11. ミウ&ティア、お披露目ライブスタート!
ミウとティアのお披露目ライブ当日。聖アイディール教の広場に作った即席の機材卓の前で、タケルは慌ただしく準備を進めていた。
「よし、音響チェックOK! それじゃ、リハをやってみましょう」
「わかりました、タケルさん」
「ティアもだいじょーぶ!」
ティアは返事をしてから、魔法のステッキを構え──
「リンリン・ルルルン・ランプロス☆ 素敵なアイドルになーれ!」
呪文を唱えると光に包まれ、大人の姿に変身した。スラリと長い手足と高身長、いつ見ても元気にはしゃいでる女の子と同一人物とは思えない美人だ。
「今までは子供の姿でレッスンしてましたが、大人になると歩幅や体の使い方が違うと思います。その部分を意識しながら合わせてみてください」
「「はい!」」
タケルが合図をすると音楽が流れ、ミウとティアはリハを始めた。お互い気兼ねなく、間違えた点や気になるところを指摘しあっている。
(うん、いい感じ。トラブルが起きない限り、進行は任せて大丈夫そうだ)
「ごきげんよう、タケルさん。進み具合はいかがですか?」
様子を見ていたタケルの後ろから、穏やかな声がかかる。
振り返ると、聖女マリアンヌの姿があった。
「あ、マリアンヌさん! お久しぶりです。準備はあらかた終わったので、あとは開演を待つだけです」
「それは良かったです。教会の広場を使っているんですから、問題を起こさないように気をつけてくださいね?」
「あはは、そこはちゃんとします」
そこまで話してから、マリアンヌはどこか物憂げな表情になった。
周囲を窺い、少し声を潜めて話を続ける。
「……少しお話したいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「大丈夫ですよ。イベントのことで何か?」
「実は──」
「聖女様。タケル殿と何を話していらっしゃるのですか?」
マリアンヌが何か言いかけると、いつの間にか側に立っていたカンディードが言葉を遮った。一瞬、聖女は困った表情をしたが、すぐ普段通りの笑顔に戻る。
「イベントが終わったあと、みなさんで食べるお菓子をご用意しまして。差し入れの場所を聞こうかと」
「ああ、そういうことですか。それなら、受付のナカタさんに渡してもらえれば」
「わかりました。……では、わたくしはこれで」
そう言い残し、マリアンヌは足早に広場を去っていく。
タケルはその後ろ姿を、少し不思議そうに見送った。
(マリアンヌさん、何か言いたそうだったけど……気のせいかな?)
「さて、私もお手伝いしましょうか。ステージの設営でよろしいですか?」
「ありがとうございます、助かります。必要なもの持ってきますね」
タケルは背を向け、機材の方へと向かった。
その直後。広場の隅から三人の少女──ホーリー・エンジェルスのメンバーたちが、カンディードの元へ近づいてきた。
「報告です。指示通り、ルミナ・シティ特定地域で活動するアイドルや関係者を調査しました。マナの異常な乱れは観測されず、不審な点はありませんでした」
「ご苦労様です。引き続き、監視を怠らないように」
カンディードは温和な神父の笑顔を崩さぬまま、事務的な声で応じた。
*
開演が近づき、ステージの裏からこっそりとミウとヤマダが客席の様子を見ていた。いつも来ている五十人ほどの常連客だけでなく、見慣れない顔ぶれがチラホラと混ざっている。
「見てください、ヤマダさん! 新しいお客さんも来てますよ」
「おお~。いい機会だから、みんなに楽しんでもらおうねミウちゃん」
「はいっ!」
今回は告知で「先日のゲストがまた登場」と書いたのもあり、興味を持ってくれた人がいたのだろう。決して多いとは言えないが、着実に前進している。
「ね、ミウちゃん。ティアの服、似合ってるかな?」
「うん、すっごく可愛いよ! 誰が見ても、本物のアイドルだね」
今回のステージ衣装はミウの普段の活動から膨らませた、ジャンパースカート風の学生服モチーフ。ミウはいつも通りピンクがベースで、大人モードのティアは明るいパステルカラーの黄色だ。
