第62話
「何着ればいいの……これ? いや、こっち?」
クローゼットの前で、ラビィは三着目のトップスを体に当てては戻す。
昨日の夜。
雪山でのクエストの後――
『明日、空いてる? 本物のラビィと会いたいな』
ロランから届いたその一言が、何度も頭の中で再生される。
ロランは年末で、実家のある金星へ帰省中。
そして今日は、そのロランと現実で出会う。
「……浮かれ過ぎて、ソロクエスト行くんじゃなかったぁ……」
時計を見る。
待ち合わせは12時。
「え、もう1時間切ってる!?」
大慌てで服を着替え、鏡の前へ。
「変……じゃないよね?」
右を向いて、左を向いて、深呼吸。
「よしっ!」
バッグを掴み、部屋を飛び出した。
⸻
「はぁ……はぁ……ギリギリ……セーフ……」
待ち合わせ場所に着いたラビィは、息を整えながら辺りを見渡す。
金星の街は、Xmasイルミネーションで輝いていた。
通りはカップルや家族連れで賑わっている。
(ロラン……もう来てるのかな……)
その時。
「……もしかして、ラビィ?」
後ろから声をかけられる。
振り向いた先に立っていたのは、一人の青年。
「は、はい。えっと……ロラン、だよね?」
「やっぱりラビィだ」
青年は少し嬉しそうに目を細めた。
「アバターより少し幼く見えるけど、ほとんど同じで安心したよ」
ゲーム内のロランよりワイルドさは控えめ。
その代わり、金星人らしい整った顔立ちとクールな雰囲気がある。
「うん、僕がロラン。あ、本名はテロスって言うんだ。ロランでもテロスでも、好きな方で呼んで」
「わ、私はラビィです! そのままのラビィです!」
緊張で変な自己紹介になる。
テロスは吹き出した。
「ははっ、ゲームのままだね」
「えー何それー」
頬を少し膨らませてから、ラビィも笑った。
「……ロ、テロス。今日は誘ってくれてありがとう。本当に嬉しかった」
照れながら言う。
「うん。僕も嬉しいよ、ラビィに会えて」
自然に、二人の手が触れる。
そのまま指先が絡み、手を繋いだ。
イルミネーション輝く金星の街へ、二人は歩き出す。
⸻
それから数日後。
年末年始の空気も落ち着き、日常が戻った開発室。
ラビィは席で通話端末を見つめながら、にやにやしていた。
「ラビィちゃん、またニヤニヤしてるよ」
ナナミが小声でマヤに言う。
「何かあったっスね……絶対……」
コソコソ話す二人。
コン。
「仕事中よ」
部屋へと入って来たフィニスがラビィの頭を軽く叩く。
「す、すいません!」
慌てて端末を伏せるラビィ。
「みんな、ちょっといいかしら?」
フィニスの声に、開発室の視線が集まる。
「そろそろ“レジェンズ”一周年の企画をまとめるわよ」
「闘技大会はどうです?」
手を挙げナナミが言う。
「悪くないけど、同じことはあまりしたくないわね」
「期間限定の超高難易度クエストとかはどうっスか?」
「新規ユーザーを置いてけぼりにしかねないわね」
「げ、限定装備ショップとかどうでしょう?」
努がおずおずと発言する。
「それは良いわね。採用よ」
ホッとする努。
「でも、目玉になるイベントも欲しいわね」
「超大型レイドとかどうです?」
ショーンが提案。
「どれくらいの規模で?」
「プレイヤー全員参加で!」
「マヤさん、耐えられる?」
「無理っス。即サーバーダウンするっス」
「ショーンくん、練り直し」
しょんぼりするショーン。
「ラビィさん、何か案ある?」
突然振られ、ラビィが姿勢を正す。
「で、出来るか分からないんですが……」
ラビィは自分の提案を説明する。
部屋が静かになる。
そしてフィニスが、ゆっくり頷いた。
「……それ、良いわね。あなたらしい面白い発想だと思うわ」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。実現性はこれから詰めましょう。一周年の目玉イベントはラビィさんの案でいくわ」
「はい!」
開発室の空気が一つになる。
恋も、仕事も。
ラビィの世界が、少しずつ広がっていくのだった。
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更新は毎日致しますが、2話更新に変更致します。
平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




