第43話
アイスハートのクエストを終えたラビィとアースは、ノースタリアのギルドへと戻ってきていた。
雪の降るギルド前広場。
白い息を吐きながら、ラビィは伸びをする。
「いやー、久しぶりにアースくんとクエスト楽しかった!」
「僕もですよ。また行きましょうね」
アースが笑う。
「でもラビィさん、明日仕事なんですよね?」
「うん……現実がログイン待ちしてるの……」
遠い目をするラビィ。
「じゃあ今日はこの辺で落ちます!」
「はい、お疲れ様でした!」
手を振り合い、ラビィはログアウトした。
⸻
翌朝。
ラビィ出社。
開発室のドアを開けた瞬間——
「……え?」
中には見慣れない顔が何人もいる。
他部署のスタッフが、あちこちで慌ただしく動き回っていた。
書類の山。飛び交う会話。鳴り止まない端末通知音。
「な、何これ……」
ラビィが呆然と立っていると、後ろから声。
「おはようラビちん」
マヤがコーヒー片手に近づいてくる。
「あの人たち、どうしたんですか?」
「あー、昨日の告知見たっスよね? ゲームの」
「はい」
「告知出す前にメンバー消えちゃった人たちの詫び報酬対応っス。今その確認ラッシュ」
ラビィの顔が固まる。
そこへショーンが頭をガシガシ掻きながら歩いてきた。
「ちゃんと告知見ろっての!って話なんだけどなぁ…」
「でも本当に告知前か後かの精査が必要なんスよ」
マヤが端末をひらひらさせる。
ラビィは嫌な予感を覚えながら、自分を指差した。
「……その仕事は?」
マヤとショーンが同時に頷く。
「まあ、ここの部署“全員”だけどな」
ドサッ!!
ショーンが書類の束をラビィの腕に乗せた。
「うおっ!? お、重い……!!」
紙の束が視界を塞ぐ。
その時、フィニスが部屋に入ってきた。
「少しでも対象と思われるのがあったら努くんに回してね。ログデータ確認して、詫び対象なら報酬付与になるから」
「は、はい……!」
ラビィの席の横には、すでに書類の山。
作業開始。
黙々。
ひたすら確認。
プレイヤー名、消失時間、ログイン履歴、戦闘ログ——
ガチャ。
ドアが開く。
「追加です。お願いします」
別部署の人が新たな書類を置いて去っていく。
「……」
さらに30分後。
ガチャ。
「追加になります」
「……」
また30分後。
ガチャ。
「すみませんこちらも」
「……」
ついにナナミが顔を上げた。
「また来たよ……」
いつもニコニコしているナナミが、珍しくうんざり顔。
そしてまたドアが開く。
ナナミが反射的に叫ぶ。
「もう要らないよー!!」
「へっ!? あっ、あの……」
そこに立っていたのは——努。
両手いっぱいに飲み物を抱えている。
「み、みんなに飲み物買って……来たんですが……」
「あっ」
「ご、ごめん! 努くん!」
ナナミが慌てて立ち上がる。
努はおどおどしながらも微笑んだ。
「ナ、ナナミさんお疲れ様です」
そう言って、ナナミにだけ小さなスイーツ袋を渡す。
「えっ、いいの?」
「甘い物好きですよね」
ぱぁぁっとナナミの顔が輝く。
「努くん神……!」
その様子を見ていたラビィが手を伸ばす。
「私もスイーツ欲しいです……」
努は少し笑った。
「頑張ってくれたら、あとで買ってきてあげますよ」
「やった! がんばる!」
単純である。
そしてラビィは気付く。
時計の針。
すでに定時を大きく過ぎている。
机の上の書類の山は——まったく減っていない。
「……」
誰からともなく呟いた。
「今日、残業確定だな……」
開発室に、静かなため息が広がった。
「すいません!追加でーす。」
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更新は毎日致しますが、2話更新に変更致します。
平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




