第65話
周年祭イベント会場の裏手。
華やかなステージの喧騒とは裏腹に、スタッフ用通路は段ボールや機材が積まれた戦場のような有様だった。
「次の備品、搬入口からお願いしますー!」
「モニター班、ケーブル一本足りません!」
あちこちから飛ぶ指示に「はいっ!はいっ!」と小走りで応じながら、ラビィは腕いっぱいの資料を抱えて走り回っていた。
「半年祭でも思ったけど……イベントスタッフってこんなに大変なんですね……!」
息を切らしつつ角を曲がった、その時だった。
ふと視界の先、関係者パスを下げた見覚えのある横顔が目に入る。
――え。
――え?
――えええええええ!?
(テ、テロス!? なんでここに!?)
心臓が一気に跳ね上がる。
Xmasに会った時と同じ、落ち着いた雰囲気。
けれど今日は私服ではなく、簡易スタッフジャケットを羽織っている。
(ま、まずいまずいまずいまずい!!)
反射的にラビィは近くの関係者通路のドアへ滑り込んだ。
「な、なんでいるの!? え、聞いてないんだけど!?」
小声で慌てふためくラビィの耳に、さらに最悪の展開が届く。
「すみません、関係者通路こちらです」
スタッフに案内され、テロスがこちらへ歩いてくる。
(来る来る来る来る!!)
ラビィは咄嗟に立てかけてあった大きな板の裏へ身を押し込めた。
足音が近付く。
コツ、コツ、コツ……
(お願い、通り過ぎて……!)
だが足音は止まった。
すぐ目の前だ。
見つかる。
そう思った、次の瞬間。
「あー、いたいた。姉さんコレ持ってきたよ」
テロスの声。
ラビィは「え?」と固まる。
(いま……姉さんって言った?)
恐る恐る、板の隙間からそっと覗く。
テロスが持っていた紙袋を受け取っている人物――
「ありがとう、テロス。ごめんなさいね、せっかく休みでこっちに戻ってたのに手伝わせちゃって」
申し訳なさそうに微笑むのは――
フィニスだった。
(えっ)
(ええっ!?)
驚愕のあまり、ラビィは思わず立ち上がってしまう。
ガタンッ!!
背にしていた板が大きな音を立てて倒れ、ラビィの姿が完全にさらされた。
「あっ……」
やってしまった顔で固まるラビィ。
「あら、ラビィさん。何してるの、こんな所で」
フィニスがきょとんとする。
「え? ラビィ? こんな所で何してるの?」
テロスも不思議そうに首を傾げる。
二人の視線が交差する。
「……ん?」
「……え?」
空気が止まる。
ラビィは顔を引きつらせながら、そーっと後ずさった。
「えっと……あの……わ、私はただの通りすがりのスタッフで……」
「テロス、貴方ラビィさんの知り合いなの?」
フィニスの問いに、テロスは悪気ゼロの笑顔で答えた。
「うん。一応、お付き合いさせてもらってるんだけど」
時間が止まった。
ラビィの思考も止まった。
「……あは……」
引きつった笑みを浮かべた次の瞬間。
「お、お仕事戻ります!!」
ダッシュ。
全力疾走。
「えっ、ラビィ!?」
テロスの声も聞かず、ラビィは角を曲がって消えていった。
残されたのは、紙袋を抱えたフィニスとテロス。
「ふー……やれやれ」
フィニスは小さくため息をつき、くすりと笑う。
「貴方とラビィさんがね……なるほど」
「え、なにが?」
「いいえ、こっちの話よ」
意味深な笑みを浮かべる姉に、テロスは首を傾げるのだった。
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です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




