間にしたんだそうだ。

 神様も単純に興味が湧いたんだろうな。

 そもそも勇者と魔王をいきなり会わせるなよ。

 まぁ神様も初めての試みだったらしいから仕方なかったのかもしれないが。


 ただアイリは自分が勇者じゃなくなったことで俺も魔王じゃなくなったと思ってたらしい。

 実際それ以降神様からの接触はなかったみたいだし。

 だから勇者爆誕って聞いてもピンと来なかったって言ってた。

 それが不安に変わったのは勇者たちが初めてここに来た日のこと。

 料理を運んだ際に勇者だけじゃなく魔道士も転移者であることを確信したらしい。


 魔道士はアイリが転移者であることを知ってたわけだから多少不自然になっていたのかもしれない。

 だがそれを見逃すようなアイリではない。

 転移者であろう勇者と上級者二人の三人パーティと思い込んでたところにもう一人いたわけだしな。

 もちろん俺は魔道士のことにはなにも気付かなかったわけだが……。


 その日からのアイリの様子を思い出せば納得できることばかりだ。

 ずっと元気がなかったのもそのせいだろう。

 転移者が二人ということで二対二の構図が出来上がってしまったんだからな。

 俺よりも色々事情を知っていた分、勇者対魔王の決戦が近付いてることを悟っていたんだろう。


 そして一昨日の夜中、神様が接触してきたらしい。

 夢の中で会った感じだそうだ。

 それってただの夢なんじゃないだろうな?

 妄想が夢にまで出てきただけだろう。

 とか言ってみたがニコリともしてくれなかった。


 その夢の中でアイリは神様から全ての真実を聞かされたんだそうだ。

 じゃないと不公平だからな。

 これでアイリが知ってて魔道士が知らないことは一点のみ。

 俺が魔王であるということだけだ。

 勇者の知っている情報はこれまでの俺と同レベルとのこと。

 魔道士は勇者には話してはいけないという制約があるらしく、そこはアイリと立場が似ているのかもしれない。

 それを俺に話してるということはアイリにはその制約はないのであろう。


 一番疑問なのはなぜアイリがこのタイミングで俺に話したのかだ。

 俺に話しても良かったのか?

 それなら気付いた時点でもっと早く言ってくれてもよかったんじゃないか?

 それを聞いてもアイリはなにも答えてくれなかった。


 ただ一言、「私はいっしょには戦えない」とだけ言ってきた。


 だから俺はやはりアイリにもまだなにか制約があると思っている。

 そもそもアイリを戦わせようなんて思いもしないしな。

 それなのにそんな言い方をしてきたんだ。

 だがどちらにしても俺が死んでからでは意味がない。

 きっとその場合はアイリも死ぬことになるような気がする。

 俺が死んだ後もアイリがこの世界で生きていけるのならなにも問題ない。


 当然レファに戦ってもらうことも考えた。

 だけどそれでは神様は納得しないんだろうなとも思った。

 それに万が一レファがいなくなってしまったらと考えるとこわくなる。

 そんな思いをするくらいなら俺は自分で戦うことを選ぶ。

 この世界のことを考えてもレファの命は最優先されるべきだし。

 俺だけが死ねば勇者たちの目的も達成されるはずだ。


「レファ、じゃあ頼めるか?」

「うん。本当にいいんだよね?」

「あぁ。急ぎで頼む」

「……ヤマトは大丈夫なの?」

「なにも問題ない。少し話し合うだけだ」

「……わかった」


 レファはそれ以上なにも聞こうとせずに自分の作業部屋へ向かった。


 勇者たちが格闘場に来ていることはみんなが知っている。

 だがみんなは俺が魔王であることを知らない。

 レファでさえもだ。

 だからみんなからしたら勇者となんの話をするんだろうって感じだろう。


「装備は万全ですか!? ガッチガチですか!?」

「旦那! 絶対死ぬなよ!? 死んだら泣くぞ!?」

「やはりもっとモンスター連れてくべきです! 誰がいいですか!?」


 …………知らないと思ってたのは俺だけなのか?

 ジャスミン、ドーラ、ミアの三人は俺が死なないかどうかを本気で心配してくれてるようだ。

 魔王ってことは知らなくても勇者と戦いに行くってことはさすがにわかるか。

 王女もなにか言ってるようだが言葉になってない。

 昨日あれだけ泣いてたのによく今日も泣けるな。

 ばあさん二人はなにも言わずにただ見てくるだけだ。

 この二人は昔勇者パーティだったから複雑なのかもしれないな。


「安心してくれ。魔王を倒しにいくのを少し遅らせてもらうだけだ」


 俺の言葉にみんなは少しだけ安堵の表情を浮かべる。

 ……ようなことはなく、より心配そうな顔つきになった。


「アイリ」

「……うん」


 アイリは全モニターを管理している機械の電源を切った。

 これで格闘場の様子は誰にも見られないし聞かれることもない。


「ミルクとココアを頼むぞ」

「わかってる」


 アイリはそう言ってそっと抱きついてきた。

 俺も軽く抱きしめ返す。


「世話になったな」

「……死ぬみたいなこと言わないでよ」

「ははっ、そうだな。まぁやれるだけやってみるよ」

「危なそうだったら私も……」

「それだけはやめてくれ」

「……そうだね」


 アイリは俺から離れた。

 代わりにモンスターたちが寄ってくる。


「じゃあ行ってくる」


 魔王対勇者の戦いの始まりだ。

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