第10話 ヒトリは、一人
「説得…?何が?」
すばるは、わけがわからなかった。
トトリは言った。
琥珀の宝石に眠る姉・ヒトリと、トーキョー都知事の藤子作加は、恋人同士であった。
才能は、無くとも。
画家になる夢を持ったサッカ。
それを、優しく見守っていたヒトリ。
都議員の息子と、伝説の不死鳥。
不釣り合いの二人。
ケンカも多かった二人。
でも、二人は、愛し合っていた。
他の男が現れなければ…。
「…絵の才能のある、他の男に乗り換えたバカなメスドリの話ですかな?トトリ」
ボサボサ頭のサッカが、ツカツカと靴音を立てながら、歩み寄ってきた。
「あのメスドリは、すぐ裏切る、最低なメスドリですからな」
第10話 ヒトリは、一人
40年前。
不死鳥の研究が、完了して、トーキョーの時の流れが止まった。
国民は、歳を取らなくなり、永遠の世界が約束された。
その時。
一人の見習い画家が、自ら描いた、一枚の絵画を、トーキョー美術館に寄贈した。
題名、
『永遠の天使』
エメラルド色の髪、エメラルド色の瞳の、女の娘の肖像画だった。
それは、ラフ画。
布切れが少しあるだけの、女の娘のヌード画であった。
女の娘は、どこからどう見ても、不死鳥・ヒトリ本人がモデルになったように瓜二つの絵だった。
『永遠の天使』の絵は話題となった。
その完成度。
美しい色使い。
トーキョー美術館には、その絵を見たい来館者で、大にぎわいとなった。
「あのメスドリ。才能のある他の男に、全裸をさらしたのですよ。なんて、ハレンチなのか」
サッカは、ヒトリを散々ののしって、別れた。
そして、琥珀の宝石に、閉じ込めて、眠らせた。
永遠に時を止める、砂時計の部品にした。
「バカなメスドリでも、不死鳥ですからな。永遠システムの役には立ちますよ」
「…ひどい」
トトリは、悲しそうに、すばるを見上げた。
すばるは、その意味がちょっとわからなかった。
トーキョーの都知事。
大人。
不死鳥?
時の流れが、止まった都市。
ただの学生として、40年以上学生生活を送ってきた。森田すばる。56歳。
夢は、写真家になることだったが、才能は無い。
時の止まった、この街では、学生は、アルバイトしかできない。職業につけない。
でも、それで良い。
夢を持ったまま、叶うことも無く、老けていくよりも、今の方が全然、マシだ。
そのトーキョーを、維持してくれる偉い大人たちには、感謝するべきだ。
「サッカさんは、良いことをしてるんじゃないのか?」
「え?」
すばるの思わぬ一言に、トトリは戸惑った。
「サッカさんは、偉い大人だろ。トーキョーのために、身を粉にして働いてくれる大人だろ。オレたち、国民は、感謝の気持ちしかない」
「国民が、偉い大人を悪く言うこと無いよーん」
「何か、恋愛事情があるみたいだけど、アタシたち部外者には、何も言えないわよ〜ん」
「…そうですね。学生さんたちに、突然、こんな話をしても意味がわかりませんよね」
ドレスコードのトトリは、薄布の手ぶくろをした両手で、祈るように手を組んだ。
浮気なんてしない。
ただ、姿を見られた。
才能ある他の男は、錬金術技術者の一人の息子。
その錬金術技術者は、クビになった。
サッカは、ヒトリを捨てた。
恋人に信じてもらえず。
一人、眠る、姉・ヒトリ。
それを、助けたいという気持ち。
部外者には、他人の恋愛話なんて、遠い彼方なのだ。
ピピッ
地下の錬金術研究所に、機械音が、鳴り響いた。
「…どうした?」
「都知事。琥珀宝石の火力発電数値が、急上昇しています」
「…またか…」
巨大な琥珀の砂時計が、全体を紅く染め上げた。
不死鳥の火力暴走である。




