↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/11

第八話「三人、王都にて」

翌朝――。


王都アルヴェリア。


ケントは王城の正門前に立っていた。


ケント「…………遅いな。」


隣にはミサキ。


ミサキ「予定より早く着いただけ。」


ケント「そう?」


ミサキ「三十分前。」


ケント「早っ。」


ミサキ「あなたが。」


ケント「俺!?」


ミサキ「さっきから五回くらい門の外見てる。」


ケント「……。」


ミサキ「そんなに心配?」


ケント「だって。」


王城を振り返る。


巨大な門。


衛兵。


風にはためく王家の旗。


ケント「普通に暮らしてる人が、突然『女王陛下がお呼びです』って言われるんだぞ?」


ミサキ「まあ……。」


ケント「俺だったら逃げる。」


ミサキ「あなた伯爵でしょう。」


ケント「そうだった。」


ミサキ「忘れないで。」


その時――。


門の向こうから、一台の馬車がやってきた。


ケント「来た。」


ミサキ「六回目。」


ケント「数えてたの!?」


馬車が止まる。


扉が開く。


そして――。


フウカ「…………。」


金色のショートボブ。


青いリボン。


肩から下げたいつもの魔導撮影機。


だが今日は――。


表情が完全に固まっている。


フウカ「……ケントさん。」


ケント「おはよう。」


フウカ「おはようございます。」


ケント「大丈夫?」


フウカ「はい。」


ケント「……。」


フウカ「…………。」


ケント「本当に?」


フウカ「全然大丈夫じゃないです。」


ケント「だよね。」


フウカ「なんで私、王城に呼ばれてるんですか!?」


ケント「説明する。」


フウカ「私、何かしました!?」


ケント「してない、してない!」


フウカ「撮影禁止の場所を撮ったとか!?」


ケント「俺じゃないんだから。」


ミサキ「否定できないのね。」


ケント「ミサキ!?」


フウカ「……あ。」


そこでようやく気づく。


フウカ「ミサキさん。」


ミサキ「久しぶり。」


フウカ「この前ぶりですね。」


ミサキ「そんなに経ってないけど。」


フウカ「……。」


ミサキ「……。」


ケント「…………。」


別に仲が悪いわけではない。


ただ――。


まだ、お互いの距離の測り方が分からない二人。


ケント「と、とりあえず中へ行こう!」


ミサキ「露骨に逃げた。」


ケント「逃げてない!」


王城


フウカ「…………。」


歩く。


フウカ「…………。」


さらに歩く。


フウカ「…………。」


ケント「フウカさん?」


フウカ「ちょっと待ってください。」


ケント「?」


フウカ「床が綺麗すぎて、どこ歩けばいいのか分かりません。」


ケント「真ん中でいいよ。」


フウカ「この絨毯、踏んでいいんですか?」


ミサキ「そのために敷いてある。」


フウカ「でも絶対高いですよね!?」


ケント「そこ気にするんだ。」


フウカ「だって!」


そして――。


フウカの視線が上へ向く。


巨大なステンドグラス。


そこから差し込む朝日。


金色の光に包まれる回廊。


フウカ「…………。」


ケント「あ。」


この顔。


分かる。


ケント「撮りたい?」


フウカ「……めちゃくちゃ。」


ミサキ「ダメ。」


フウカ「まだ何も言ってないです!」


ケント「ははは!」


ミサキ「あなたたち、本当に似てる。」


フウカ「え?」


ケント「どこが!?」


ミサキ「そこ。」


やがて――。


三人は大きな扉の前へたどり着いた。


フウカ「…………。」


ケント「大丈夫。」


フウカ「さっきより緊張してきました。」


ミサキ「今日は公式謁見じゃない。」


フウカ「それでも女王陛下ですよ!?」


ケント「普通に話せば大丈夫。」


フウカ「ケントさんの普通を信用していいのかな……。」


ケント「なんで!?」


ミサキ「やめた方がいい。」


ケント「おい。」


扉が開いた。


女王執務室


フウカ「…………!」


そこにいたのは――。


鮮やかなピンクの髪。


赤と黒のドレス。


そして王冠。


アルヴェリア王国女王――。


サクラ・アルヴェリア。


サクラ「ようこそ。」


フウカ「…………。」


サクラ「フウカ・リーヴェルですね?」


フウカ「…………。」


