14. ぷにぷにヴァルガン様ぬいぐるみ発売決定♡
「今回のライブはただ成功させるだけじゃダメです。お客さんを集めるだけじゃなく、それ以上の爆稼ぎをする必要があります」
冒険者ギルドの一室で、タケルは鼻息荒く宣言した。机の上には色とりどりの布地、綿、裁縫セットが広げられ、作業スペースになっている。集まっているのはヴァルガン、ミウ、ティア、ナカタだ。
ガルドやセレイナといったいつものRE:Genesisチームは、イベント開催に向けた準備を別で進めてもらっているため今回は不参加である。
「ヤマダさんの手術費用と借金を一気に返済するには、チケット代だけじゃ足りません。だから、利益率が高い『最強の物販グッズ』を生み出すんです」
「その最強の物販グッズって一体なんなんですか?」
「よく聞いてくれましたミウさん。それが……こちら!」
タケルが掲げたのは、手書きのデザイン画。そこには二頭身にデフォルメされた、愛らしいヴァルガンのイラストが描かれている。
「これが必勝企画、『ぷにぷにヴァルガン様ぬいぐるみ』です! ファンなら絶対に手に入れたいマスコット、これを職人に依頼して大量生産します」
「フン。回りくどいことをするものだな。前のイベントで好評だった、我のブロマイドを増刷すれば済む話ではないか。あれならば民が飛ぶように買っていくぞ」
「ダメに決まってんだろうが! 却下だ却下!!」
初のRE:Genesis単独イベントで発売したブロマイド(最高レア=全裸写真)は確かに、予想以上に売れて完売した。その希少性から一部のマニアに刺さったらしく、魔導通信上で超高値で取引されているのをタケルも目撃している。
だが、あんなものを公式グッズとして再販するわけにはいかない。やるにしても、ヴァルガンが変なものをねじ込めない制作体制を構築してからだ。
「あのな、今回はティアちゃんがいるんだぞ? 金になるからって全裸写真を売るのは、子供の教育に悪すぎるっつーの!」
「ミウちゃん、ぜんらしゃしんって何?」
「あ、えー……と、とにかく! ぬいぐるみを作るってことですね、タケルさん」
言葉の意味がわかってないティアを誤魔化し、強引に話を戻すミウ。ヴァルガンは解せない様子で舌打ちした。
「ええ。職人さんがスムーズに量産できるよう、俺たちで試作品を作ります。さあ、みんなで型紙に合わせて縫ってみましょう!」
タケルの音頭で、ぬいぐるみ作りがスタートした。
──が。
「あたたたたっ、針刺さったぁぁぁっ!?」
「ナカタさん大丈夫ですか……って、キャァァッ!? あたしのヴァルガンさんが死んだああああ!?」
「我の顔を真っ二つに裂くとは、なんと不敬な」
「うー、ティアのヴァルガンくん、すっごいブサイクになっちゃった」
開始から三十分。部屋は地獄絵図と化していた。
ナカタのぬいぐるみは顔の縫い目が歪で完全に呪いの人形。ミウが作ったものは手元が狂って顔面が引き裂かれた状態。ティアのものはパーツの配置がおかしく、さらに綿の入れすぎでパンパンに腫れ上がっている。
タケルのぬいぐるみは比較的マシな出来ではあるが「これにお金出しますか?」と言われたら、無理だと即答するクオリティ。
「うぐぐ……おかしいな、衣装を手縫いした時はもっとうまくできたのに……! 立体物は難易度が高すぎる……!」
「フン、情けない奴らめ。どれ、我が手本を見せてやろう」
バキッ。
ヴァルガンが自信満々に握り込んだ瞬間、針が折れた。
「む。柔すぎるぞ」
「お前がゴリラなだけだろ! くそ、どうすりゃいいんだ……。見本がないと進められないのにぃぃぃ!」
