15. 箱探しにお困りの貴方へ女神の占いコーナー
「全滅! 全滅ですよセレイナさんんんん!!」
『落ち着いてください、タケルさん。何があったんですか?』
ルミナ・シティの大通り。魔導端末に向かって、タケルは情けない声を上げた。
今日はヴァルガンにミウとティアのレッスンを任せ、単身でイベント会場手配のために街中をドサ回りしている最中だ。
「調べてもらった会場、片っ端から当たったんですが……どこも予約いっぱいだったんです! 規模を下げようとしても、人が押し寄せてトラブルになりかねないからダメだと断られて!!」
『確かに、今のRE:Genesisはかなりの動員が見込めますからね。先方が懸念する理由としては妥当かと』
大きい会場は予約が埋まっていて押さえられない。だが、小さい規模にしようとすると大混乱を生む可能性がある。突発イベント開催の難易度の高さを、タケルは改めて思い知らされる。
『今回は以前開催したライブのように『オフィス・グリード』のコネを使えるわけではない、というのが厳しいですね』
「あの銭ゲバ社長に頼ると、絶対面倒なことになるんですよ……。ほぼ間違いなく『オフィスYMD』を外して利益独占させろって言われるだろうし……」
『私の方でも改めて調べて、情報が見つかり次第連絡します』
「はい、お願いします……」
通信を切ると、タケルは街頭のベンチにぐったりともたれかかった。
企画と利益分配のスキームは整え、グッズの目処も立った。だが、肝心のステージがなければ何も始まらない。
「はぁ~……なんか俺、毎回こういう交渉で苦労してる気がする……」
「異世界に来ても社畜根性は変わらず、ってことよね」
「へ?」
不意に聞き覚えのある声が降ってきた。
すると、タケルが座っていたベンチの横の空間がぐにゃあと歪み、女神ルミナスが姿を現した。「ちょっとコンビニ行ってきまーす」という雰囲気の上下スウェットのラフな格好で、棒アイスを舐めている。
「ぬわぁっ!? ルミナス!? お前、白昼堂々何やってんだよ!」
「様子を見に来てあげたのよ。神の降臨なんだからありがたく思いなさい」
「もうちょっとありがたみのある格好しろよな……周りの人がびっくりしたらどうすんだよ」
「神だからそのへんはちょちょいとやって対策済みに決まってんでしょ」
ルミナスはアイスを食べながら、タケルの隣に腰掛ける。突然現れたにも関わらず、対策とやらのおかげで周囲の通行人は女神のことを気にもしていないようだ。
「……なあ。神様の力でどこかにいい感じのホールをドカンと出現させたりできないか? キャパはめっちゃ広いやつ」
「んなことしたら、因果の書き換えであんたの魔力が吸い尽くされて、ショック死するわよ。会場探しに行き詰まってるわけ?」
「そうなんだよ……どこもかしこも埋まってて。かといって、今から予約して待つわけにもいかないし……」
「ふーん。ま、そんな困ってるっていうなら、女神様の占いでアドバイスしてあげなくもないわよ」
タケルの話を聞いたルミナスは、アイスをシャリシャリと噛み砕きながら宙に指で何か書いていく。書き終わると、「超美人女神ルミナス様の占いコーナー」という光る文字が浮かび上がった。
「アドバイスぅ……? お前から聞いてもアテにならなそー……」
「へぇ、そう? それじゃ私はこれで」
「すみませんでした教えてください! 手詰まりなんです!」
「あんたの今日の運勢的には『人に会って相談すると吉』、らしいわよ?」
「人に会って相談……? うーん、そういう相手いるかなぁ……」
タケルは顎に手を当て、相談できそうな心当たりについて考え込んだ。
と、そこであることを思い出しポンと手を叩く。
「そうだ! 商業区の中央ホール、連絡した時に『キャンセル待ちがある』って断られたけど、直接支配人に会って拝み倒せば──」
「そこはダメ!!」
ルミナスの声が、これまで聞いたこともないほど鋭く響いた。
驚いたタケルが顔を向けると、女神は手に持ったアイスが溶けるのも気にせず、真剣な表情で睨みつけている。
「なんでだよ? 中央ホールならキャパも十分だし──」
