第三十四話 闇堕ち鍛冶職人
「理由をお聞かせもらえますか? こんな格安案件のどこがいいと?」
「……依頼料金よりも内容なんです。私にはこれしか取り柄がないですから」
つまり格安でも修理さえできればいいってこと?
ドワーフらしいと言えばドワーフらしいのか?
鍛冶と建築と酒が生きがいなんだっけ?
そういや昨日の歓迎会では酒を出すのを忘れてたな……。
ジャスミンがカフェラテを持って戻ってきた。
そしてピッタリくっついてくる……。
「う~ん。他に仕事がないわけじゃないんですよね?」
「はい、魔族の方から依頼をいただいてます」
食い扶持に困ってるわけじゃなさそうだな。
本当にただ修理がしたいだけなのか?
というか思ったより普通だな。
ダークとかいうからもっと凶悪なのを想像してたけど。
ただ肌の色が薄黒くなっただけって感じだ。
魔力も黒くなるって言ってたがそれは俺にはわからん。
「なぁジャスミン、彼女は本当にダークドワーフなのか?」
「間違いありません」
やはりそうなのか。
精神的にはなにも変わっていないんじゃないかとさえ思ってしまうな。
「ダークドワーフになった経緯をお聞きしてもよろしいですか?」
失礼なことだとわかっていながらも聞いてみた。
「私はドワーフが嫌いなんです」
ドワーフが嫌い?
人間が嫌いじゃなくて?
「私は裁縫がしたかったのに……」
……さいほう?
さいほうってあの服とか縫ったりする裁縫?
ドワーフなのに鍛冶じゃなくて裁縫?
「でも小さいころから両親含め里のみんなが鍛冶と建築ばかりやらせようとしてきたんです」
それがドワーフの家業ってやつだろ?
「裁縫なんてやるな。お前は鍛冶と建築だけやればいいんだって」
確かにそれはキツイかも。
そんな人ばかりだから鍛冶も覚えずに外に出ていく者が増えたのかな。
「確かに私には鍛冶も建築も才能がありました」
自分で言っちゃう?
「でも私はどちらも大嫌いでした。それにお酒も飲めないですし」
それってドワーフとして生まれた意義の大半を否定してるよな。
反抗期だったのか?
「でも裁縫だけは好きでした」
そういやウチの商品にはローブや服っぽい防具もいっぱいあるもんな。
手袋や靴、帽子なんかも裁縫で直してたのか。
よく考えると鍛冶屋が裁縫の仕事なんてやらないよな……。
なんで疑問に思わなかったんだろう。
マドラーナは裁縫ができることも知ってて全部をこのサーラさんに任せてたのか?
……というかもしかして一人で全部やってたのか?
「私はあの里から出たくて出たくてたまらなかったんです」
なら出ればよかったんじゃないか?
と言いたいところだけど出れない事情があったんだろうな。
「でも出ていく勇気がありませんでした。人間の住む町に私一人で行くなんて無理だと思ったんです」
どう聞かされてたのかは知らないがそう思っても仕方ないんだろうな。
みんながみんなドーラみたいじゃないからな。
見た感じ戦闘力なさそうだし、なにかあったら自分の身も守れないだろう。
「日々自分の運命を呪いました」
それが積もり積もって憎しみに変わったのか。
「ドワーフとして誕生させた神様をも恨んだりました」
えっ!?
神様って言った?
……まさか神様が闇堕ちさせてるのか?
あの神様ならありえそうだ……。
「そしてある朝気付いたらダークドワーフになっていました」
なんだかしんみりしてきたな。
ジャスミンはすっかり涙してるし。
「それに気付いた瞬間、私は里を出ていく決心がつきました」
いいきっかけだったのか?
それとも後悔してるのか?
「最後に両親だけにはダークエルフになった事実を告げました」
サーラさんも両親もどんな気持ちだったんだろう……
「両親は私のことをこわがりながらも手を握ってくれました」
ダメだ、切なすぎる。
「そして……いっしょに死のうと言ってきました」
……はい?
