10. ついに届いた、ルミナ・ドームへの招待状
数日後。冒険者ギルドの訓練場に、ヤマダとナカタがやってきていた。
これまでレッスンした成果のお披露目ということで、ミウとティアのパフォーマンスを見てもらうため。ミウが掛け声を出してリードしながら、二人で息を合わせてステップを踏んでいる。
「ワン、ツー、スリー、フォー……はい、ポーズ!」
「わーい、できた! 今までで一番よかったかも!」
「おお~……しっかり練習したんだねぇ。凄く頑張ったのが伝わってくるよ」
パチパチと拍手しながら喜ぶヤマダの様子を見て、ミウとティアはハイタッチを交わして笑い合った。
「いやぁ、まさかタケルさんたちがここまでちゃんと教えてくれるとは」
「……アドバイザーしてくれって言ったの、ナカタさんですけど?」
「だって、いきなりやらされたら嫌じゃないですか。常識的に考えて」
「そこ気にする常識があるなら押し付けないでくれません!?」
無茶な要求だと本人も理解しているが、それはさておきなんとかしてくれという姿勢。相変わらず、ナカタは変なところで図太い。
「さて、これでヤマダさんたちもミウさんの成長を感じられたと思います。ここからが、アイドル業立て直しの本番です」
そう言いながら、タケルはゴソゴソと荷物を漁って紙束を取り出した。表紙には「オフィスYMDライブ企画」と書かれている。
「実力アップをお客さんにアピールする意味もこめて、これまで学んだことの集大成になる小さなライブをやってみましょう」
「企画書まで作ってくださったんですか!? ありがとうございます……!」
「簡単にまとめたものなので、大したことじゃないですよ。セトリは成長を体感しやすいように、これまでのカバー曲を選定しています」
今回歌う予定の曲は、いずれもミウが歌ったことがあるもの。
これなら本番に備えやすいし、お客さんが「前と変わってる!」と実感しやすい一石二鳥のプランだ。
「そして、今回出演するのは……ミウさんとティアちゃんの二人です」
「ホント!? ティアも出ていいの!?」
「うん。この前のイベントで、ティアちゃんが乱入しただろ? だから今回も出てもらって『あれは共演する前フリだったんです』って辻褄を合わせるんだ」
「本当の意味でアイドルデビューだね、ティアちゃん。一緒に頑張ろうね」
「うんっ!」
嬉しそうにバンザイを繰り返すティアを見つめ、優しく微笑むミウ。
その隣で、ナカタは企画書を見ながら少し不安げな表情をしている。
「あのー、これって場所はどうするんです? お金は厳しいんですけど……」
「聖アイディール教の広場を貸してもらおうと考えてます。お金を払って箱の規模を広げるのは、もう少し先の方がいいかなと」
「ホッ……それならよかった。神父様たちもミウちゃんの活動を応援してくれてますし、私から相談してみます」
安心した様子でナカタは頭を下げた。借金まみれの事務所にとって、これまでの付き合いを活かして無料で使える場所があるのは本当にありがたいことだろう。
「ミウさん、ティアちゃん。まずは二人でやりたいことを考えてみてください。曲の変更でも演出の希望でも、なんでも言ってOKです。俺がサポートします」
「わかりました。ティアちゃんはどんなステージにしたい? 一緒に考えよっか」
「えっとね、ティアがやってみたいのは~」
(ふぅ……ポジティブな空気になってきてるし、今のところ順調だな)
ミウはティアの手を引いて、訓練場の隅へと移動する。二人が楽しそうに話し合う姿を見て、タケルは少しだけ肩の荷が下りるのを感じた。
と、そこで腕を組んで壁にもたれかかっていたヴァルガンが鼻を鳴らす。
「タケル。児戯に付き合うのも悪くはないが、本来の目的を忘れるでないぞ」
「わかってるって。俺たちの目標はルミナ・ドームと、ステラを超えること。でも、こうやって誰かの背中を押すのもプロデューサーの仕事だからさ」
「わかっているのならばよい。王として、寛大な心で付き合ってやろう」
「──タケルさん、ヴァルガンさん! 大変です!」
バタン! と大きな音を立ててドアが開き、セレイナが血相を変えて駆け込んできた。普段は冷静沈着な彼女が珍しく息を切らし、一通の封筒を握りしめている。