「今日のあんたの運勢的に、商業区に行ったら大凶! 一発で全部破綻するわ!」
「だ、大凶って……そんなヤバいのか」
「そこ行ったら、ええと……うんこ漏らすわよ!!」
「うんこ!?」
「足を踏み入れた瞬間に、奇声を上げながら脱糞する呪いにかかるわ!」
「どんな呪いだよ!?」
言ってる内容はアホそのものだが、ルミナスは鬼気迫る雰囲気で圧をかけてくる。本当に脱糞するのかもしれないと、タケルは顔を引きつらせた。
「わ、わかったよ……そこは諦める。他に良さそうな人……知り合い……あ。そうだ、あの人がいるじゃん!」
「あら、思いついたみたいね。んじゃ、そっちを試してみなさい」
「おう! ちょっと行ってくる!」
タケルが急ぎ足で去っていく。
その背中を見送ってから、ルミナスは長いため息をつき──ポケットから神界用の魔導端末を取り出した。
画面には、ルミナ・シティの地図が表示されている。
タケルが向かおうとしていた『商業区中央ホール』周辺のエリアが、真っ赤な警戒色で塗りつぶされていた。
「危なかった……。監査官が広げた『網』に引っかかるところだったわ……」
ルミナスは冷や汗を拭う。神界の調査データを盗み見ていたからこそ、カンディードの張る罠から遠ざけることができたのだ。もしタケルが足を踏み入れ、何か仕掛けられていたら。即座に「異物特定」へ繋がっていたかもしれない。
「今回は誤魔化せたけど、調査のペースが速すぎる。このままじゃ……」
*
「お願いします、レオナルドさん! どうか、王立騎士団の管轄する『第三演習場』を貸していただけませんか!?」
「待ってくれ。いきなりすぎて、さっぱり事情が理解できんのだが?」
タケルが向かったのは、ルミナ・シティにある王立騎士団第三隊支部。
重厚な石造りの建物の応接室に迎え入れてくれたのは──神経質そうな青年、第三隊隊長のレオナルドだった。
「今お伝えした通りですよ。騎士団の演習場ならかなり広いスペースがあるじゃないですか」
「まあ、それは事実だな」
「だから、イベント用のステージ設営に使わせてもらえないかなーと……」
「その理屈がさっぱり理解できんのだが?」
レオナルドは呆れたように眉をひそめた。また厄介事がやってきた、と言いたげにこめかみをトントンと叩く。
「確かに演習場で催しを行うこともあるが、主催は関係者だぞ。市民向け、それもアイドルのライブに貸すなんて、どう建前を作れというんだ」
「そこをなんとか! もちろん、正式な使用許可申請は出しますし、使用料もお支払いします! 言い訳も一緒に考えます!」
「言い訳と言ってる時点で、まともな流れじゃないと自白してるだろう!」
「それにほら、スイレイ郷の件で俺たちには縁があるじゃないですか?」
「む……」
タケルたちが来なければ、スイレイ郷で今もゆるふわ左遷生活を過ごしていたかもしれない。その状況から救ってもらった借りを否定できないレオナルドの顔が、苦々しく歪む。
「その時のことも含めたサービスってことで、お願いします!」
「お人好しに見えて、君という男は実に計算高いな」
「背に腹は代えられないから必死なんです! どうか!」
タケルは真っ直ぐに訴えかけた。レオナルドはしばらく腕を組み、黙り込んでいたが……やがて、ハァと重々しいため息をついた。
「……わかった、特例だ」
「本当ですか!?」
「ただし! 『騎士団と市民の交流を目的とした合同文化イベント』という建前での貸し出しだ。万が一トラブルを起こしたら、即座に中止にする。いいな?」
「はい、ありがとうございます! じゃあ、後で気が変わった~とかないように、サインだけでも今のうちに……」
タケルが懐から使用許可の同意書を取り出し、机の上に差し出した。レオナルドは内容を確認したあと、署名欄にサラサラとサインをする。
「これでいいだろう。詳しい打ち合わせと正式申請は後日頼む」
「わかりました、よろしくお願いします!」
タケルはホッと胸を撫で下ろし、晴れやかな笑顔で支部を飛び出していく。
(よし、箱が決まった! ルミナスの占いが当たってラッキー!)
ミウたちを助けるための特大ステージの目処が、ついに立った。