ケント「フウカさん?」


フウカ「はっ!」


勢いよく頭を下げる。


フウカ「お、お初にお目にかかります、女王陛下! フウカ・リーヴェルと申します!」


サクラ「そんなに固くならなくても。」


フウカ「無理です!」


サクラ「…………。」


ミサキ「でしょうね。」


ケント「俺もそう言った。」


サクラ「私、そんなに怖いですか?」


三人「…………。」


サクラ「なぜ黙るのです?」


ケント「ノーコメントで。」


サクラ「ケント伯?」


ケント「怖いです。」


ミサキ「早い。」


フウカ「ふふっ……。」


思わず笑う。


フウカ「あっ。」


サクラ「……。」


フウカ「申し訳ありません!」


サクラ「構いません。」


サクラも小さく笑う。


そして、ケントとフウカを見比べた。


サクラ「あなたがいると、彼は随分自然に笑うのですね。」


フウカ「え?」


ケント「陛下?」


サクラ「何でもありません。」


サクラ「さて。」


空気が変わる。


机の上には――。


古文書。


そして数枚の写真。


ケントが北方で撮影したもの。


黒い竜。


空の亀裂。


黒い城。


そして――。


巨大な瞳。


フウカ「…………。」


笑顔が消える。


フウカ「これ……ケントさんが?」


ケント「うん。」


フウカ「……。」


写真を見る。


そして、ケントを見る。


フウカ「こんなところに行ってたんですか?」


ケント「……うん。」


フウカ「手紙には『仕事』ってしか……。」


ケント「心配させたくなかったから。」


フウカ「…………。」


少しだけ頬を膨らませる。


フウカ「もう十分心配しました。」


ケント「ごめん。」


フウカ「……ちゃんと帰ってきたから、今回は許します。」


ミサキ「今回は。」


ケント「次もあるの!?」


フウカ「あります。」


ケント「はい……。」


サクラ「…………。」


サクラは二人を見ている。


少しだけ――楽しそうに。


サクラ「フウカ。」


フウカ「はい!」


サクラ「あなたを呼んだ理由はこちらです。」


別の写真。


そこに写っているのは、古文書に描かれた三つの印。


花。


剣。


王冠。


フウカ「……?」


サクラ「昨日、この古文書が反応しました。」


ミサキ「剣の光は私へ。」


サクラ「王冠は私へ。」


ケント「そして花は――アステリアの方向へ飛んだ。」


フウカ「…………。」


ケント「たぶん、その時間――」


フウカ「……何時頃ですか?」


サクラが時刻を告げる。


フウカ「…………!」


ケント「何かあった?」


フウカ「私……。」


肩から下げていた鞄を開く。


そこから一枚の保護袋を取り出した。


フウカ「昨日、星降りの丘で撮影してたんです。」


ケント「一人で?」


フウカ「はい。」


ケント「……。」


フウカ「約束した場所だったから。」


一瞬――。


ケントと目が合う。


第一話。


二人が交わした約束。


――今度は一緒に。


その場所へ、フウカはもう一度足を運んでいた。


フウカ「それで……。」


写真を取り出す。


フウカ「魔導撮影機が、勝手にシャッターを切りました。」


サクラ「!」


ミサキ「勝手に?」


フウカ「はい。」


ケント「その写真……。」


フウカ「現像しました。」


机へ置く。


四人が覗き込む。


星降りの丘。


花畑。


夕焼け。


そして――。


遠くに立つ。


白い服の少女。


サクラ「…………。」


ミサキ「誰?」


フウカ「知りません。」


ケント「撮った時には?」


フウカ「いませんでした。」


ケント「…………。」


ミサキ「また。」


ケント「うん。」


肉眼では見えなかったものが、写真に写っている。


北方で起きた現象と同じ。


フウカ「それだけじゃないんです。」


写真の下。


そこには小さな文字が写っている。


『見つけて。』


ケント「……。」


サクラ「この少女。」


女王が写真を持ち上げる。


サクラ「手を拡大できますか?」


ケント「原版は?」


フウカ「持ってきました。」


ケント「ならできる。」


王城・魔導現像室


フウカ「…………。」


ミサキ「…………。」


サクラ「…………。」


ケント「…………。」


四人が並んでいる。


ケント「狭い。」


ミサキ「仕方ない。」


