第58話
「おはよう……ございます……」
朝。
まだ少し眠気の残る声で、ラビィは開発室のドアを開けた。
しかし、いつもと違い何故か室内が騒がしい。
「絶対、居酒屋でしょ!」
「いや! 今年は寿司だって!」
「フレンチも可能性あるっス!」
ナナミ、ショーン、マヤの三人が原因だった。
「……?」
状況が掴めないまま立ち尽くしていると、近くの席にいた努が気付いた。
「あ、おはようラビィさん」
「おはようございます、努さん。あれ、どうしたんです?」
努は苦笑いを浮かべる。
「あ、あれは毎年の年末恒例行事だよ」
「恒例行事……?」
ラビィが視線を向ける先では――
「居酒屋!」
「寿司!」
「フレンチっス!」
三人が机を囲んで本気の顔で言い合っていた。
「室長がね、毎年忘年会に連れて行ってくれるんだけど、今年はどこになるかって予想してるんだよ」
「なるほど……」
その時。
スーッと開発室のドアが開いた。
「あなたたち、廊下まで丸聞こえよ」
低く、よく通る声。
フィニスだ。
ピタッと空気が止まる。
しかし――
「室長! 今年も居酒屋ですよね?」
ナナミ、即突撃。
「室長、あそこの寿司が美味しかったって言ってましたよね? 絶対、寿司でしょ」
ショーンも続く。
「フレンチの行ってみたい店あるって言ってたっスよね室長?」
マヤまで前のめり。
フィニスのこめかみに青筋が浮かぶ。
「あーもう! 静かにしなさい!」
バンッ!!
机を叩く音が開発室に響いた。
三人がビクッと肩を震わせる。
「正解は、当日までのお楽しみよ。さあ、馬鹿なことやってないで仕事よ。年末は忙しいんだからね。」
冷ややかな一言。
「はーい……」
しょんぼりしながらそれぞれ自分の席へ戻っていく三人。
ラビィはそっと努に近寄った。
「ちなみに……努さんはどこだと思います?」
小声で尋ねる。
努は少し困ったように笑った。
「ぼ、僕は……室長が選んだ所なら、どこでも良いよ」
「さすが努さん。御三方とは違いますね」
ラビィが感心したように頷く。
その瞬間。
「ん? 何か言った? ラビィちゃん?」
ナナミが振り返る。少し目が怖い……
ビクッ。
「な、何も言ってないでーす! さあ、お仕事お仕事!」
慌てて席へ戻るラビィ。
背後からまだ小さく聞こえる。
「もしかしてBARとか?」
「いや絶対居酒屋だって」
「和食も捨てがたいっス」
フィニスのため息が、今日一番深かった。
今年もあと少し。
それぞれの思惑を胸に抱えながら、
開発室の年末は、今日もにぎやかに過ぎていくのだった。
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平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




