第九話「第一の門」
王城――女王執務室。
昨日。
ケント、フウカ、ミサキ、サクラ。
《星の鍵》と《三つの光》が初めて揃ったことで、王城に現れた金色の亀裂。
その向こうには青空と草原。
白い塔。
そして――。
写真にも写っていた、白い服の少女。
彼女は確かに言った。
『ルミナリアへ、ようこそ。』
そして門は消えた。
翌朝。
ケント「…………。」
フウカ「…………。」
ミサキ「…………。」
サクラ「…………。」
四人は机を囲んでいた。
ケント「……で。」
ミサキ「うん。」
ケント「どうする?」
フウカ「行くんですか?」
三人の視線がサクラへ集まる。
サクラ「…………。」
ケント「陛下?」
サクラ「なぜ私を見るのです?」
ケント「この国で一番偉いから。」
ミサキ「正論。」
フウカ「私もそう思います。」
サクラ「……こういう時だけ意見が揃いますね。」
ため息。
サクラ「結論から言います。」
三人「…………。」
サクラ「現時点で、門の向こうへ行くことは許可しません。」
ケント「……ですよね。」
フウカ「よかったぁ……。」
ミサキ「妥当。」
サクラ「不満そうですね、ケント。」
ケント「いや。」
ケントは昨日、門が現れた場所を見る。
何もない。
ただの壁。
ケント「ちょっと見てみたい気持ちはある。」
ミサキ「ほら。」
ケント「でも行くとは言ってない!」
ミサキ「魔導撮影機持ってた。」
ケント「いつものことです!」
フウカ「感光媒体も?」
ケント「……入ってます。」
サクラ「準備万端ですね。」
ケント「違うって!」
一枚の写真
サクラ「ですが。」
机へ一枚の写真を置く。
昨日――門が開いた瞬間。
ケントが反射的に切った一枚。
もちろん、その場では確認できなかった。
昨夜現像したものだ。
金色の亀裂。
その向こうの白い塔。
草原。
少女。
ケント「…………。」
フウカ「綺麗……。」
北方で撮影した黒い城とは、まるで違う。
黒い城の空は赤かった。
紫色の亀裂。
巨大な竜。
不気味な世界。
しかしこちらは――。
青空。
白い雲。
草原。
花。
そして白い塔。
ミサキ「同じルミナリアなの?」
サクラ「分かりません。」
ケント「……俺もそこが気になってる。」
北の亀裂。
昨日の門。
あまりにも違う。
フウカ「同じ場所の……違うところとか?」
ケント「可能性はある。」
ミサキ「あるいは。」
ケント「?」
ミサキ「違う時代。」
ケント「…………。」
サクラ「時間そのものが異なる、と?」
ミサキ「可能性の話。」
ケント「……写真だけじゃ判断できないな。」
サクラ「ええ。」
ケントは写真を持ち上げる。
ケント「でも。」
三人「?」
ケント「昨日、俺たちが見たものは残ってる。」
フウカ「……写真に。」
ケント「うん。」
だから。
一つずつ調べればいい。
ケント「…………ん?」
フウカ「どうしました?」
ケント「この写真。」
少女を見る。
昨日は気づかなかった。
ケント「……何か持ってる。」
ミサキ「拡大できる?」
ケント「原版からなら。」
サクラ「お願いします。」
ケント「はい。」
フウカ「……。」
ケント「どうした?」
フウカ「皆さん、完全に写真の使い方に慣れてきましたね。」
ミサキ「……。」
サクラ「……。」
ケント「確かに。」
ミサキ「あなたのせい。」
ケント「なんで!?」
魔導現像室
拡大焼き。
少女の右手。
ケント「…………。」
サクラ「これは。」
少女が持っていたもの。
一枚の写真。
フウカ「写真……?」
ミサキ「向こうにも撮影機がある?」
ケント「分からない。」
さらに拡大する。
粒子が荒れる。
ケント「これ以上は厳しい。」
だが。