タケルは二人の側に近寄り、それぞれの肩をポンと叩いて目を合わせる。
「いよいよ本番です。これまでのレッスンで成長したところを、みんなに見てもらいましょう。さあ、行ってらっしゃい!」
頷いて、ミウとティアはステージに飛び出していった。
初見さんがいるのもあってミウは少し緊張気味だが、ティアは物怖じせず満面の笑みで客席に手を振っている。
『みなさーん! こんにちはー!』
「「「こーんにーちはー!」」」
『今日は、この前ゲストに来てくれたティアちゃんと一緒にライブです』
『えへへ、ティアだよー! よろしくねー♪』
二人が挨拶をすると、客席から温かい拍手と歓声が沸き起こった。
『まずは一曲目、『恋の魔法はシュビドゥバ♡』を聴いてください!』
最初は以前のライブでもカバーしていた曲。ミウとティアは視線を交わし、背中を合わせてステージ中央に立つ。
『『♪恋の魔法はシュビドゥバ♡ 君に届け、この想い』』
「おっ、いい感じだよー!」
「ティアちゃん上手いね~」
二人が放った第一声で、ファンたちは早速心を掴まれたようだ。
観客たちはノリノリでサイリウムを振り始める。
『♪魔法かけちゃうぞ☆ ばぁーんっ♡』
「はうあっ!」
「か、可愛い……!」
ティアがウインクをしながら、客席に向かってとびっきりのスマイルで指鉄砲を撃った。丁寧にアピールをしていくミウと、愛嬌たっぷりなティアのパフォーマンスは相性バッチリ。
ステージ袖でライブを見ているタケルとヴァルガンも、うんうんと頷いている。
『『♪胸がキュンキュン、なんでだろ?』』
「物怖じせずできているではないか。我の教えを守っているようで何よりだ」
「ビビるくらいなら全力でやれって力説してたもんなぁ、ヴァルガン。ちゃんとお互いの息も合わせてるし、いいペアなのかも」
『『♪「おはよう」だけで、ドキドキするの』』
「ミウちゃん、こっち向いてー!」
「ティアちゃーん! 笑ってー!」
客席では常連だけでなく、初めて来たお客さんも一緒になって手拍子を打っている。これまで以上の盛り上がりに、ミウはとても嬉しそうに笑った。
*
『これで、今日のライブは終了でーす! 次もぜひ来てくださいね』
『ティアとミウちゃんに会いに来てね、まったねー!』
「「「はーい!」」」
予定していたセトリがすべて終わった。「今日のライブ、前より良かった」「またペアでやってほしいな」と、あちこちで楽しそうに感想を話しながら、観客たちは満足げに広場から帰っていく。
タケルは飲み物とタオルを持ち、ミウとティアに声をかけた。
「二人ともお疲れ様です。お客さんたちも喜んでましたね、いいライブでした」
「アイドルって楽しいね、ミウちゃん! ティア、またやりたくなっちゃった」
「じゃあ次はどんなライブをするか、また一緒に考えないとね」
「ねえタケルくん、明日ライブできないの?」
「こらこら、お客さんに告知しなきゃいけないんだからそういうのはダメ」
やりたくてしょうがないとうずうずしているティアを見て、くすくすと笑うタケルとミウ。ライブの第一歩は大成功。新しいお客さんも来たし、これなら借金返済のプランも具体化できると思えた──瞬間。
「……う、ううっ……」
タケルたちの後ろから、苦しげな声が聞こえた。
振り返ると、ヤマダが胸を押さえてその場に倒れ込んでいる。ナカタは小さく悲鳴を上げ、慌てて駆け寄った。
「しゃ、社長! どうしたんですか!」
「ぐっ、う、はぁ……はぁ……!」
「ヤマダさん、どこか痛いんですか……!?」
タケルも近寄り、ヤマダの身体を支えた。
体に痛みが走っているのか、彼は苦しそうな表情で荒い息を繰り返している。
「誰か、教会の人に声を掛けてください!」
「ヤマダさん! しっかりしてください、ヤマダさん……!」
ミウが泣きそうな顔でヤマダの手にすがりつく。
大成功のライブの余韻は、一瞬にして凍りついてしまった。




