13. ギャラを盛れ! 盛れ! 盛れ盛れ盛れ!
翌日。タケルはRE:Genesisチームを招集し、冒険者ギルドの会議室へと駆け込んだ。机の向こうには突如呼び出されたガルド、セレイナ、レオンが座っている。
「──というわけです。ヤマダさんを助けるため、緊急ですがライブを開催したいと思います!」
これまでの経緯を説明したタケルは、黒板に勢いよく『RE:Genesis×オフィスYMD コラボライブ(仮)』と書き殴る。
「メインはRE:Genesis、そこにゲストとしてミウさんとティアちゃんを呼びます。今の集客力なら、キャパ大きめな会場も満員にできるはずです!」
一息に語り終えたタケルは、周りの反応を窺うように見つめた。
ガルドは眉間にシワを寄せてうーん……と唸り、渋い様子。
「ヤマダのおっさんが倒れたのは同情するぜ。だがな、ウチ主催でライブやって、二人をゲストに呼んだとする。それで、いくら渡せると思ってんだ?」
「私もそこが気になっています。業界の相場がありますし、出演料はチケットやグッズなどの全体売上から見れば僅かです。ゲスト出演のみで、莫大な手術費用と借金返済は正直厳しいかと」
「と、思うじゃないですか」
冷静に現実を突きつけるガルドとセレイナに対し、タケルはその言葉を待ってましたとばかりに胸を張る。そして、用意してきた資料を二人の前に差し出した。
「もちろん、その対策はちゃんと考えています。今回のライブは共同開催という形にさせてほしいんです」
「共同……つまり、RE:Genesisとギルドが得る利益を、あえてヤマダさんたちと分かち合うということですか?」
「はい。会場の手配や企画の大部分は俺たちが担当します。その上で、『オフィスYMD』への利益分配率を大幅に引き上げるんです」
タケルの意図を確認すべく、セレイナは資料に目を通していく。
すると、レオンがふわぁと欠伸をしてから口を開いた。
「あーだこーだ言ってるけどよ。つまり、そいつらをなんとかするために金を横流しするってことだろ?」
「人聞きの悪いこと言わないでください。ちゃんとしたビジネスの契約です」
「やってることの実態としてはそーだろうが」
「俺たちに回すのは最小限の経費に抑えて、浮いたお金を配分するだけ。後ろめたいことは一切ありません。俺個人のプロデュース料なんてゼロでいいです。この形なら、大金を合法的に『オフィスYMD』の売上として渡せます!」
「はー……お人好しはこれだから」
呆れた様子でレオンは肩をすくめた。
タケル自身、プロデューサーとしては愚策であると自覚している。担当アイドルの儲けを捨て、他所の事務所に貢ぐようなものなのだから。
セレイナは資料を読み終えると、どうしたものか……と言いたげに息をついた。
「規約上、不可能ではありません。RE:Genesisと『獅子の牙』が同意すれば、共催イベントとして利益分配は自由です。ですがタケルさん、貴方たちの取り分が激減するんですよ?」
「構いません、お金はまた次の仕事で稼げます。でも、ヤマダさんは今助けなきゃどうなるかわかりません」
タケルは一切の迷いなく、セレイナの問いかけに答える。
それまで黙って壁にもたれかかっていたヴァルガンが、ゆっくりと歩み出た。
「王の力で得た利益を分け与え、民に施す。それもまた、頂点に立つ者の振る舞いよ。ガルド、貴様は我らの決断に異を唱えるつもりか?」
「……ったく。そんな真似すりゃウチに入る金も減るってのによ。そこまで覚悟キメてんのに、俺が拒否ったらダセェだろうが!」
ガルドは頭をガシガシと掻きむしったあと、豪快に笑い机をドスンと叩いた。
「いいぜ乗った! 人情と義理堅さがウチの売りだ、ギルドの取り分も最小限に抑えてやる。絶対会場を満員にして、ヤマダのおっさんを驚かせてやれよ!」
「でしょうね。マスターならそう言うと思っていました。では、特例として処理できるよう書類を作成し、急ぎ対応を進めます」
「ガルドさん、セレイナさん……! ありがとうございます!」
「まとまった空気出してやがるがちょっと待て」
ガルドとセレイナの合意を得られて、ホッとしたタケル……だったが、レオンの待ったが入った。彼は眉間にシワを寄せ、ジト目になっている。
「改めて確認だが。そのライブ、クソ野郎以外にアイドル出るんだよな?」
「そりゃそうですよ、コラボなんですから。ミウさんとティアちゃんが出ます」
「そいつらは何を歌うんだよ。まさか、カバーで済ませるわけじゃねーだろうな」
「……」
ピタリとタケルの動きが止まる。ミウは五年間芽が出ておらず、ティアはついこの前が初めてのライブ。どちらもオリジナル曲など持っていない。
「え、えーと……ヴァルガンの曲を一緒に歌って、なんとか……」
「我の曲を共に歌うだけでは、あやつらがただの付属品にしか見えぬであろう。そんな代物では客が楽しめんではないか」
「なんでこういう時だけ真っ当なこと言うんだよ!!」
RE:Genesisの持ち歌を一緒に歌ったり、カバー曲のみでは確かにオマケ扱いが拭えない。そんな状態では共同開催と胸を張れないという自覚がタケルにもあった。
「俺、実はレオンさんのこと尊敬してるんですよ」
「あからさまに媚びてくんじゃねーよ死ね」
「お願いします! ミウさんとティアちゃんのために、曲書いてください! それぞれのソロ曲とペア曲とヴァルガンと一緒に歌うやつ!」
「さり気なく曲数増やしてんじゃねーか!!」
「ほら! ゼクスさんの時のお願い、まだ叶えてないじゃないですか!? さらに上乗せしていいんで!! お願いしますうううううう!!」
*
必死に泣きついてレオンを説得した、その日の夕方。
病室で療養中だったヤマダの元へ、タケルは吉報を届けに訪れていた。
「ヤマダさん。事後報告になりましたけど……ライブ開催が決定しました!」
持ってきた資料を見せながら企画内容と契約条件ををタケルが説明すると、ベッドの上のヤマダは震える手で資料を抱え込んだ。傍らにいたミウとナカタも、信じられないといった様子で口を覆っている。
「RE:Genesisさんの利益を削ってまで……!? そんな、申し訳なさすぎます……! そこまでしていただけるほどのこと、僕らは何も……!」
「いいえ、これは俺たちがやりたくてやることです。このステージは絶対に成功させます。だから安心して、手術の予定を決めましょう!」
「う、ううっ……ありがとうございます、ありがとうございますっ……!」
ヤマダは深々と頭を下げた。上げては、また下げる。五度目には頭が上がらなかった。布団の上に、一滴ずつ染みが増えていく。
「タケルさん……いいライブになるよう、あたし死ぬ気で頑張ります!」
「頼りにしてますよ、ミウさん!」
茜色の光が差す病室に、泣き声とも笑い声ともつかない声が響いていた。