写真に何が写っているか――輪郭だけは分かる。
四人。
ケント「…………。」
ミサキ「人?」
フウカ「四人いますね。」
サクラ「中央に一人。そして周囲に三人。」
全員が黙った。
ケント「……俺たち?」
フウカ「まさか。」
ミサキ「でも人数は同じ。」
サクラ「断定はできません。」
ケント「うん。」
それでも。
奇妙だった。
昨日初めて門を開いたはずなのに。
向こう側の少女は、すでに四人の写真を持っていた。
第一の門、再現実験
サクラ「昨日と同じ条件を再現します。」
王城地下。
広い魔導実験室。
王宮魔術師たちは全員退室。
残るのは四人だけ。
ケント「本当に俺たちだけ?」
サクラ「星の鍵と三光に何が起きるか分かりません。」
ミサキ「人数は少ない方がいい。」
フウカ「…………。」
ケント「怖い?」
フウカ「ちょっと。」
ケント「俺も。」
フウカ「ケントさんも?」
ケント「普通に怖いよ。」
フウカ「……よかった。」
ケント「?」
フウカ「ケントさん、こういう時でも平気なのかと思ってました。」
ケント「そんなわけない。」
ミサキ「北で竜に撮影機向けてた人が何言ってるの。」
ケント「あれは……。」
サクラ「写真馬鹿だから?」
ケント「女王陛下!?」
フウカが思わず吹き出す。
サクラ「フウカ。」
フウカ「は、はい!」
サクラ「笑っていて構いませんよ。」
フウカ「……!」
サクラ「ここにいる間くらいは。」
少しだけ微笑む。
サクラ「私たちは同じものを調べる仲間です。」
フウカ「…………。」
そして。
笑顔。
フウカ「はい!」
ケント「……。」
ミサキ「何?」
ケント「いや。」
少しずつ。
三人の距離が縮まっている。
部屋の中央。
古文書を置く。
ケントが手を重ねる。
星。
フウカ。
花。
ミサキ。
剣。
サクラ。
王冠。
ケント「……いくよ。」
三人が頷く。
四つの紋章が――
光る。
ゴォォォ……。
空間が歪む。
ケント「来る……!」
金色の線。
縦に走る。
そして――。
開いた。
第一の門。
向こう側。
昨日と同じ。
青空。
草原。
白い塔。
ケント「…………。」
フウカ「本当に……。」
ミサキ「繋がった。」
サクラ「成功です。」
その時。
フウカ「……あ!」
少女。
白い塔の前。
昨日と同じ少女がいる。
そして。
歩いてくる。
ケント「…………。」
近づく。
門の向こうから。
少女が。
こちらへ。
ミサキ「下がって。」
剣へ手をかける。
少女が止まる。
門を挟んで――数歩。
顔が見える。
白銀の髪。
淡い金色の瞳。
年齢は十代後半ほどに見える。
少女『…………。』
ケント「君は……?」
少女『…………。』
フウカ「聞こえてない?」
ケント「いや。」
昨日は頭に直接声が届いた。
少女が手を伸ばす。
門の表面へ。
パチッ。
少女『……っ。』
弾かれる。
ケント「!」
ミサキ「通れない?」
サクラ「門が完全ではないのでしょうか。」
少女がこちらを見る。
そして。
再び――声。
今度は四人全員に届く。
『まだ足りない。』
ケント「何が?」
『第一の門は開いた。』
少女がケントを見る。
『でも、鍵はまだ完成していない。』
ケント「鍵……俺?」
少女が頷く。
フウカ「完成って……?」
少女の視線がフウカへ。
次にミサキ。
そしてサクラ。
『三光は揃った。』
三人の紋章が光る。
『けれど、光はまだ星と結ばれていない。』
ケント「…………?」
フウカ「結ばれる?」
ミサキ「どういう意味?」
サクラ「契約……?」
少女は答えない。
代わりに。
手に持っていたものを掲げる。
あの写真。
四人。
ケント「その写真!」
少女『…………。』
そして。
写真を――門へ押し当てる。
パァァァァッ!
