第四十六話 お手伝いドラゴン
「おう、兄ちゃん! 早いな! 本当にランチもやるんだな!」
「まぁな。それより昨日頼んだ通り多めにとってくれてあるんだろうな?」
「当たり前よ! ほらっ! 活きのいいのばかりだ!」
「……なかなかだな。じゃあ全部くれ」
「へい! 毎度ありぃ!」
少し感じ悪いと思われるかもしれないが俺は寡黙な大将だ。
傲慢なくらいでちょうどいい。
最近はもう価格交渉などしない。
目利きも価格もこの店のこの親父を信頼してるからな。
その後、肉屋には寄らずに帰る。
「ただいま」
「おや? おかえり。早いんだね」
出迎えてくれたのはクレアばあさんだ。
「どうしたんですか?」
「掃除をしないと落ち着かん性格でな」
「アイリはどこいったんです?」
「あの子は忙しそうだからね。掃除ならワシでもできるからな」
「そうですか、ありがとうございます」
「なんなら店員もやろうか?」
「いえ、さすがにそれは」
「残念じゃのう」
今後は夜が忙しくなるからな。
クレアばあさんには昼に疲れてほしくない。
それにアイリのほうが客も喜ぶからな。
「今のうちにゆっくりしててください」
「そうだね。じゃあご飯食べたら町でも散歩してくるよ」
聞けばクレアばあさんが町に来たのはかなり久しぶりのことらしい。
ミアといっしょに住むようになってからは初めてのことだったそうだ。
町での買い物やモンスターたちの世話もほとんどミアがやってしまうらしいし。
やることがないってのも退屈で困るよな。
だから今回の話を良かったと思ってくれてるのかもしれない。
モンスターの世話と言えばその中でも食事の準備が大変らしい。
ボスモンスタークラスではないモンスターでも食事をするとのことだからな。
つまり全仲間モンスター分の食事を準備しなければならない。
モンスターたちの主食は肉。
牧場のモンスターは全部で三十匹。
食費がとんでもないことになるはずだ。
敵モンスターの肉とかを食べることができればいいがそれはできない。
この世界では倒されたモンスターは銅貨などの金に変わるからな。
初めて丘の上のモンスター牧場に行ったときにまず思ったのは牧場が広いということ。
次に思ったのがモンスターの数が多いということだ。
だが実際には仲間モンスターは三十匹しかいなかった。
それでも十分に多いんだが。
ではなぜそれ以上に多いと思ってしまったのか。
実は牧場にはモンスター以外の生物もいたのだ。
家畜という名の牛、豚、鶏、羊などがな。
クレアばあさんとミアの収入源は牧畜だったのだ。
地下一階のモンスター牧場は丘の上の牧場よりも広い。
作業部屋やミアが住む家から見たときの奥行が凄く広くなっている。
そこにはそれぞれの家畜に合わせた小屋が並んでいる。
臭いの心配もしたが、上手く地上へ換気できてるのか近く以外では臭わない。
クレアばあさんとミアの二人だけでモンスターや家畜の世話をしてるわけではない。
なんとモンスターも家畜の世話を手伝ってるのだ。
賢くなったモンスターにはそれが可能らしい。
言葉は話せるようにはならないが、作業はしっかり覚えるみたいだ。
まぁボスモンスタークラスも結構いるみたいだしな。
つまりモンスターたちは自給自足の生活をしているわけだ。
スライムといえど働かざる者食うべからずってことだな。
牧畜を収入源としてるんだから当然肉は肉屋に卸してることになる。
俺が今まで買ってた肉もこの牧場産の肉だったかもしれない。
だから今日からは肉を買うのをやめた。
買わなくてもここにいっぱいあるんだからな。
今後も肉屋に卸し続けるかどうかについては検討中だ。
寿司酒場でも肉を使いたいしな。
それにミアたちの今後の収入源は俺から払う給料になる予定だ。
でもモンスターたちの食料のためにも牧畜は続けてもらわなければならない。
外敵を気にしなくてよくなった分、今までよりも楽に行えるはずだしな。
ミアが手伝うまではクレアばあさん一人で世話や管理をしてたんだから凄いと思う。
でもミアが来てくれて助かってるだろうな。
若いミアならこれからも仲間モンスターを増やせるかもしれない。
クレアばあさんはもうさすがに戦闘はしないだろうからな。
「ヤマトさん!」
「うぉっ!」
「なにかお手伝いすることありますか!?」
ビックリした。
……ベビーか。
階段を上って……いや、飛んできたのか。
「ここは大丈夫だから下で遊んでてくれ」
「みなさん忙しそうなんです! だから私もお手伝いを!」
いい子だな。
スライムと違って手もあるし、知性も高そうだからなんでもできそうだな。
「ずいぶんと懐かれたもんだね」
「そのようで。でも魔物使い以外の言うことも聞くもんなんですか?」
「魔物使いとの出会いはこちら側になるためのただのきっかけにすぎんよ」
つまり出会った魔物使いの仲間になりたいというよりも人間側になりたいという思いのほうが強いのか。
「ベビーの場合はどうなんです?」
「この子は生まれたときからこちら側だよ」
両親がこちら側ならその子供もこちら側になって当然なのか。
これも神様が作った設定なんだろうな。
「そうだ! 私がホールやりましょうか!?」
「……それはさすがに無理だ」
「そうですか……」
ベビーは落ち込んでしまったようだ。
アイリの代わりにドラゴンは無理がありすぎると思う。
エルフやドワーフですら嫌う人間が多いらしいのに。
……もしかして冒険者相手なら大丈夫なのか?
「冒険者たちは仲間モンスターに対してどういう感情を持ってるんでしょうか?」
「あいつらはワシらのことを羨ましがるよ」
「それは魔物使いが羨ましいってことですよね?」
「それもそうだがもちろんモンスターにもだ。ペットみたいな相棒なんて誰もが欲しがるだろ?」
「こわがったりしないということでいいですか?」
「あぁ。でも初級者が見たら驚くかもしれんが」
確かに初級者たちは魔物使いに会ったことがない者がほとんどだろうしな。
最近は町中でモンスターを見かけることもないって聞いたし。
でも要は慣れだよな?
「ベビー、今度から地下一階でホールのお手伝いをしてくれるか?」
「喜んで! ヤマトさんから頼まれるなんて嬉しいです!」
「冒険者に好かれるようにしてくれよ?」
「もちろんです! 私がみんなのアイドルになります!」
アイドルは厳しいかもしれないがマスコットにはなってくれるといいな。
マスコットと言えばミルクとココアはモンスターたちと上手くやれてるのか心配だ。
「ここはいいからミルクとココアと遊んでやってくれないか?」
「わかりました!」
ベビーは勢いよく飛んでいった。
「ドラゴンがホール担当、さらに犬や猫の遊び相手とはな……」
「ダメでしたか?」
「いや、とんでもないことを考えるもんだと思ってな……」
いっそのこと地下一階では他のモンスターたちもホール担当にしようか。
話題になって面白そうだ。




