第66話
レジェンズ一周年祭当日イベント会場――
大きなトラブルもなく、イベントは無事に終了した。
スタッフとして最後の片付けまで参加していたラビィは、仕事をしながらずっとそわそわしていた。
テロスの姿は、いつの間にか会場から消えていた。
(帰った……よね)
会いたい気持ちと、会ったらどうしようという気まずさがぐちゃぐちゃに絡まる。
結局フィニスともほとんど話せないまま、ラビィは足早に帰宅した。
部屋に入ると、いつもなら真っ先に端末を手に取る。
けれど今日は違った。
「……今日は、やめとこ」
ベッドに倒れ込む。
心も体もくたくたで、気付けばそのまま眠っていた。
⸻
翌朝。
昨日よりは、ほんの少しだけ覚悟ができた気がする。
整理がついたのか、ただ諦めただけなのかは分からない。
「おはよう……ございます」
恐る恐る開発室へ入ると――
ナナミ、マヤ、ショーン、努が固まってコソコソ話していた。
そしてラビィの姿を見た瞬間、全員がピタッと黙り、同時に視線を向けてきた。
(えっ……なにこの空気)
(私、なにかやらかした!?)
心臓が嫌な跳ね方をする。
「ラビィさん、ちょっと良い?」
フィニスの声。
「は、はいっ」
ラビィはぎこちない動きで、フィニスの後に続いて別室へ入った。
ドアが閉まる。
沈黙。
「あ、あの……えっと……」
挙動不審になるラビィ。
フィニスはその様子を見て、
「フフッ……とりあえず座って」
笑いを堪えながら椅子を勧めた。
ラビィはおずおずと腰掛ける。
「いや、昨日はびっくりしたわ」
やっぱりその話だ。
「まさか、貴女とテロスが付き合ってるなんてね」
「は、はい……」
視線が泳ぐ。
「えっと……あんまり良くは……ないですよね……?」
恐る恐る聞くと、フィニスはきょとんとした。
「えっ、なんで?」
「いや、その……運営側と一般プレイヤーが付き合って、情報が流れたりしたらダメかなーって……」
真面目な顔で言うラビィ。
フィニスは静かに尋ねた。
「ラビィさんは、テロスに情報リークしてるの?」
「いえ! 絶対にしてません! 誓います!」
即答だった。
フィニスはふっと微笑む。
「なら、いいじゃない」
「……え?」
「私に別れさせる権利なんて無いわ。テロスも子供じゃないもの」
思っていた反応と違いすぎて、ラビィは目をぱちぱちさせる。
「じゃ、じゃあ……何で呼ばれたんでしょう……」
「一応ね、情報リークのことは釘をさしておこうと思って」
フィニスは椅子にもたれながら続けた。
「それと、テロスにも昨日言ったんだけど――あの子、真面目だから」
「はい」
「真剣に、とはまだ言わないわ。でも、遊び半分で誰かを傷つける子じゃない」
少しだけ姉の顔になる。
「だから、ラビィさんも……あの子を傷つけるようなことはしないであげてね。姉としてのお願い」
ラビィは背筋を伸ばした。
「はい。テロスさんとは、なかなか会えないですけど……不真面目な気持ちじゃないです。大丈夫です」
まっすぐな目。
フィニスは満足そうに頷いた。
「ふふ、なら良かった。今度は三人でちゃんと食事でも行きたいわね」
立ち上がり、ドアへ向かう。
そしてノブに手をかけたまま、ラビィに微笑みかけ――
ガチャッ!!
勢いよくドアを開けた。
「うわあああっ!!」
雪崩のように転がり込んでくる四人。
聞き耳を立てていたのが丸わかりだった。
「あ、あはは……良かったねラビィちゃん!」
ナナミが気まずそうに笑う。
「こ、今度紹介しろよな……室長の弟……」
ショーンは目を逸らしながら後退。
その隙に努とマヤはすでにダッシュで逃亡していた。
「あっ、ズルい!」
ナナミとショーンも慌てて追いかけていく。
静かになった廊下。
フィニスはやれやれと肩をすくめた。
「まったく……」
そして、まだ真っ赤な顔のラビィを見る。
「愛されてるわね、貴女」
ラビィは恥ずかしさと安堵で、へにゃりと力の抜けた笑みを浮かべるのだった。
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更新は毎日致しますが、2話更新に変更致します。
平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




