第40話
ロランは静かに利家の前へ立ち、淡い光を帯びた端末をかざした。
「少しだけ、お力を貸してください」
利家は腕を組んだまま、ふんと鼻を鳴らす。
「好きにせい。だが変な真似はするでないぞ」
光が利家を包み、やがて粒子が端末へ吸い込まれていく。
——データ抽出、完了。
ロランは小さく息を吐いた。
その横でラビィは、そわそわしながら慶次郎を見上げていた。
「あの、慶次郎さん」
「おう、嬢ちゃん。どうした?」
「さっき乗ってたお馬さん、呼んでもらえます?」
慶次郎はにやりと笑う。
「ん、松風かい? ちょっと待ってな」
スッ、と指を口に当て——
ピーーーッ!!
高く澄んだ指笛が戦場跡に響き渡る。
次の瞬間。
地を蹴る重い足音。風を裂く黒い影。
漆黒の巨馬が、まるで嵐のように駆け込み、慶次郎の横でぴたりと止まった。
「はいよ」
「わぁ……」
ラビィは目を輝かせて松風へ歩み寄る。
しゃがみ込み、そっと視線を合わせた。
「ねえ、君も私を助けてくれないかい?」
松風はじっとラビィを見つめ——
ゆっくりと、前脚を折りたたみ、地に伏せた。
「おお!? 松風が言う事聞いた! すげぇな嬢ちゃん!」
慶次郎が素直に驚く。
ラビィは優しく松風の首を撫でながら、そっと端末をかざした。
——データ抽出、完了。
「ありがとね、松風ちゃん」
松風は静かに立ち上がり、ひと鳴きすると、再び風のように走り去っていった。
その様子を見届けたロランは、今度は利家の方へ向き直る。
「利家さん、他にも凄い名馬っていませんか?」
利家の眉がピクリと動く。
「元々、松風はワシの馬だったんじゃ! それを慶次が引ったくりおったのだ!」
ギロリと慶次郎を睨む。
慶次郎は笑いながら利家の肩を揉んだ。
「まあまあ叔父貴、細けぇことは気にすんなって」
「気にするわ!」
利家はぶつぶつ言いながら、視線を馬たちの方へ向ける。
「うーむ……あとは……あそこにおる馬が、今いる中では一番じゃな」
一頭の馬を指さした。
ロランは静かにその馬へ近づき、優しく声をかける。
何を話しているのかは聞こえない。
だがしばらくすると、その馬もまた、すっと脚を折って伏せた。
——データ抽出、完了。
戻ってきたロランが利家に尋ねる。
「あの馬の名前って何です?」
「名前……無いな」
「じゃあ今、名付けてください」
「うーん……松風……うーん……門松なんてどうじゃ?」
「ダメです。却下します。真面目に考えて下さい」
ロランの声は妙に冷たかった。
「じゃあ蒼月なんてどうだ?」
慶次郎が口を挟む。
「嬢ちゃんの月みてぇな刀と、そっちの蒼い槍。二つ合わせて蒼月だ。どうだ?」
ロランの目が見開かれる。
「ラビィと僕の……いい! さすが慶次郎さん! 利家さんとセンスが違いますね!」
「ぐぬぬ……」
利家は悔しそうに唸った。
ロランは深く一礼する。
「それでは、僕たちはそろそろ帰ります」
ラビィも慶次郎と利家に向かって大きく手を振った。
「ありがとうございましたー!」
二人に見送られながら陣を去る一行。
遡行施設へと辿り着きラビィたちは光に包まれる。
ミラクレアの遡行施設へ、無事帰還完了した四人であった。
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更新は毎日致しますが、2話更新に変更致します。
平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