今回はヤマダが元気なうちに準備しなければならないため、早めの制作依頼が必要。しかし、型紙設計をイチから職人に丸投げしたら、その分スケジュールが延びる。だからこそ見本と型紙を用意したいのに、完成するビジョンが見えない。
ガチャリ。
「……おい、なんの騒ぎだ。階段まで叫び声が響いてたぞ」
タケルが頭を抱えて絶望していた、その時。ドアが開き、ゼクスが顔を出した。手にはパン屋とコーヒーショップの袋を下げている。
「作業してると聞いたから、差し入れに来たんだが。何をやってるんだ、これは」
「聞いてくださいよ、ゼクスさん……。ライブの物販用に、ヴァルガンのぬいぐるみ見本を作ろうとしてたんですけど……ご覧の通り、全滅しちゃって……」
ゼクスは呆れた様子で散らかった布地と、無残なぬいぐるみの山を見やった。小さくため息をつき、持ってきた差し入れ──ドーナツとカフェオレを机に置く。
「貸してみろ」
「え?」
ゼクスはタケルの隣に腰掛けると、机の上に置かれていた布と綿、針と糸を手に取った。『ぷにぷにヴァルガン様ぬいぐるみ』のデザイン画と型紙を見比べ、眉間に皺を寄せる。
「……なんだこの型紙は、カーブが変だ。これじゃ縫っても形にならんぞ」
ゼクスはペンでさらさらと線を引き直すと、慣れた手つきで型紙を布に当てて裁断し、縫い合わせ始めた。
チク、チク、チク……。
規則正しく、ハイスピードで動くゼクスの指先。型紙のカーブに合わせて素早く縫い目を作っていく。あっという間に袋状にすると、裏返して綿を詰める。仕上げに目と口を刺繍すれば──
「こんな感じか?」
「「「「上手いぃぃぃぃぃぃッ!?」」」」
あまりの完成度にタケルたちがハモって絶叫した。
ゼクスが作り上げたのは絶妙に愛らしく、ハイクオリティな『ヴァルガン様ぬいぐるみ』だった。デフォルメされた強面と、コロコロとした丸みを帯びたフォルムが見事に融合している。
「すごーい! ヴァルガンくんそっくりで可愛いー!」
「なんだと? 我は可愛いではなく威厳ある王と称すべきであろう」
つん、とティアが指でつつくとヴァルガン様ぬいぐるみの頬がぷにっと沈んだ。『ぷにぷに』の名に恥じない柔らかさ。
「ゼクスさん、プロじゃないですか!? なんでこんなに得意なんですか!?」
「……昔、服やぬいぐるみをよく自作してたんだ。買う金がなかったから、端切れを集めてな。手先を使う作業に慣れてるだけで、大したことじゃない」
感激したタケルが詰め寄ると、ゼクスは懐かしむような顔をしながら語った。
普段通りぶっきらぼうな口調ではあるが、道具を扱う手先は年月を感じさせた。
「ゼクスさん……! 神様だ、手芸の神様です!!」
「あんた神のハードル低いな」
「お願いします、ゼクスさん! 型紙の調整と、量産のマニュアル作りを手伝ってください!」
「……断ったらまた泣きつかれそうだな。どうせ他の作業も人手が足りないんだろ? 裏方なら、あんたらにも迷惑はかからない。手伝ってやるよ」
ゼクスは苦笑いして肩をすくめるが、乗り気な様子だ。タケルは彼の手を固く握り、感謝を込めて上下にぶんぶんと振る。
「ゼクスさん、マジでありがとうございます……!」
「別にいい。あんたに頼られるのは、悪い気がしないからな」
「では、ゼクスよ。我のため存分に働くがよい」
「あのな、オレが力になるのはタケルであってあんたじゃないからな」
ゼクスはジロリとヴァルガンを睨んでから、どこか楽しそうに手元のぬいぐるみの仕上げを進めていく。
なお、以降のぬいぐるみ作業はほぼすべてゼクス任せになり、タケルたちは彼を応援するのが主な仕事になった。




