7. 仕組まれた偽りの招待状
大盛況のうちに終わった握手会から数日後。
RE:Genesisはボーカルレッスンや筋トレ、マギア・テレヴィズムでの番組収録など、多忙なスケジュールを日々こなしていた。
そんなある日の夕暮れ。
仕事を終えてギルドへ戻ってきたタケルとヴァルガンは、受付カウンターの奥からセレイナに手招きされる。
「タケルさん、ヴァルガンさん。至急、会議室へお越しいただけますか」
「え? どうしたんですかセレイナさん、改まって」
「重要、かつ少々不可解な連絡が入りました。マスターたちにも集まっていただいています」
いつになく硬いセレイナの表情に、タケルはヴァルガンと顔を見合わせた。
*
会議室に入るとガルドとレオン、なぜか壁際に腕を組んで佇むゼクスの姿があった。
「あれ、ゼクスさんまで? 珍しいですね」
「……ギルドに顔を出した途端、セレイナに捕まったんだ。なんの話かさっぱりだがな」
ゼクスが困惑気味に肩をすくめる。
全員が揃ったのを確認し、セレイナが口を開いた。
「お忙しいところ、急に呼び出して申し訳ありません。本日、ギルドの私書箱にこちらの親書が届きました」
セレイナがテーブルの中央に置いたのは、星の輝きを模した金色の封蝋が施された封筒。凝った作りで、一目で最高級品だとわかる。
「これって……ステラの?」
「はい。筆跡および印章は、以前届いた招待状のものと一致しています」
「ほう……あの小娘からか」
ヴァルガンが身を乗り出す。
セレイナは手紙を広げ、内容を説明し始めた。
「要約しますと『トゥインクル☆カーニバル』プレイベントに関して、緊急で相談したい用件がある。ついては本日の日没後、ルミナ・ドーム関係者口へお越しいただきたい……とのことです」
「ルミナ・ドーム!? 今日の夜に!?」
タケルは思わず声を上げた。いくらなんでも急すぎる。
だが、それ以上に引っかかったのは──
「あの、セレイナさん。その宛先って……」
「ええ。『RE:Genesis関係者様一同』としてタケルさん、ヴァルガンさん、マネジメント担当のマスターと私、楽曲担当のレオンさんに加え、ゼクスの名前まで明記されています」
「……はあ? オレが? 意味がわからん」
名指しされたゼクスが、心底怪訝そうな声を漏らした。
「あのイベントに出るわけでもないし、世間的にはスキャンダル塗れの悪党だぞ。天上の歌姫様が、オレみたいな人間になんの用があるんだ」
「チッ、めんどくせーな。俺みたいな裏方までゾロゾロ引き連れて来いってか? 偉くなったもんだぜ」
レオンが不機嫌そうに吐き捨てる。
ガルドは太い腕を組み、うーん……と唸り声をあげた。
「プレイベントの警備体制とか、何か手配でギルドに協力を頼みたい……とかか? でも、それなら事前に窓口を通すのが筋ってもんだがなぁ」
「手紙には『極秘案件につき、関係者のみで内密に話したい』と書かれています。意図は測りかねますが、トップアイドルからの招集となれば無視するわけにもいきません」
セレイナの言う通りだった。
これから同じステージに立とうという大先輩からの呼び出しを、正当な理由もなく突っぱねるわけにはいかない。
「……でも、やっぱり急すぎるよな。念のため、確認の連絡を入れてみよう」
タケルは手紙の末尾に記されていた「問い合わせ用」の番号を見やり、自身の魔導端末を取り出した。手早く入力し、発信ボタンを押す。
プルルル……プルルル……。
『ただいま、回線が混み合っております。恐れ入りますが、しばらく経ってからお掛け直しいただくか、指定の会場まで直接お越しください』
数回の呼び出し音の後、案内音声が流れた。
ツーツー、と乾いた切断音が響く。
「繋がらない……。まあトップアイドルだし、問い合わせが多いのかな」
「手紙には『緊急を要するため、確認次第ルミナ・ドームへ』とあります。日没まではもう間もありません」
夕日は既に、窓から見えるルミナ・ドームの向こうへと沈みかけていた。
「フン。悩む必要はあるまい、タケル。あの小娘がどんな大層な用件で我が力を乞うつもりなのか、直々に確かめてやるとしよう」
「力を乞うって……完全に上から目線だな、お前は」
タケルは苦笑しつつも、腹を決めた。
ステラ直々の要請である以上、行かないという選択肢はない。それに、もしプレイベントで何か大きな仕掛けを用意しているのだとしたら、なるべく早めに把握しておきたい。
「わかりました。全員でルミナ・ドームへ向かいましょう!」
「やれやれ、休む暇もありゃしねぇ……」
レオンは文句を言いながら席を立った。ゼクスはまだ釈然としていない様子だったが、タケルの顔を見て小さく息をつき、扉に向かう。
一行が会議室を出ていく中、セレイナだけが残ってペンを走らせる。
「セレイナさん? 行かないんですか?」
「入れ違いがないよう、ステラ様の事務所宛てに『要請に従い、今夜ルミナ・ドームへ向かいます』と一通したためておきます。速達で投函する準備をしますので、先に出ていてください」
「流石、抜かりないですね。じゃあ、下で待ってます」
タケルが小走りで部屋を出ていく。セレイナは書き上げた手紙を封筒に納め、ステラからの親書を鍵付きの棚に仕舞うと、会議室の明かりを消して退室した。
チリ……。
不意に、棚に保管したステラの手紙から青白い光が浮かび、プスプスと煙を上げ始める。
ボッ!
立ち上がったのは青紫色の炎。
熱を放たず、怪しく揺らめきながら手紙を隅から貪り食っていく。
わずか数秒の後。棚の中には煤ひとつ残らず、手紙など最初からなかったかのように消滅していた。