黙って送り出してくれたんじゃなくて?
いや、娘のことを考えて娘も死にたいはずだと思ってしまったのか?
それとも親としてけじめのつもりか?
「私は両親を手刀で気絶させ、そのまま家を出て里からも離れました」
……。
気絶させただけなんだよな?
一瞬こわい想像をしてしまったじゃないか。
「それから近くの人間の町に行きましたが入れませんでした」
結界ってやつか?
やはり闇堕ちすると魔族やモンスターと同じ扱いになるのか。
「それから旅しているうちに魔王城下町に流れ着いたのです」
魔王城下町ってのが魔族の町か。
「そこでは誰もなにも強制してきたりはしません」
それは興味がないだけなんじゃないのか?
「もちろん裁縫もできますし、あれほど嫌いだった鍛冶も今は楽しくやれています」
ならダークドワーフになって良かったんだよな?
「でも依頼が少なくて物足りないんです。魔族は人間に比べるとそもそも人数が少ないですし」
魔族って魔王城とその城下町にしかいないのか?
どのくらいの人口か知らないが、多いなら人間と戦争しまくってるよな?
モンスターを生成できるのも数を補うためだったりするのか?
「だからマドラーナさんがたくさん依頼を持ってきてくださることがとてもありがたかったんです」
そこに繋がるのか。
ダークドワーフになった経緯からここに来た理由まで結局は鍛冶と裁縫なんだな。
「……どうでしょう? もう一度私に任せてもらえませんか?」
どうしようか。
こんな話を聞いてしまったら任せるしかないよな?
ここで断ったら俺のほうがよっぽど闇落ちしてるって思われそうだ。
「じゃあ半分お願いしようかな」
「半分だけですか? 私は今までより多くても全然構いませんよ?」
意外に貪欲だな。
声はずっと小さいままだからギャップがある。
「実はウチでもドワーフを雇うことになりまして」
「ドワーフですか……いいでしょう。勝負しましょう」
しないからな?
なんでそんなことしなきゃならないんだよ。
「申し訳ないですがそういうことならやはり依頼を頼むのはやめておきます」
「えっ!? そんなこと言わないでください……」
泣きそうになるのはやめてくれよ。
もっと悪くあってくれ、ダークなんだから。
するとジャスミンが耳元で話しかけてくる。
「(裁縫の技術が必要な防具だけをお任せするのはいかがでしょう?)」
「(……そうか、ドーラにはできないかもしれないな)」
「(はい。もしかしてドーラちゃんの相談というのもそのことかも)」
確かにその可能性はある。
さっきドーラは鍛冶をしてる真っ最中だったしな。
「(ドーラに確認してきてもらえるか?)」
「(わかりました)」
ジャスミンが席を立つ。
少し場を繋ぐか。
怒らして裁縫をしてもらえなくなるのも困るしな。
「あとで寿司食べますか?」
「……はい?」
「ヤマト様……」
少し強引すぎたか?
というかこの子は寿司を知らないんだった。
「好きな食べ物なんですか?」
「え……ハンバーグとかですかね?」
今時お見合いでもこんな質問しないだろうな。
少し恥ずかしくなってしまった。
階段を下りてくる音が聞こえる。
ちらりと見るとどうやらドーラが戻ってきたようだ。
……えっ!?
ドーラ!?
ドーラは来たらマズいだろ!?
ドワーフを見たダークドワーフがどういう行動に出るか予想がつかない。
マドラーナも危険を察知したのか立ち上がった。
ドーラはダークドワーフがいることがわかったのか立ち止まる。
「おい! こっちには来るな!」
だがドーラは俺の言葉を無視して駆け寄ってくる。
「アタイのことわかるか!?」
ドーラがダークドワーフに向かって大きな声で叫んでいる。
「……あなたはまさか……ドーラ!? ドーラなの!?」
どういうこと?
二人は知り合いなのか?
ドーラとサーラは抱き合い、目からは大粒の涙を流している。




