19. 大成功のフィナーレで理解したことは、
ライブはセトリ通り、順調に進んでいった。
ヴァルガン、ミウ、ティアのソロ曲。合間にMCやお客さんも巻き込んだ企画をやって、まるでバラエティ番組のような賑やかさだ。
『さあ、祭りの時間もそろそろ終わりであるぞ!』
「「「ええーッ!?」」」
『あはは、みなさんありがとうございます。最後は三人で楽しく歌います!』
『今日はアンコールはなしなんだってー。だから、思いっきり声出してねー!』
「「「おーっ!」」」
新曲『RE:joice』が流れ始める。
ゆるやかなテンポだが、思わず身体がノッてしまう楽しい大合唱ソング。ヴァルガンたちが両手を掲げ、観客たちに見えるように大きく打ち鳴らす。
『さあ、貴様ら! 全員で歌うがよいッ!!』
ヴァルガンの咆哮が会場を揺さぶり、ライブはフィナーレへと突入する。
ステージの上にヴァルガン、ミウ、ティアの三人が横並びになった。
『『『♪みんな手を叩こう、Wow! Wow! 大声で歌おう、Wow! Wow!』』』
会場中がリズムに合わせて大きく手を叩き始めた。初披露の曲だが、観客たちは見よう見まねで声を出していく。
『『『♪泣きたくなったら一緒に騒ごう、楽しくなれる魔法だから 寂しい夜には誰かと話そう、優しくなれる魔法だから』』』
ハモリなどの難しいテクニックは一切ない。三人が元気よく、会場に向かって歌いかける。曲に合わせて手を叩くだけで、誰でもライブに加われるグルーヴ感。
『『『♪Lalalalala……さあ歌ってみよう Lalalalala……そこがステージになる』』』
手を叩かない場面では一斉に身体を揺らし、腕の波が左右に広がっていく。
『『『♪みんな手を叩こう、Wow! Wow! 大声で歌おう、Wow! Wow!』』』
会場にいる全員が一つになり、大合唱と歓声が特設ステージを包み込んだ。眩しい照明の中で銀テープが宙を舞い、三人で最後のポーズを決める。
『フハハハハ、楽しんだようだな! 次のイベントも待っておれ!』
『『ありがとうございましたーっ!!』』
RE:Genesisと『オフィスYMD』のコラボライブは、大成功で幕を閉じた。
*
「どうですか、ヤマダさん? みんなで盛り上がった最高のイベント!」
「本当に、ここまでの規模になるなんて……ありがとうございます……!」
「ガッハッハ! やったじゃねぇかタケル、俺も楽しませてもらったぜ!」
イベント後。楽屋に戻ってきたタケルを、ヤマダとガルドが揉みくちゃにした。興奮を抑えきれず、そのまま三人で肩を組んではしゃいでいる。
「現時点での収益ですが、目玉商品のぬいぐるみは即完売。詳細報告は改めて行いますが設営費や人件費も回収できており、問題は解決できたと言えるでしょう」
「フン。民が我のぬいぐるみを求めるのは当然のことよ」
「予想以上の売れ行きなので、別途受注販売を行うのもありかもしれません」
魔導端末を操作しながら、セレイナが今回のイベントについて報告をする。
指は動き続けており、既に通販準備をしているようだ。
「ヤマダさん、もう心配する必要はありません。すぐ病院で手術の話を進めてください。打ち上げはまた今度、そのあたりが決まってからにしましょう」
タケルが声をかけると、感極まったようにヤマダは涙を流した。隣に立っていたナカタが、ポンポンと肩を叩いて慰めている。
「事務所は、まあ私の方でなんとか維持しますんでぇ。社長はしばらくの間、ゆっくり休んでください」
「ありがとう、ナカタくん。タケルさんには、なんとお礼を言えばいいか……」
「いえいえ。アドバイザーとして、やるべき仕事をやったまでですから!」
楽屋はアイドルやスタッフたちの笑顔に溢れ、全員が達成感を噛み締めていた。
「あ、そろそろ帰らないとママに怒られちゃう!」
「そっか、もうそんな時間か。今日はお疲れ様、ティアちゃん」
タケルがチラリと時計に目を向けると、もうだいぶ遅かった。
子供の姿に戻ったティアが大慌てでバッグを担ぐと、ミウのもとへと駆け寄りギュッと抱きつく。
「ミウちゃん! 今日のライブ、すっごく楽しかったよ!」
「ふふ、よかったね、ティアちゃん」
ミウは優しく微笑み、ティアの小さな頭を撫でた。
ティアはミウを見上げ、目を輝かせながら何度も頷いて小指を差し出す。
「また一緒にライブしよう。ねっ、約束!」
「……うん、わかった。いつか、またやろうね」
「えへへ、やった! 絶対だよ、破ったらダメだからね? バイバーイ!」
ミウが指切りに応じるとティアは嬉しそうに笑い、元気よく楽屋を飛び出していった。
「それじゃ、ナカタくん。僕らも先に帰らせてもらおうか」
「ですね。まずは社長と病院の件を進めないと! ミウちゃんはどうする?」
「あたしは……ちょっと残ってから帰ることにします、お疲れ様です」
ヤマダとナカタは手を振り、楽屋を出ていく。ガルドやセレイナたちは撤収作業のサポートに向かい、楽屋にはタケルとヴァルガン、ミウの三人だけが残った。
「改めて……ミウさん、お疲れ様でした! ミウさんのソロも、ティアちゃんとのペアも凄く良かったですよ」
タケルが満面の笑みで声をかけると、ミウはゆっくりと振り向く。
彼女はアイドル衣装のまま、二人の前で深く頭を下げた。
「タケルさん、ヴァルガンさん。ありがとうございました。事務所の借金もちゃんと返せて、ヤマダさんも安心して手術を受けられます」
万感の思いがこもった声。
ミウは顔を上げ、小さく微笑んだ。
「全部、お二人のおかげです。あたし一人じゃ何もできませんでした。本当に、本当にありがとうございました」
事態はすべて最高の形で解決した。ヤマダの命も救われ、事務所の未来も繋がり、ライブは大成功を収めた──はずだった。
ぽろり。
ミウの目から、涙がこぼれ落ちた。
「……え?」
安堵の嬉し涙だろうか。タケルはそう思おうとした。しかし、溢れ出る涙は止まらず、頬を濡らし続けていく。
「あ、あれ? おかしいな、なんで……」
「ミウさん……? どうしたんですか……?」
タケルが困惑しながら一歩踏み出す。
ミウは自分の身体を強く抱きしめ、肩を激しく震わせる。一度決壊した感情は、もう堰き止められなかった。
「うっ……ひぐっ……あぁぁっ……」
抑えきれない嗚咽が、静かな楽屋に響き渡る。
ミウはその場に崩れ落ちて膝をつき、床を涙で濡らしながら、絞り出すような声で言った。
「わかっちゃいました……あたしには、アイドルの資格がなかったって……」