「どうしたんですか、セレイナさん? そんなに慌てて」
「先ほど、ギルドに招待状が届いたのですが……差出人が……!」
セレイナから受け取った封筒に記された名は──
「ステラ……!?」
その名前に、場の空気が一変した。
ヴァルガンも腕を組み直し、鋭い眼光で封筒を睨みつける。
「ほう……。ついに天上の歌姫から、果たし状が届いたというわけか」
「ちげーよ。……いや、でも、ステラからの招待状って、もしかして!?」
タケルは震える手で封筒を開き、中に入っていた上質な便箋を取り出す。
『RE:Genesis様へ
突然のお手紙、失礼いたします。
みなさんのこれまでのご活躍、大変興味深く拝見しております。
さて、先日発表いたしました通り、私主催の大規模な合同ライブ企画『トゥインクル☆カーニバル』を開催する運びとなりました。つきましては、ぜひRE:Genesis様にもご出演いただきたく、ご招待申し上げます。
まずは来月以降に開催予定のプレイベントにて、熱いパフォーマンスを拝見できることを楽しみにしております。
そこから、本格的な祭典へと繋げていきましょう。
同じステージでお会いできる日を心待ちにしております。ステラより』
言葉を失い、何度も何度も文面を読み返すタケル。驚きのあまり、口を開くが何も音にならない。一度落ち着くため、大きく息を吸い込んだ。
「マジで俺たち、ステラの合同ライブに呼ばれたんですか……!?」
「ええ、間違いありません。私も念のため七回読み返しました。あまりにも字が美しすぎて、トップアイドルたるものを感じました……」
「読みすぎだしその情報いります?」
「ステラ様の所属事務所からのオファー書類も同封されていたので、これは正式な連絡です」
セレイナは眼鏡を押し上げ、オファー書類をタケルたちに見せる。テンションが上がりすぎているせいか手がぷるぷると震えまくっていた。
「やった……! やったぞ、ヴァルガン! ついに、ステラと同じステージに立てるんだ!!」
「フハハハハ! ついにあの小娘も我の力に恐れをなして、自ら膝を屈しに来たというわけだ!」
「いや、全然屈してないと思うけど! でも、これはすげぇチャンスだ! プレイベントで結果を残せば、次はステラと直接対決できるとかだったり!?」
タケルとヴァルガンは、互いに拳を突き合わせて歓喜の声を上げた。
ルミナ・ドームへの道が、ついに具体的な形となって目の前に現れたのだ。
騒ぎを聞きつけて、ティアとミウが駆け寄ってくる。
「ヴァルガンくん、ステラちゃんにお呼ばれしたの!?」
「あの超有名アイドルの……ですよね!? す、凄すぎます……!」
「私たち、とんでもない方々にお世話になってますねぇ……社長……」
「だね、ナカタくん。こんな幸運が訪れるなんて、今でも信じられないよ……」
目を丸くして驚く二人の隣で、ナカタとヤマダは現実を認識できていないのか、半ば放心しながら言葉を交わしている。
ルミナ・シティの住民なら誰でも知っているくらい、ステラは雲の上の存在。そんな相手から直接招待状が届くなんて、普通ならあり得ない出来事だ。
「ではセレイナさん、参加ということで手続きを進めてください!」
「はい、お任せください。打ち合わせなど、この後の予定はどうしますか?」
「まずは、ミウさんたちのライブをきちんとやりきってからにしたいです。そうじゃないと、全部中途半端になりそうですから」
「わかりました、では詳細はライブ後に。何か進展があれば共有します」
セレイナは手続きのため訓練場を出ていった。ヤマダは申し訳なさそうな表情で、タケルにおずおずと声をかけてくる。
「あの、いいんですか? ステラさんのライブの方が大事だと思うんですが……」
「先に決まっていた仕事はアドバイザーですから。しっかりやりきった上で、俺たちのライブに行くことにします!」
「本当に、本当にありがとうございます……!」
「あたし、精一杯頑張ります! タケルさんたちに教えてもらったこと、全部出しきります!」
ミウは力強く頷き、ティアも「おー!」と元気に拳を振り上げた。




