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巡るお礼とジャムづくり

「柚葉ちゃん、夏みかん持ってきたよ」


勝手口の方から声がして、顔を出すと、凪沙さんがコンテナを抱えて立っていた。

いや、抱えているというより、ほとんど引きずっていた。


中には、浅黄色の果実がごろごろと詰まっている。


「どうしたんですか、それ」

「三浦さんとこの夏みかん。

 真帆ちゃんのところに渡す分とは別に、柚葉ちゃんにもって」


凪沙さんは、どん、とコンテナを土間に置いた。

その音に、古い家の床が少しだけ震える。


「三浦さんって……あの、なつみの人ですよね?」


以前、私がPOPを作った人。

一袋売れたことを誰より嬉しそうに見ていた人。


「そうそう。真帆ちゃんのことも聞いたみたいでね。

 柚葉ちゃんがジャム作ってみたいって言ったら、庭の夏みかんを全部取ってきた」

「全部?」

「全部」


凪沙さんは、腰に手を当てて、よぼよぼとした声を出した。


「私も朝から手伝わされて……腰が痛い……」

「同い年くらいの人の疲れ方じゃないですね」

「夏みかんは重いんよ。人生と同じくらい」

「適当なこと言ってます?」

「適当だけどホントに重いんよ」


凪沙さんは悪びれずに言った。


私はコンテナの中をのぞき込んだ。

つやつやしたものもあれば、少し傷のあるものもある。

店頭に並べるには不揃いなのかもしれない。


でも、近づくと、ほのかに爽やかな香りがした。


「三浦さん、怒ってませんでしたか?」

「怒る?」

「なんだか、無理をさせたみたいで」


気を遣わせてしまったのではないかと思うと、少し申し訳ない。


凪沙さんは、からころと飴を鳴らした。


「口では文句言ってました」

「そう……ですよね」

「でも、あの人、文句言ってる間はだいたい機嫌いいです」

「どういう判定ですか」

「本当に嫌な時は、何も言わずに帰りますから」

「それはそれで怖いですね」


思わずそう言うと、凪沙さんはにししと笑った。


「ですからほんと、嫌ならくれませんよ。

 三浦さん、そういう人です」


私はもう一度、夏みかんを見た。

こんなにたくさん。

私がまだ何を作れるかも分からないのに。


「でも、悪いです。まだ何のお返しもできてないのに」

「お返しのお返しになりますよ」

「お返しのお返し?」

「なつみのPOP。

 それだけ三浦さん嬉しかったんです」


凪沙さんは、なぜか得意げだった。


「それにお返しなら、作ったジャムを渡すのが一番喜ぶと思います」


その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなった。


売るため。

真帆さんの店のため。

お婆ちゃんの夢のため。

そう考えると、少し怖くなる。


でも、三浦さんに一瓶渡すためなら。

あの人がくれた夏みかんで、何か作って返すだけなら。

それなら、今の私にもできる気がした。


「……試作してみます」


私はコンテナから、夏みかんを一つ手に取った。

ずしりと重い。

手のひらに、皮の凹凸が伝わる。


「味見係は呼んでくださいね」

「凪沙さん、そればっかりですね」

「大事な役目ですから」

「役目、多いですね」

「島では、食べる人がいるから作る人が頑張れるんです」

「それも今作りました?」

「半分くらい本気です」


半分。

それくらいが、凪沙さんらしかった。


私は夏みかんを台所へ運んだ。


祖母の家の古い台所。

何度もジャムを煮てきたであろう鍋。


まだ売り物にはならない。

真帆さんの店に出せるかも分からない。


けれど、まずは一瓶。

三浦さんに返すための、一瓶。


私は包丁を手に取った。

初めての夏みかんジャム作りが、始まった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!!

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