第二十六話 王女様再び
「いらっしゃいま……」
「あの! 昨日はすみませんでした!」
開店と同時に店に入ってきたのはなんと昨日来た王女だった。
あの名前は一度聞けば忘れない、ティラミス王女だ。
その王女が開口一番にアイリに謝罪している。
おそらく騎士の無礼な行動についてだろう。
だがアイリはそのことよりも王女がまた来たことに驚いているようだ。
もちろん俺も驚いている。
昨日の食事中は王女たちの話で持ち切りだったんだからな。
まさかまた、しかもこんなに早く来るとはな。
「……いえ、お気になさらずに。今日はお一人ですか?」
「はい! またお寿司が食べたくなりまして!」
「それはありがとうございます。カウンター席でよろしいですか?」
「はい!」
元気のいい王女だな。
王女ってのはもっとおしとやかにするもんじゃないのか?
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「松セットお願いします!」
「かしこまりました。松セットお願いします」
「はいよ」
というか王女が一人でこんなところに来て大丈夫なのか?
護衛はどうなってるんだよ。
今頃ガナッシュ王国は大騒ぎになってたりするんじゃないだろうな。
……いや、一人と決まったわけじゃないか。
「はいよ松セット」
アイリとアイコンタクトをかわす。
「お待たせしました。松セットです」
「わぁ~! 今日も美味しそうですね! いただきます!」
王女は昨日と同じように美味しそうに食べてくれている。
アイリは少しの間店の奥に消え、すぐに戻ってきた。
そして俺を見て頷く。
「今日はカニが入ってるんですね! 私カニが大好きなんです!」
王女は俺に話しかけているようだ。
「どうも」
愛想などいっさいない「どうも」だ。
会話になってなくても問題ない。
しばらく静かな時間が流れた。
王女はよほど寿司を気に入ってくれたようだ。
さすがに一人では追加はしないようだが。
それから何組か客が来たときには王女は完食していた。
他の客の注文が一通りすむと、王女はアイリを呼んだ。
まさか追加か?
「お聞きしたいことがあるんですが……」
「なんでしょうか?」
「この下の店についてなんですが」
「下の店?」
「……ガチャ屋についてです」
それを聞いた瞬間、俺とアイリは緊張した面持ちになる。
だがそれを悟られてはいけない。
俺はまるで聞こえていないかのように寿司を握り続ける。
「ガチャ屋がどうかしましたか?」
「なにか怪しい点とかないでしょうか?」
「怪しい点……ですか?」
「はい。例えば……モンスターの声が聞こえてきたりとか」
「!?」
アイリは驚く。
いや、驚いたフリをした。
モンスターが地下にいないかなんて聞かれたら普通驚くからな。
……モンスターがいることがバレたときでも驚くか。
「いえ……そのようなことはないと思うんですが……」
王女は疑いの目でアイリを見る。
「店員の方とはたまに挨拶はしますがそれだけです。冒険者の方がたくさん出入りしてて少しこわいので」
「……そうですよね。変なことを聞いて申し訳ありません」
「いえ。もういいでしょうか?」
「はい! お時間とらせて申し訳ありません」
王女はあっさり納得してくれたようだ。
そして今日は追加を頼まずに帰るらしい。
松セットでも二十貫もあるんだからな。
「ではまた来ます! ありがとうございました!」
本当にまた来てくれそうだな。
王女が帰って二十分後、ガチャ屋が開店時間を迎えた。
……今日は入ってこないようだな。
昨日、なぜ王様御一行がガチャ屋に来たのかをみんなで色々推測した。
タイミング的にも闇ガチャ屋のことが知られた可能性があると結論付いた。
考えられる原因は二つしかない。
一つは俺とアイリとジャスミンのうちの誰かが裏切った。
もう一つはボスモンスターが口を滑らしたか。
一つ目に関しては考えたくない。
なので二つ目の可能性について、マドラーナに調査してもらった。
すると、意外に簡単に原因であろうボスモンスターが見つかったのだ。
さすがにマドラーナの前では隠し事はできないということか。
どうやら冒険者と戦うときに「ガチャがやってきたぞー」と叫んでしまったらしい。
冒険者のことをガチャ引換券とでも思ってるようだ。
まぁ結果的にそうなってしまったのだが。
ガナッシュ王国の人間からしたらガチャ屋が絡んでると思って当然なわけだ。
ガチャなんて言葉ここでしか使ってないからな。
昨日のガチャ屋での録画を見直していると、王女以外の三人は店内をくまなく観察していたことに気がつくことができた。
王女は演技をしていたか、もしくはなにも知らされてなかったんだろう。
それに結局はなにも成果は得られなかったはずだから、この四人が直接来ることはもうないと思っていた。
来るとしても普通は違う人材を送ってくるはずだ。
そう考えていたところに王女が現れた。
しかも一人で。
さらにガチャ屋について質問してきた。
正直ガナッシュ王国の動きが全く読めない。
だが王女の単独行動と考えれば全て納得いく。
寿司が食べたいがための行動と思えばな。
王女が店に入ってきてからジャスミンに外を調べさせたが、特に怪しい人影などはなかったそうだ。
店を出た後も少しつけたらしいが、転移魔法陣がある方向に帰っていったとのことだった。
仮に別の誰かが来てもバレるようなことはないけどな。
むりやり家の中の階段を通って地下二階に行かれたりしない限りは。
もし地下二階に行ってしまったらもう戻ってこれないと思うけど。
そう考えると特にたいした問題でもなかったわけだ。
ただ目をつけられるのは気にくわないからな。
モンスターたちには情報管理を徹底するようしつけといてもらわないといけない。
当然厳しくな。