ケント「うわっ!」
光。
門を越え――。
写真だけがこちら側へ落ちた。
パサッ。
全員が固まる。
少女自身は通れない。
なのに。
写真は通った。
ケント「…………。」
拾う。
一枚の写真。
ケントの手が震える。
フウカ「……ケントさん?」
ケント「これ……。」
四人が覗き込む。
そこに写っていたのは。
ケント。
フウカ。
ミサキ。
サクラ。
間違いない。
今の四人。
しかし。
服装が違う。
ケント「……。」
ケントの頭には――
冠。
フウカ「ケントさん……これ。」
ミサキ「皇帝?」
ケント「いやいやいやいや。」
サクラ「落ち着いてください。」
ケント「陛下は落ち着けるんですか!?」
サクラ「無理です。」
ケント「ですよね!?」
写真の中。
ケントの隣。
フウカ。
ミサキ。
サクラ。
三人とも。
今とは違う豪華な衣装。
そして――。
ケント「…………。」
フウカ「…………。」
ミサキ「…………。」
サクラ「…………。」
三人の左手。
同じ意匠の指輪。
ケント「…………。」
静寂。
フウカ「これって……。」
ケント「待って。」
ミサキ「……。」
ケント「まだ何も言わないで。」
サクラ「誰も何も言っていません。」
ケント「だから怖いんですって!!」
フウカの顔が真っ赤になる。
ミサキは写真を凝視している。
サクラだけは――比較的冷静だった。
サクラ「未来の写真……でしょうか。」
ケント「陛下!?」
ミサキ「その可能性はある。」
ケント「ミサキまで!」
フウカ「み、未来……。」
ケント「フウカさんまで考え込まないで!?」
門の向こう。
少女が――
少し笑っている。
ケント「おい。」
少女『?』
ケント「絶対分かってて渡しただろ。」
少女。
にこっ。
ケント「こいつ!!」
フウカ「ケントさん、相手女の子ですよ!」
ミサキ「しかも別世界。」
サクラ「伯爵としての品位を。」
ケント「なんで俺だけ怒られるの!?」
だが。
少女の表情が変わる。
笑顔が消える。
そして。
後ろを見る。
白い塔。
その遥か向こう。
空。
ケント「……?」
少女『…………。』
青かった空に。
一本。
紫色の線。
ミサキ「――!」
サクラ「まさか。」
フウカ「昨日の……?」
ケント「北で見た亀裂……!」
少女がこちらを見る。
焦っている。
『時間がない。』
ケント「何が起きてる!?」
『黒のルミナリアが――』
ノイズ。
少女の声が途切れる。
ケント「黒の……?」
『こちらを見つけた。』
その瞬間。
白い世界の空。
バキィィィン!!
紫色の亀裂。
その向こう。
巨大な赤い瞳。
ケント「……!」
北でケントを見た――
あの竜。
少女『逃げて!!』
ミサキ「全員下がれ!」
少女の声と同時。
巨大な爪が――
亀裂から現れる。
白い世界。
塔。
草原。
すべてを覆う巨大な影。
ケント「……!」
反射的に撮影機へ手を伸ばす。
ミサキ「ケント!!」
ケント「一枚だけ!」
フウカ「また!?」
サクラ「撮るのですか!?」
カシャ――!!
ケント「撮った!」
ミサキ「閉じる!」
四人が古文書から手を離す。
門が閉じ始める。
少女「――!」
ケント「待って!」
少女が何かを叫ぶ。
聞こえない。
門が細くなる。
最後。
少女の口が動いた。
ケント「…………?」
何と言った?
分からない。
そして――。
第一の門は閉じた。
静寂。
ケント「…………。」
フウカ「…………。」
ミサキ「…………。」
サクラ「…………。」
ケントの手には。
向こう側から渡された一枚の写真。
そして撮影機の中には。
今撮った――
一枚の未現像の記録。
ミサキ「……ケント。」
ケント「うん。」
ミサキ「現像。」
ケント「分かってる。」
フウカ「私も行きます。」
サクラ「当然、私も。」
ケント「……じゃあ。」
撮影機を握る。
「見に行こう。」
撮った瞬間には分からない。
だからこそ。
写真には――
まだ誰も知らない答えが眠っている。
魔導現像室
像が浮かぶ。
紫色の亀裂。
巨大な爪。
赤い瞳。
白い塔。
そして。
少女。
ケント「…………。」
フウカ「ちゃんと写ってる。」
ミサキ「待って。」
サクラ「……少女の後ろ。」
ケント「え?」
拡大焼き。
白い塔の入口。
そこ。
人影。
一人ではない。
何十人。
いや――
何百人。
ケント「人がいる……。」
フウカ「じゃあ。」
サクラ「ルミナリアには――」
ミサキ「今も人が住んでる。」
ケント「…………。」
帝国は。
本当に滅びたのか?
そして。
写真の端。
ケント「……また文字。」
金色の文字。
『第二の門を開け。』
その下。
『三光と星が、真に結ばれる時――』
続き。
ケント「…………。」
読めない。
文字が焼け落ちている。
ミサキ「またそこで切れるの?」
ケント「この世界の古文書、焦らすの好きすぎない!?」
フウカが笑う。
サクラ「笑っている場合では――」
その時。
フウカ「……あ。」
写真。
文字の横。
小さな印。
指輪。
四人「…………。」
ケント「…………。」
ケントはそっと写真を伏せた。
ミサキ「なんで隠すの。」
ケント「今日はもう帰ろう。」
フウカ「ケントさん?」
サクラ「まだ調査中です。」
ケント「明日にしよう!」
ミサキ「逃げた。」
ケント「今回は逃げる!!」
三人の笑い声。
だが。
伏せられた写真の裏側。
誰にも見えていない場所。
新しい文字が――
ゆっくり浮かび上がっていた。
『星の皇帝に、三つの誓いを。』
――第九話「第一の門」了。
次回――第十話
「三つの誓い」




