第33話
ある日の朝。
出社したラビィは、自分の机の上に見慣れない封筒が置かれていることに気付いた。
「……私宛て?」
差出人の記載はない。
首を傾げながら封を開け、中身を取り出す。
入っていたのは一枚の書類だった。
びっしりと文字が並び、その合間には図形や記号、意味の分からない暗号のような並び。
まるで謎解き問題の資料のようにも見える。
「えぇ……なにこれ。難しすぎない?」
しばらく眺めてみるが、まったく理解できない。
ラビィは早々に考えるのを放棄し、紙を封筒へと戻した。
その時、部屋の扉が開いた。
「ラビィさん。その書類、頂戴」
入ってきたフィニスが、ラビィの手元の封筒を見て言う。
「え? あ、はい」
ラビィが素直に手渡すと、フィニスは中身を確認することもなく封筒を受け取り、そのまま部屋を出ていった。
「……何だったんだろ」
小さく首を傾げつつも、仕事が始まればそんな疑問はすぐに頭の隅へと追いやられた。
そして夜。
自宅へ戻ったラビィは、迷うことなくベッドへダイブする。
「よーし、今日もレジェンズ!」
ログイン。
視界が光に包まれ、次の瞬間、始まりの街の広場に立っていた。
するとすぐに、視界の端に通知ウィンドウが開く。
【イベント告知:レジェンズミステリー ~犯人はお前だ~ 近日開催】
「ミステリーイベント?」
内容を開いて読む。
街で起こる事件。
情報収集と推理によって犯人を特定し、最後に正体を現した魔物を討伐すればクリア――そんな内容らしい。
「へぇ~、面白そう! ……全然クリア出来なさそうだけど」
戦闘なら大歓迎だが、謎解きとなると話は別。
ラビィは完全に感覚派である。
その時。
「ラビィ! 久しぶりです!」
後ろから聞き慣れた声。振り向くとロランが手を振っていた。
「ロラン! ちょうど今イベント告知見てたとこ!」
「僕もです。ミステリーとか結構好きなんで楽しみです! ラビィは苦手そうだし、また一緒にやりましょうか」
「うっ……分かっちゃった? 私こういうのホント無理」
「見てれば分かりますよ」
苦笑いするロランに、ラビィは頬を膨らませた。
そして数日後、イベントは開始された。
二人は並んでイベントクエストを受注する。
「まずは情報収集が基本ですね」
ロランはそう言ってギルドを飛び出した。
「待って~! 私も行くー!」
慌てて後を追うラビィ。
街中のNPCに話を聞き、手掛かりを集めていくロラン。
会話の内容を丁寧にメモにまとめ、関係性を整理していく姿は実に手慣れている。
一方ラビィはというと。
「……へぇ~」
「……なるほど~」
横で頷いているだけだった。
やがて十分な情報が集まり、二人は飲食店へ入る。
テーブルの上にロランがメモを並べる。
「ここが矛盾してるんですよね……この証言とこの証言が合わなくて」
「ふんふん」
ラビィも一応メモを覗き込む。
「あれ?」
妙な違和感が胸をかすめた。
この図形の並び。
この文章の言い回し。
この記号の意味。
(……どこかで見たような……)
ロランは腕を組み、うんうん唸りながらメモを並べ替えている。
「こっちが犯人だと時間が合わないし……いやでも動機が――」
「あーーーーっ!!」
ラビィが突然声を上げた。
「うわっ!? ど、どうしました!?」
ロランが驚いて椅子を引く。
ラビィの脳裏に、はっきりと蘇っていた。
あの日の朝、机の上に置かれていた封筒。
あの意味不明な書類。
(あれと……同じだ……)
書かれていた暗号も、図形も、構成も。
ほぼ一致している。
つまり――
(答え……分かっちゃった……)
けれど。
「な、何でもない! ちょっと声出ただけ!」
慌てて手を振るラビィ。
運営の仕事で見た資料。
それが元になっているイベントだなんて、言えるはずがない。
「もう、集中してるんで静かにしててくださいよ……」
そう言うと、ロランは再び考え込み始める。
その姿を見ながら、ラビィの胸がチクリと痛んだ。
(ズルしたくないのに……ズルになってる……)
しばらく葛藤した末、ラビィは恐る恐る口を開く。
「ねぇロラン……これさぁ……この人じゃなくて、こっちの人の可能性とか無いのかな?」
「え? そっちですか?」
「ほら、この証言……ちょっと変じゃない?」
あくまで“思いつきっぽく”。
分かっていない風を装いながらヒントだけ出す。
ロランは半信半疑でメモを動かし始めた。
「……あ」
さらに並べ替える。
「あっ、そうか! これ時間じゃなくて場所のトリックか!」
目を輝かせて顔を上げる。
「すごいよラビィ! その発想は無かった!」
「え、えへへ……」
乾いた笑いが出る。
やがて犯人を特定し、二人は対象の魔物を討伐。
イベントクエストは無事クリアとなった。
報酬ウィンドウが表示される。
「いやー! 今回はラビィの意見ですぐ解けましたね。さすがの直感です!」
「……そ、そう?」
心の奥が、少しだけ重い。
「ラビィと組むと本当助かるなぁ」
ロランは満面の笑みだった。
ラビィは同じように笑顔を作りながら、小さく思う。
(……次は、自分の力でロランを助けたいな)
その願いは、誰にも聞こえないまま夜の街に溶けていった。
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更新は毎日致しますが、2話更新に変更致します。
平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




