第52話
イースタリアの街を出て、石畳の道をしばらく歩くと、景色は次第に人気のない荒野へと変わっていった。
「目的の場所って遠いの?」
少し不安そうにナナミが尋ねる。
「いや、もうすぐ見えて来るっスよ」
先頭を歩くマヤが軽く振り返る。
その直後だった。
「あっ、見えたっス」
マヤが指差した先、霧の向こうに黒ずんだ建物の影が浮かび上がっている。
古びた寺院だった。
屋根瓦は崩れ、壁には無数のひび。まるで長い間、人ならざる何かに棲みつかれているような、不気味な気配が漂っている。
「うわ……なんか雰囲気あるね……」
ナナミが思わずラビィの袖をつまむ。
「そうそう、あの建物の中に目的のボスが居ます」
ラビィはいつも通りの調子で言った。
三人はそれぞれのメンバーを従え、ゆっくりと寺院の中へ足を踏み入れた。
中は薄暗く、空気は重い。床に描かれた見慣れない紋様が淡く光っている。
その時だった。
「……誰だ。我が結界に踏み込む不届き者は……」
低く響く声とともに、三人の前の空間が歪む。
闇の気配をまとった一人の陰陽師が姿を現した。
「ラビィちゃん、あの人がボス?」
ナナミが小声で聞く。
「いえ、あの人もですけど……」
ラビィの視線は、陰陽師の手元に向いていた。
陰陽師は無言で護符を取り出し、床へと投げつける。
バンッ!
護符は黒い煙を上げ、瞬く間に異形の魔物へと姿を変えた。
狼のような首が三つ。
胴体は虎の筋肉質な体躯。
そして尻尾の先には、毒々しい色の蛇がうねっている。
「……あれがメインボスです」
ラビィが静かに告げた。
「手強いでスよ。気をつけて下さいね、ナナちんさん」
マヤが武器を構える。
次の瞬間――
「来ます!」
ラビィの声と同時に、魔物が地面を砕きながら跳びかかってきた。
「ユッキー!」
ナナミの声に応え、イエティのユッキーが前へ飛び出す。
その巨体で正面から衝突を受け止め、魔物の突進を食い止めた。
「ユッキースゴい!」
ナナミの声に、ユッキーが「グルル…!」と誇らしげに唸る。
「ライオット!行くっス!」
炎のたてがみを揺らし、獅子ライオットが側面から飛びかかる。鋭い爪が魔物の胴をかすめ、火花が散った。
ドラキュも必死に羽ばたき、小さなブレスを吐く。
しかし――
「うっ……!」
反撃の一振りで、ユッキーが後退。
ライオットも弾き飛ばされる。
三人と三匹は徐々に押され始めていた。
「ヤバいっスよ、ラビちん!」
マヤが振り向く。
その視線の先――
ラビィは少し後ろで、じっと戦況を見ていた。
「ラ、ラビちん!何してるんスか!」
「あ、いやー……」
ラビィは首をかしげる。
「私、入っても良いんですか? すぐ終わりますよ」
「えっ!? めちゃくちゃ強いっスよ、この魔物!」
「じゃあ……遠慮なく」
その瞬間、ラビィの目つきが変わった。
地を蹴る音すら聞こえない。
次の瞬間には、魔物の懐に潜り込んでいた。
ザンッ!!
二刀が閃く。
魔物の三つ首の動きが一瞬止まる。
「今です!マヤさん、ライオット!」
「了解っス!」
ラビィの声に反応し、ライオットが全力で跳躍。
炎をまとった爪が魔物の胸を引き裂く。
続けてマヤの鋼の爪が深々と突き刺さった。
「ギャアアア――!」
断末魔とともに、異形の魔物は光の粒子となって消滅した。
「な、何……!」
動揺する陰陽師。
「はい、おしまい」
ラビィは一瞬で間合いを詰めると、柄で顎を打ち抜いた。
ゴンッ。
陰陽師は白目をむき、その場に崩れ落ちた。
――ピコン。
三人の端末に表示が浮かぶ。
《クエストクリア》
「す、すげぇっスね……ラビちん……」
マヤがぽかんと口を開ける。
「まあ、何度かクリアしてるクエストなんで。敵の隙とか動きは大体把握してますから」
涼しい顔で武器を収めるラビィ。
ナナミとマヤは顔を見合わせ――
そして同時に、苦笑いした。
「……頼もしいけど、敵じゃなくてよかったっスね」
「ほんとだよ……」
ドラキュが「キュッ」と鳴き、ラビィの肩にとまる。
寺院の中に、ようやく静けさが戻っていた。
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更新は毎日致しますが、2話更新に変更致します。
平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




