第4話 MAD撮影
「はい。ワン、…ワン、ツー、スリー!」
鏡張りのフロアで、レオタード姿の女の娘が、三人。
トーキョーで、40年前にデビューした。幻の美少女アイドルグループ。
“もぎたて♪レモネーズ”の三人だ。
当時、18歳だった三人娘。
現在、58歳。
まだまだ、若さ爆発のボディで、軽快に、真面目に、ダンスレッスンの真っ最中である。
メンバーは、リーダーの、元気ガール・レモン。
真面目ガール・サイダー。
天然ガール・コプ。
持ち歌は、デビュー曲『レモン☆フラッシュ』のみで、いわゆる一発屋だ。
主な活動は、野外イベントの前座である。
第4話 MAD撮影
月にある、トーキョーシティ。
天気は、快晴。
絶好の撮影日和である。
撮影と言っても、トーキョーの撮影は、全て、スマホで撮る。
面倒な鉄の機材は、国民に危険が及ぶ。
トーキョーの法律で、
“危ない鉄機材の使用の禁止”が、定められている。
「今日は、野外音楽イベントの動画を撮るわよ」
ミセス・三谷が、サングラス姿で、現場入りする。
付き人は、トリ。男のオスドリだ。
オスドリは、うちわをあおいでいる。
「今日は、何人のバイト学生がいるのかしら」
「よ、四人です…」
明らかな、カメラ小僧の眼鏡学生が、ハンカチで汗を拭きながら、応えた。
「少ないわね…。この前は、15人は、いたわよね」
「よ、予定か、勉強があるんじゃ…ないでしょうか?」
「あら、そう。アタシ、楽屋で見てるから。学生四人で、スマホ撮影、頼んだわよ」
スマホを、タオルで拭きながら、すばるは思い詰めた顔になる。
「オレたち以外、バイト学生減ったのか?」
「ミセス・三谷って、バイトをこき使って、文句ばかりだも〜ん」
「逃げたいの、わかるよーん」
城田兄妹も、タオルで、スマホを念入りに拭いている。
ミセス・三谷は、自分では、スマホ撮影をしない。
編集専門の大人気女性配信者だ。
編集したものは、MAD動画と呼ばれている。
配信者のセンスで、音楽に合わせて、映像を切り替えるものだ。
これの、再生回数が、ミセス・三谷のものは、常に10万回再生を超える。
“危ない鉄機材の使用禁止”の法律があって、トーキョーでは、スマホを固定する、鉄の脚立が使えない。
スマホで動画を撮る際は、人間の手で、カメラを向け続けなくてはならない。
これが、長時間の場合、かなりの手への負担となる。
だから、この労働に、ミセス・三谷は、学生バイトを採用しているのだ。
「学生さん、大丈夫ですか?」
トリは、すばるを見上げる。
身長差があるのだ。
もちろん、人間の男子の、すばるの方が背が高い。
「トリは、休んでてくれ。家事で疲れてるだろう?」
「はい…」
「長い時間をかけるんじゃなくて、名場面になり得る、ベストショットを撮ることができれば…」
すばるは、考える。
このバイトは、ミセス・三谷が満足する、ベストショットを、カメラにおさめることが重要なのだ。
つまり、直感というか。センスというか?
わからない。
40年、素人のすばるだ。
とにかく、何度も続けてきたバイトだが、ミセス・三谷が満足する動画を、すばるは一度も撮れたことが無い。
シロアニは、一、二度、採用されたことがある。
人気のある動画を、編集できるミセス・三谷は、天才である。
才能がある人は、うらやましい。
きっと、天から授かった才能なのだろう。
ワアアアーッ
歓声が上がる。
そろそろ、野外音楽イベントがはじまるようだ。
すばる、シロアニ&シロイモは、うなづき合う。
良い動画が、撮れますように。
「…会場の皆さま、こんにちはー!」
「前座の“もぎたて♪レモネーズ”ですー!」
「皆さまを、盛り上げに来たよ!」