フウカ「女王陛下まで現像室に……。」


サクラ「気になります。」


ケント「陛下、完全に写真沼へ片足入ってません?」


サクラ「入りません。」


ミサキ「私もそう言ってた。」


ケント「お?」


ミサキ「何。」


ケント「何でもない。」


原版を拡大器へ。


少女の右手。


焼き付ける。


ゆっくりと像が浮かび上がる。


フウカ「…………!」


少女の右手。


そこには――。


円の中に、三つの星。


フウカ「これ……?」


ケント「俺と同じ。」


ケントが右手を見せる。


フウカ「…………え?」


同じ紋章。


フウカ「ケントさん、それ……いつから?」


ケント「北から帰ってきてから。」


フウカ「聞いてません!」


ケント「ごめんなさい!」


ミサキ「二回目。」


サクラ「これは怒られて当然ですね。」


ケント「味方がいない!」


フウカ「もう!」


だが――。


フウカはすぐに表情を戻した。


自分が撮った写真。


ケントの右手。


同じ紋章。


フウカ「……この子、ケントさんと関係があるんでしょうか。」


ケント「分からない。」


サクラ「ですが――」


古文書を開く。


花。


剣。


王冠。


サクラ「確認すべきことが一つあります。」


フウカ「……?」


サクラ「フウカ。手を。」


フウカ「え?」


サクラ「古文書へ。」


フウカ「…………。」


緊張しながら近づく。


ケント「大丈夫。」


フウカ「……はい。」


ゆっくりと手を伸ばす。


指先が――。


花の印へ触れた。


パァァァ――。


フウカ「!」


ケント「フウカ!」


光。


だが――熱くない。


むしろ、温かい。


柔らかな金色の光。


古文書に描かれていた花の紋章が浮かび上がる。


そして――。


光がフウカの手首へ流れ込んだ。


そこに現れたのは。


小さな花の印。


フウカ「…………。」


ミサキ「……決まり?」


サクラ「少なくとも――。」


その瞬間。


サクラの王冠が淡く光る。


続いて――。


ミサキの剣。


フウカの花。


そして。


ケントの右手に宿る三つ星。


四つの光。


互いを呼ぶように――。


呼応する。


ケント「……!」


古文書のページが勝手にめくれ始める。


一枚。


また一枚。


さらに一枚。


そして――。


止まった。


そこに描かれていたのは。


中央に立つ――。


一人の《星の鍵》。


そして。


その周囲に立つ――。


三人の女性。


フウカ「…………。」


ミサキ「…………。」


サクラ「…………。」


ケント「…………。」


全員。


無言。


ケント「……え。」


ミサキ「女性?」


フウカ「三人……?」


サクラ「…………。」


ケント「いや、待って。」


古文書へ顔を近づける。


ケント「たまたま長髪の男とか――」


ミサキ「諦めて。」


ケント「早い!」


フウカ「でも、これ……。」


三人の女性。


一人は――花を持つ。


一人は――剣を携える。


一人は――王冠を戴く。


ケント「…………。」


そっと古文書を閉じようとする。


サクラ「なぜ閉じるのです?」


ケント「なんとなく。」


ミサキ「開けて。」


ケント「はい。」


フウカ「ふふっ。」


ページの下。


文字。


今度は――。


古代文字ではない。


古文書の表面を光が走る。


そして文字が――。


彼らにも読める言葉へ変わっていく。


『三光は、星の鍵と共に歩む者。』


ケント「……。」


続く。


『花は、その心を照らす。』


フウカ「…………。」


『剣は、その道を守る。』


ミサキ「…………。」


『王冠は、その世界を導く。』


サクラ「…………。」


そして――。


最後の一文。


『四つの光が重なる時――第一の門は開かれる。』


四人「…………。」


ケント「四つ?」


サクラ「星の鍵を含めて、ということでしょう。」


ミサキ「つまり……。」


フウカ「私たち……。」


その瞬間。


四人の紋章が強く輝く。


ケント「待って。」


床を見る。


そこに――。


巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。


ケント「これ、まずいやつじゃない!?」


ミサキ「全員離れて!」


だが――。


遅い。


ドン――!!


