第5話 才能さえあれば
野外音楽イベントの会場。
全て、木製で、構築されている。
トーキョーの“鉄機材使用禁止”の法律にもとづき、音楽機材、照明機材等は、木製のウッド仕様となっている。
トーキョーシティは、木の温もりに溢れた場所。
自然の緑を大切にした、街作りの集大成なのである。
「もぎたて♪レモネーズのリーダー。レモンちゃんだぞ〜!皆さま、これからの音楽イベントには、たくさんの人気インディーズバンドが出てくるから。絶対に、見逃さないって約束してね〜!」
ワアアアアアッ
イベント会場に集まった観客が、盛り上がる。
「音楽イベントの前座は、私たち、もぎたて♪レモネーズが担当します!」
「皆さまー!元気に、まったり、聞いてね!」
レモンちゃん、サイダーちゃん、コプちゃん。三人娘は、大歓声の中、デビュー曲『レモン☆フラッシュ』を披露した。
第5話 才能さえあれば
2時間の音楽イベントが、大盛況のまま終了した。
すばるたち、学生は、レジャーシートの敷かれた場所に、それぞれ身体を休める。
学生と言っても56歳のすばる。
身体は、若いのだ。肩を上下させて呼吸をする程度で、すんでいる。
とにかく、スマホカメラを上手く向けることが難しかった。
あと、やはりというか、腕が疲れた。
「学生さんたち、お疲れ様です…」
トリが、クーラーボックスから、ペットボトルの水を取り出して、学生たち、一人一人に手渡していった。
「ありがとう。トリ」
「…はい」
トリは、すばるに向かって、優しく微笑んだ。
それは、とても、可愛かった。
エメラルド色の長い髪が、風に吹かれて揺れている。
「何よ。学生の分際で、メスドリなんて買ってるの?いちゃいちゃしていて、撮影はできたのかしら?」
サングラス越しに鋭い眼差しを向けるミセス・三谷だ。
腰に手を当てて、ポーズを取る。自身のもう片方の手に持っていた、ペットボトルのお茶を飲み干す。
「ミ、ミセス・三谷!ボク、頑張って撮りましたっ」
眼鏡の学生が、スマホを差し出す。
スマホを、ミセス・三谷の元に集めて、今回の野外音楽イベントを撮影した動画を確認してもらうのだ。
学生たちのスマホを片手のミニトートバッグに、入れたミセス・三谷は、「30分で確認して、返すわね」
と、言って、楽屋に戻って行った。
「才能さえあれば…」
落胆したすばるは、小声でささやく。
今回の、学生バイトの動画撮影の採用は、ゼロだった。
つまり、今日の野外音楽イベントの動画を、ミセス・三谷はNew tubeに投稿しないと決定した。
「どれも、駄目ね。本当に、才能ゼロだわ。あんたたち学生は」
冷めた口調で、ミセス・三谷は言ったのだ。
シロアニと、シロイモも下を向いている。
「これじゃ、学生写真コンテストも、きっと、また落ちるじゃーん」
シロアニは、頭を抱えて、しゃがみ込む。
「アタシたち、何で才能無いのよ〜ん。何で、才能が無いのに、夢見ちゃうの〜ん?」
半泣きのシロイモは、すばるにしがみつく。
それは、すばるも疑問だった。
何で、学生は、才能が無くても、夢を持ってしまうのだろう?
このトーキョーでは、学生は、何も考えず、勉学の日々を送るだけで良い。
しかし、すばるたちは、夢を持っている。
写真が好きだ。
スマホカメラが好きだ。
誰もが感動する写真が、撮りたい。
それは、何で、難しいのだ。
自分が綺麗に撮れたと、思うもの。それを、何で他人は認めてくれないのだ。
「学生さんたちの夢、わかります」
トリは、遠くを見つめていた。
「サッカさんも…、夢だけ追いかけてくれれば、良かったのに」




