第三十一話 都会への憧れ
「何歳?」
「えっ……二十一歳……です」
「う~ん。まぁいいか。私より小さいし」
「あ、ありがとうございます」
ドーラはビビりまくっている。
レファが部屋に入ってきた瞬間から体が震えていたからな。
やはりなにか魔族特有のオーラのようなものがあるんだろう。
レファにドーラのことを紹介して、ウチに住むことになったと伝えてからのさっきの会話だ。
「(ちょっと旦那、魔王級ってのはここまでヤバいのか?)」
「そんなこと俺に言われても知らん。俺は一般人だからな」
旦那ってなんだよ?
「賑やかになっていいじゃん! 武器修理とかの鍛冶もできたりするの?」
「当たり前だろ。鍛冶できないドワーフなんかドワーフじゃねぇよ」
アイリには強くいくんだな。
「じゃあ今日から修理もお願いね! 営業終了後にね!」
「営業終了後って二十一時過ぎか!? アタイは朝早いんだから寝かせろよ!」
「ふ~ん、ならここには住めないかもねぇ」
「なっ!? そんなこと聞いてないぞ!?」
「レファ、どう思う?」
「たった三時間程度の労働でここに住めてヤマトの作る食事も食べられて給料ももらえると思ってるんなら虫がよすぎ」
さすがレファだ。
みんなが思ってることをズバッと言ってくれた。
これにはジャスミンも頷いてる。
「くっ……わかったよ、しゃあねぇなぁ」
「それとなにか外に情報漏らしたら消すから」
「…………はい」
レファちゃん?
さすがに脅しはやめような?
シャレになってないからな?
「ドーラ、実はまだ交換所は完成してないんだ。だからカウンターとか作ってもらえるか?」
「おう! そういうことなら任せとけ! アタイは建築も得意なんだ!」
元気になってくれたようだ。
ジャスミンもよく働く子って言ってたからな。
「それならガチャの増設も手伝って! 力仕事もあるの!」
「ったくしゃあねぇなぁ! そんな細い体だから力がねぇんだよ!」
口は悪いがアイリの手伝いもしてくれるようだ。
ドーラの体だってそんなに筋肉があるようには見えないぞ?
ドワーフの力はどこから出てるんだ?
「ヤマト?」
レファが服を引っ張ってくる。
いや、違うからな?
変な目で見てたわけじゃないぞ?
「レファ、マドラーナに今日から鍛冶は頼まなくてもいいって伝えてくれるか?」
「うん、わかった」
「マドラーナも仕事が少なくなっていいだろう」
ウチで一番忙しそうなのは間違いなくマドラーナだ。
朝早くからどこかに行ってるようだし、夜は店での買取も担当してるからな。
「とりあえず食事にしよう」
全員で一階に移動する。
……それにしても五人で住むには少し狭いな。
三階も作って一人一室にするか?
でもさすがに朝起きたら三階ができてたなんてのはおかしすぎるか。
近所の目もあるしな。
地下の改装だってアイリの知り合いの特殊能力で魔法のようなものだって言い張ってるからな。
アイリがガチャ職人とかいう特殊な職業だから信じてくれるのだろう。
地下だからまだなんとか誤魔化せてる部分もあるかもしれない。
もっとも神様による記憶操作が行われてるのかもしれないがな。
トイレは各階にあるからいいとしてせめて風呂だけでももう少し大きくしようか。
そう考えるとリリアンヌやマドラーナの部屋は全部揃ってるんだもんな。
いっそのことジャスミンやドーラの部屋は地下一階に作ってしまおうか。
そのほうが彼女たちも住みやすいだろう。
「うぉっ! これが寿司屋か! 一度入ってみたかったんだ!」
「うん? 入りたかったのならなんで来なかったんだ?」
「いや、一般人のところにはあまりな……」
そういやエルフやドワーフはまだ来たことないな。
やはり冒険者以外の人間が出入りするところは警戒してるのか。
「普段は外食とかしないのか?」
「酒場が多いなぁ。あとは酒場横の食堂か」
「ジャスミンもそうだったのか?」
「はい。私たちが行くと迷惑をかける可能性もありますからね」
そうだったのか。
なんて住みにくい世界なんだ。
「それならわざわざ人間が多い町で暮らさなくてもいいんでは?」
「エルフの里やドワーフの里は本当になにもないんです」
「そうだぜ。アタイの故郷なんか鍛冶と建築と酒が生きがいのやつしかいないんだ」
「エルフはみんな森の中でひっそりと暮らしたいって方が多くて」
「ドワーフも仕事以外でよそ者は受け入れないな」
「エルフもです。だから最近の若いエルフは里から外に出る方が増えています」
「ドワーフもだ。鍛冶も覚えようとしないまま外へ行くやつが多いな」
「でも人間は私たちをよく思ってませんからね」
「人間の町にも建築依頼で来てたけどよ、人間はみんなアタイらを見下してやがる」
「やはり闇落ちするのをこわがられますからね。仕方ないですよ」
「こわいとか言う割に依頼は次々頼んでくるんだぜ。そのくせ値段は足元見やがるんだ」
「それに比べて冒険者のみなさんは温かいですよね」
「だな! 特殊な技能があるアタイらを羨ましいとさえ言ってくれるしな!」
……要するに人間の生活に憧れただけだよな?
田舎者が都会に行きたがるのと同じ理由だよな?
エルフやドワーフ関係なく、華やかなところに行きたかったんだよな?
でも少なからず差別を受けていることも事実のようだ。
そんなにダークエルフやダークドワーフという存在がこわいのだろうか。
いや、ただの数の暴力だな。
人間より優れているからおそれているのかもしれない。
「ほらっ! 早く食べよっ! 時間がないわ!」
俺たちが話してる間にアイリが料理を運んでくれたようだ。
あぁ、レファも手伝ったんだな、偉い偉い。
褒めてあげないと拗ねるからな。
五人になったので、三人と二人のテーブルに分かれることになってしまった。
とりあえず俺はジャスミンとドーラと同じテーブルに座る。
明日から営業前の賄は大きなテーブルがある地下一階で食べようか。
「美味そうだな! いただくぜ!」
いただきますと同時に豪快に食べはじめたドーラ。
今日は寿司が初めてのドーラのために松セットを作った。
「……美味い。こんな美味いものがあったなんて……」
当たり前だろ。
寿司より美味いものなんてこの世に存在しない。
は言いすぎだが、それくらい美味いに決まってる。
……もしかして泣いてるのか?
俺の料理を泣くほど美味いと思ってくれたのか?
それはそれでドーラの今までの人生が不憫に思えてしまうな。
「ヤマトの作るものはなんでも美味しい。これが最低でも毎日二食は食べられる」
「寿司以外もか!? 天国じゃねぇかここは……」
さすがに天国は大袈裟すぎるだろ。
「そうですよ。だからヤマトさんのためにしっかり働いてくださいね」
「おう! なんでもやるぜ! 旦那なら夜でも朝でもいつでも相手してやる!」
……仕事の話じゃないよな?
エルフとドワーフはみんなこうなのか?
それとも神様がサービスしてくれてるのか?
どちらにしても今は後ろを振り向いてはいけない。
殺気を感じるからな。




