第44話
開発室に静寂が戻ったのは、消失案件の書類がようやく底をついた時だった。
「……これでラスト」
ナナミが最後のファイルを閉じ、そのまま机に突っ伏す。
「はぁ……もうバグ大嫌い……」
魂の抜けた声だった。
他のメンバーも椅子にもたれ、天井を見上げたり、目を閉じたりしている。
フィニスが静かに周囲を見渡した。
「みんな、お疲れ様。今日はもう上がっていいわよ」
その瞬間。
ガタンッ!!
ラビィの椅子が勢いよく鳴った。
「帰って良いんですか!?」
目がキラッキラである。
フィニスが片眉を上げた。
「あら?ラビィさん元気ね。まだ仕事あげるわよ?」
「だ、大丈夫です! スゴく疲れて倒れそうです!」
光の速さで弱ったフリに切り替えるラビィ。
ショーンがニヤニヤしながら言う。
「で、帰って速攻ログインするんだろ?」
ラビィは口をつぐむ。
フィニスがじーっと見る。
圧。
「……ちょびっと……にします……」
観念した。
ナナミがくすっと笑う。
「はいはい、ほどほどにね」
⸻
帰宅。
ラビィは久しぶりに湯船にゆっくり浸かった。
「はぁぁぁ……生き返る……」
数日ぶりの落ち着けた時間である。
部屋着に着替え、テーブルに買ってきた夕飯を並べる。
「フルダイブって、ご飯食べながら出来ないの不便だよね……」
もぐもぐ。
「よし、ごちそうさまでした」
ベッドへダイブ。
「ログイン!」
⸻
ミラクレアのギルドロビー。
「やっぱ落ち着く〜!」
早速クエストを受注し、ひとつサクッとクリア。
「ふー、終わった終わった。案外早かったな」
受注端末の前へ戻る。
「もう一つくらいなら……ちょびっとの範囲だよね」
ちょびっとの定義が広がり始めている。
「おーい、ラビィ」
聞き慣れた声。
振り向くと、ロランが手を振っていた。
「ロラーン! 久しぶりだね!」
「ラビィ全然ログインしてなかったね? 病気でもしてたの?」
「いやー……仕事がめっちゃくちゃ忙しくてね……」
遠い目。
「そっか……仕事じゃ仕方ないね」
「精査、精査、精査、精査……」
「ん? せい、さ?」
「な、何でもない!!」
ラビィは気を取り直す。
「あと一つだけクエスト行ったらログアウトするつもりだけど、一緒に行く?」
ロランが少し嬉しそうに笑う。
「うん。僕、ラビィと行きたいクエストがあるんだ」
端末を操作するロラン。
表示されたクエストは……
⸻
クエスト名:フレイムリング
内容:南に浮かぶ孤島にある幻の宝石の取得
クリア報酬:炎の指輪
⸻
ピコン♪
二人の端末に受注完了の通知。
「南の島か……なんかリゾートみたいだね?」
「そうだね!」
忙殺の日々のあと。
束の間の冒険が、また始まろうとしていた。
ラビィとロランは、ひとまずギルド移動機能を使用し南エリア《サウスタリア》のギルドへと移動。
さらにそこから孤島へ向けての定期船へと乗り込む。
孤島へと辿り着いたラビィ、ロラン一行。
視界いっぱいに広がるのは蒼い海と白い砂浜。
「わぁ……ほんとにリゾートだ」
ラビィが目を輝かせる。
そんなラビィとは裏腹に……
赤兎馬が砂を蹴り、呂布が静かに戟を担ぎ直す。
ロランの隣では、趙雲が水平線の先を鋭く見据えていた。
穏やかな景色。
しかし……島の奥からはうっすらと赤い光が揺らめいている。
「……あそこだね」
ロランが呟く。
ラビィはニヤッと笑って二刀を抜いた。
「よーし、ちょびっとだけ頑張りますか!」
二人は同時に駆け出す。
南の孤島に、戦いの火種が灯ろうとしていた。
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更新は毎日致しますが、2話更新に変更致します。
平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