巨大な光が天井まで駆け上がった。


王城上空


光柱が天を貫く。


王都中の人々が足を止め、空を見上げる。


そして――。


空に浮かび上がった。


三つ星。


その周囲を囲むように――。


花。


剣。


王冠。


四つの紋章が、王都の空に巨大に浮かび上がる。


王城


ケント「……!」


光が収まる。


ケント「フウカさん!」


フウカ「大丈夫です!」


ケント「ミサキ!」


ミサキ「平気。」


ケント「陛下!」


サクラ「私も。」


全員無事。


だが――。


部屋の中央。


空間が歪んでいる。


ケント「…………。」


北方で見たものに似ている。


だが。


色が違う。


あの不気味な紫ではない。


金色。


サクラ「これは……。」


ミサキ「北で見た亀裂とは違う。」


フウカ「……綺麗。」


金色の裂け目。


その向こうに――。


見える。


青空。


どこまでも続く草原。


そして――。


巨大な白い塔。


ケント「……。」


北方で見た黒い城とは正反対。


暖かな光に包まれた場所。


そして――。


塔の前。


小さな人影。


白い服。


ケント「……あ。」


フウカ「!」


写真の少女。


少女がこちらを見る。


距離がある。


声など届くはずがない。


なのに――。


四人の頭の中へ。


同じ声が響いた。


『やっと――揃った。』


ケント「…………。」


少女が微笑む。


『星の鍵。』


ケントの右手が光る。


そして――。


『そして――三つの光。』


フウカ。


ミサキ。


サクラ。


三人の紋章が呼応する。


少女は四人を見つめ――。


告げた。


『ルミナリアへ、ようこそ。』


ケント「――!」


次の瞬間。


金色の裂け目が閉じる。


消えた。


静寂。


ケント「…………。」


ミサキ「…………。」


フウカ「…………。」


サクラ「…………。」


長い沈黙。


フウカ「……今。」


ミサキ「聞こえた。」


サクラ「私にも。」


ケント「…………。」


今まで――。


あの声を聞いたのはケントだけだった。


だが今回は違う。


四人全員が聞いた。


ケント「ルミナリア……。」


サクラ「ええ。」


古代帝国ルミナリア。


遥か昔。


滅亡したとされる国。


だが――。


ケントたちは見た。


青空。


草原。


白い塔。


そして――。


そこに立つ、生きている少女。


ミサキ「……滅んでない?」


サクラ「分かりません。」


ケント「別の場所なのかもしれない。」


フウカ「別の……世界?」


ケント「可能性はある。」


サクラ「ですが、一つだけ。」


三人が女王を見る。


サクラ「王国の歴史は、間違っている可能性があります。」


古文書へ手を置く。


サクラ「ルミナリア帝国は――」


一度。


言葉を切る。


サクラ「滅亡したのではないのかもしれません。」


フウカ「……ところで。」


ケント「ん?」


フウカ「一つ聞いていいですか?」


ケント「どうぞ。」


フウカが古文書を見る。


三人の女性。


その中央に立つ、星の鍵。


フウカ「この絵って……どういう意味なんでしょう。」


ケント「…………。」


ミサキ「確かに。」


サクラ「《共に歩む者》としか書かれていませんね。」


ケント「そうそう! それ以上でも以下でもない!」


フウカ「なんでケントさんだけ必死なんですか?」


ケント「嫌な予感がするから!」


ミサキ「変な伯爵。」


ケント「またそれ言った!」


フウカ「ふふっ。」


サクラ「…………ふふっ。」


三人が女王を見る。


サクラ「失礼。」


ケント「陛下まで笑った!」


サクラ「だって。」


サクラは三人を見る。


フウカ。


ミサキ。


そして――。


ケント。


サクラ「不思議な組み合わせですね。」


ケント「……確かに。」


昨日まで――。


この四人が同じ部屋にいる未来など。


誰も想像していなかった。


でも。


ここから始まる。


まだ――恋ではない。


まだ――家族でもない。


ましてや。


帝国など、遥か未来の話。


けれど――。


後の歴史書は。


この日を、こう記すことになる。


――星暦元年。


《星の鍵》と《三光》、初めて一堂に会す。


後に、新たなるルミナリアの始まりと呼ばれる日である。


もちろん――。


この時の四人は。


そんなことなど。


知る由もなかった。


――第八話「三人、王都にて」了。


次回――第九話


「第一の門」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。