第60話
「どうしたの?」
粉雪まう雪原の中を走ってきた女性プレイヤーは、息も絶え絶えだった。
「はぁ……はぁ……!」
目には涙。
必死にラビィの腕を掴む。
「わ、私の彼を助けてあげて下さい! お願いします!」
震える指が、雪山の奥を指さす。
ラビィはすぐに端末を操作しようとした。
その時。
「大丈夫。僕が何とかするから」
隣でロランが前に出る。
「ラビィはその人と一緒にいてあげて」
それだけ言い残し、ロランは雪を蹴って駆け出した。
「ロラン……!」
ラビィの声は、風にかき消されていく。
残されたラビィは、女性の肩に手を置いた。
「大丈夫。落ち着いて。何があったの?」
女性は涙を拭いながら話し始める。
「彼と二人で……星を探してて……それで、気付いたら魔物のテリトリーに入っちゃって……!」
運が悪かった。
イベント中で魔物の湧きが増えていたのだろう。
「あの人一人で……大丈夫なんでしょうか?」
不安に揺れる声。
ラビィは迷わず答える。
「大丈夫! ロランは強いよ」
そう言いながらも、胸の奥が少しだけざわつく。
「ロラン……気を付けて……」
⸻
粉雪の中、ロランは雪原を駆ける。
そして見つけた。
「いた……!」
男性プレイヤーが、巨大なアイスゴーレムとスノーゴーレムに挟まれていた。
氷の腕が振り下ろされる。
ロランは滑り込むように戦闘へ割って入った。
「大丈夫ですか!」
槍が閃き、ゴーレムの腕を弾く。
「た、助かりました! ぼ、僕そんなに強く無くて……彼女は、彼女は大丈夫ですか!?」
「ええ、彼女は無事です」
ロランは微笑む。
「とにかくここを切り抜けましょう」
だがよく見ると男性の手には武器が無い。
硬いアイスゴーレムの体で壊れたのだろう。
ただ震えるだけ。
ゴーレム二体の猛攻がロランを襲う。
重い衝撃。
凍り付く地面。
「くっ……!」
それでも槍で受け続ける。
「隙を作ります……あなたは僕が来た方へ走ってください!」
「で、でも!」
「大丈夫です」
ロランは短く言った。
そして、ほんの一瞬だけ視線を逸らす。
「あなたの彼女と一緒にいる――僕の彼女を呼んできてくれませんか!」
男性は目を見開き、そして強く頷いた。
「わ、分かりました!」
ロランは踏み込む。
「行きますよ……今です!」
槍の連撃。
氷片が飛び散る。
その隙に男性プレイヤーは雪原を駆け出した。
「頼みましたよ……」
ロランは横目でその背中を確認し、再び二体の巨躯と向き合った。
⸻
「おーい!」
雪煙の向こうから男性が走ってくる。
「カズくん!」
女性が駆け寄り、抱きついた。
「良かった……!」
「そ、そうだ!」
男性はラビィを見る。
「向こうで僕を助けてくれた男性プレイヤーから、貴女を呼んできて欲しいって……女性に助けを求めるのはどうかと思いますが……」
ラビィはゆっくり立ち上がった。
雪を踏みしめる。
まっすぐ男性を見る。
「守りたい人を守るのに、男性とか女性とか関係あるんですか!」
言い終わるより早く、ラビィの姿は前に出ていた。
一瞬で加速。
「え……」
男性が呆然と呟く。
「メンバー無しで勝てるのかよ……」
その横で、彼女が小さく笑った。
「今の子ね、レガリアの元トッププレイヤーだった子なんだって」
「えっ!?」
男性の目が丸くなる。
⸻
雪原を駆けながら、ラビィは端末を操作する。
光が走る。
二刀が両手に実体化する。
「ロラン……すぐ行く」
その瞳に迷いは無かった。
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更新は毎日致しますが、2話更新に変更致します。
平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




