第64話
「これで……完成ね……」
椅子の背もたれに体重を預けながら、フィニスが深く息を吐いた。
モニターの光が少しだけやつれた横顔を照らしている。
「いやー……今回もハードでしたね……」
ナナミも机に突っ伏しそうになりながらぐったりしている。
「あと残ってるのは、周年祭当日の会場運営まわりのイベント調整くらいですね……」
ショーンが資料端末を確認しながら言うと、
「今言わないで下さいっス……」
マヤが椅子に座ったまま天井を仰いだ。
そこへ、開発室のドアが勢いよく開く。
「皆さん、お疲れ様でしたー! ご飯買って来ましたよー!」
ラビィが大きな袋を両手に抱えて入ってくる。
その後ろから、少し息を切らせた努も続いた。
「努さんにスイーツ買って貰えました!」
ラビィは嬉しそうに小さな箱を掲げ、ナナミに見せる。
「こ、今回はラビィさんも本当に頑張ってたからね」
努は照れくさそうに笑った。
「良かったわねラビィちゃん。で、努くん……私のは?」
ナナミがすっと手を差し出す。
「ハハハ……ありますよ。どうぞ」
努はちゃんと用意していた箱を渡した。
「やったー!」
「食後の楽しみ確保っスね……」
ラビィとナナミは、すでにスイーツのことで頭がいっぱいの顔をしている。
その様子を見ながら、フィニスは小さく笑った。
「……レジェンズ一周年イベント、プロジェクトチーム全業務終了よ。お疲れ様」
誰からともなく、拍手が起こった。
一周年祭まで、あと五日。
⸻
そして迎えた当日。
巨大ホールに設営されたリアルイベント会場には、朝から長蛇の列ができていた。
天井から吊られた大型モニター、壁一面のキービジュアル、物販ブース、試遊コーナー。
まるでゲームの街がそのまま現実に出てきたような空間。
開発チームも今日はスタッフとして駆り出されていた。
「人、多っ……!」
ラビィはスタッフパスを首に下げながら目を丸くする。
ステージでは、レジェンズで有名なアイドルプレイヤーたちがトークで会場を盛り上げていた。
歓声と拍手が何度も波のように押し寄せる。
やがて照明が落ち、会場中央の巨大モニターに映像が映し出された。
荘厳な音楽。
雲を裂いて差し込む光。
そして現れる、かつてレガリアで語られた王の紋章。
『王権は伝説へと導かれ蘇る――』
《レジェンズ × レガリア クロスイベント》
どよめきが会場を包む。
続いて表示されるイベント概要。
⸻
《王の帰還》イベント詳細
・ 本日より2日間は陣営選択期間
・ 陣営選択期間終了より24時間後にイベントの開始
•全プレイヤーは 陣営選択期間中にレジェンズ陣営 / レガリア陣営 のどちらかを選択
•イベントの開始から終了までの3日間のメンバー編成は不可
•異なる陣営のプレイヤー同士が出会った瞬間から戦闘開始
•対戦人数の制限なし(1vs多も発生)
・ 戦闘不能時、選択陣営内へ転送。クールタイム消化後に再戦可
•イベント最終日終了時、累計撃破プレイヤー数の多い陣営が勝利
•個人累計撃破数など、各種ランキング報酬あり
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「……始まったね。ラビィちゃんのイベント」
モニターを見上げながら、ナナミがぽつりと言う。
ラビィは少しだけ驚いた顔をして、それから照れたように笑った。
「そうですね……なんか、まだ実感わかないですけど」
自分の考えた企画が、こんな大舞台で発表されている。
歓声の中にいるのに、どこか夢の中みたいだった。
ステージ上のMCが声を張り上げる。
「それでは――レジェンズ一周年祭、メインイベント!」
会場の照明が点滅し、カウントダウンが表示される。
5!
4!
3!
2!
1!
バンッ! と音を立てて紙吹雪が天井から降り注いだ。
歓声、拍手、光、音楽。
レジェンズ一周年祭――そして
《王の帰還》イベントが、ついに開幕した。
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更新は毎日致しますが、2話更新に変更致します。
平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




