第57話
ある夜の事……
自室のソファに座り、ラビィは端末で動画をぼんやり眺めていた。
コンコン、と小さく窓を叩く夜風の音。
部屋は静かで、時計の秒針だけがやけに大きく聞こえる。
――ピロロン♪
着信通知。
画面に表示された名前を見て、ラビィは目を丸くした。
「……えっ、お母さん?」
慌てて通話を取る。
「も、もしもし?」
『もしもし、ラビィ?』
聞き慣れた、少しだけ早口な声。
「あっ、お母さん。どうしたの?」
『どうしたの?じゃないわよ』
間髪入れずに返ってくる。
『こっちから連絡しないと、あんたいつまで経ってもなーんにも言って来ないじゃない』
「ご、ごめん……ちょっと仕事忙しくて」
『嘘おっしゃい』
即答だった。
『どうせ帰ってすぐゲームしてるんでしょ』
「うっ……」
図星。
ラビィは言葉に詰まる。
『ほらやっぱり。母親なめんじゃないわよ』
「な、何か用だったの?」
強引に話題転換。
少しの沈黙のあと、母の声がやわらぐ。
『もうそろそろ、今年も終わるでしょ? あんた、こっち帰って来るの?』
「あー……ちょっと待ってね」
端末を操作し、社内スケジュールを確認する。
「えーっと……あ、23日で今年の仕事終わりだ。だからそれ以降には帰れると思うよ」
『そう。なら早めに連絡しなさいよ。布団干しとくから』
「うん」
少し間があってから。
母が、何でもないことのように言った。
『Xmasくらいは彼氏と過ごしておいで』
「う、うるさい! もう切るよ!」
耳まで赤くなりながら叫ぶ。
電話の向こうで母が笑う。
『はいはい、じゃあまたね』
通話終了。
部屋に静寂が戻る。
ラビィは通話端末を胸の上に置き、天井を見上げた。
「もうそんな季節か……」
窓の外。
夜の街の灯りが瞬いている。
「彼氏……ねぇ……」
ぽつりと呟いた瞬間。
脳裏に浮かんだのは――
一人の顔。
優しく笑う、あの人。
「……ゲームの中じゃなかったらな」
胸の奥が、少しだけきゅっとなる。
現実と仮想の境界線。
楽しいはずの世界が、急に遠く感じる瞬間。
ラビィは小さく首を振った。
「……こんな時は、ゲームだゲーム」
逃げるように、でも慣れた動作でベッドに寝転がる。
端末を持ち上げ、
ログインボタンをタップした。
視界が白に包まれる。
――現実から、もう一つの世界へ。
ラビィは今日も、そちら側へ足を踏み入れた。
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平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




