7. アイドルにとってのキラキラとは
「それでは、レッスンを始める。貴様ら準備はよいか?」
「「はい!」」
「気合が足らんぞ! もっと腹から声を出すがよい!」
「「は、はいッ!」」
(冒険者たちに教官やってただけあって、様になってんなぁヴァルガン)
冒険者ギルド『獅子の牙』にある訓練場。
ヴァルガンは久々の教官モードになり、仁王立ちで号令をかけた。レッスン着のミウとティアはビシッと背筋を伸ばして返事をする。
「それじゃ、まずは曲を流しながら基礎練って感じでいいか?」
「うむ。基本のアイドルステップからやるぞ、我の動きについてこい」
タケルは魔導ラジカセのスイッチを入れ、音楽を流し始めた。それに合わせてヴァルガンが素早く力強いステップを踏んでみせる。巨体から繰り出されているとは思えないほど軽快で、床をドスンと鳴らすことは一度もない。
「わー、ヴァルガンくんすっごーい!」
「あんなに大きな身体なのに、全然重さを感じない……!」
「力任せにやるのではない。アイドルたるもの、体の動かし方を熟知せよ!」
(偉そうなこと言ってるけど、こいつ最初は地面叩き割ってたんだよなー)
心の中でツッコミを入れつつ、タケルはレッスンの様子を見守ることにした。
ミウはヴァルガンの動きを真似ているが、ワンテンポ遅れてしまう。その遅れを取り戻そうと、スピードを上げるが──
「あっ、遅れちゃった……わわっ、右じゃなくて左……きゃあっ!?」
「何をしておる。そのザマでは、ステージを支配することなどできんぞ!」
「うぅ……すみません……」
ヴァルガンのテンポについていこうと焦った結果、ミウは転んでしまった。一方、その隣では。
「いち、に、さん、し!」
タンッ、タタンッ!
軽やかな音を立て、ティアはヴァルガンのステップを見事に再現してみせた。
「ほう。見ただけでやれるとは、なかなか筋が良いではないか」
(マジか……魔法で身体能力が上がってたのかと思ったら、そうじゃない。この子、元々めちゃくちゃセンスがいいんだ……!)
子供の姿のままでも十分すぎる身のこなし。これだけ動けるなら、大人に変身すればさらにダイナミックな動きができるのも納得だ。
「小娘、先ほどのステップにターンを組み込んでみろ」
「はーい」
ヴァルガンの注文に、ティアは躊躇うことなくクルリと見事なターンを決めた。軸は全くブレていない。
「これも問題ないか。では、次は我の振り付けを真似ながらやってみるがいい」
「いいよー、どんどん教えてー!」
ヴァルガンが次々と課題を出しても、ティアはあっさり学んで自分のものにしていく。ミウは「上手上手!」と拍手しながら、その動きを真剣な眼差しで見つめていた。
「覚えるの早いね、ティアちゃん。ターンする時ってどうやってるの?」
「んーと、くるって回るでしょ? その時、つま先にきゅって力を入れるの。ミウちゃんもやってみて!」
「つま先に、力を入れて……よっと!」
キュッ、キュキュッ。
クルリと回ってみせるが、軸がブレている。
止まり際に若干ふらついてしまった。
「あ、あれ? 上手くできないや」
「んー。なんて言ったらいいんだろ、わかんない……」
「あはは……ごめんね、ティアちゃん。あたしにはちょっと難しかったみたい」
ミウは苦笑いして、ティアの頭を優しく撫でた。
その一部始終を眺めていたタケルは、腕を組んで考え込む。
(うーん……ミウさん、全然ダメってわけじゃないんだよな。ある程度踊れてはいるし。素人レベルか? っていうと、それはノーだ)
そもそも、ヴァルガンの教え方はぶっ飛んでいる。それに平然とついていけるティアのスペックがおかしい……ということかもしれない。タケルは一旦そう結論づけた。
「何をしておる、休むには早すぎるぞ! 我の指導についてくるがよい!」
「は、はいっ!」
ヴァルガンの声に、ミウは慌てて立ち上がる。ティアが一度で覚える動きを、何度も反復練習してようやく形にできるかどうか。それでも彼女は諦めず、汗だくになりながらレッスンに食らいついていた。
*
「はい、そこまでー! ちょっと休憩にしましょうか」
「む? 我はまだ余裕だが」
「あのな、休ませたいのはお前じゃないんだっての」
レッスンを始めてしばらく経った頃。タケルが休憩の声をかけると、ミウは床にへたり込んで荒い息を吐いた。ティアはまだ余裕がある様子で、水をゴクゴクと飲んでいる。
「お疲れさまです。大丈夫ですか、ミウさん?」
「はぁ、ふぅ……はい、なんとか。やっぱり、他のアイドルさんみたいにやれないなぁって痛感しちゃいますね」
「そんなことないですよ。頑張りはちゃんと伝わってますから」
「あはは、ありがとうございます。あたし、頑張るのは得意なので諦めずにやります。少しでも、みんなの輝きに近づけるように」
「……ミウさんは、どうしてアイドルになろうと思ったんですか?」
ふと、気になったタケルが尋ねると、ミウは懐かしそうな顔になり語り始めた。
「あたし、小さい頃は引っ込み思案だったんです。自分に自信がなくて、お友達を作るのも苦手で」
「へぇ、今のミウさんからは想像できないですね」
「そんな時、街のビジョンでアイドルのライブ映像を見たんです。とってもキラキラしてて、楽しそうで……。心の中にポッと火が灯った気がしました。だから、あたしも誰かを元気にできるアイドルになりたいと思ったんです」
なかなか芽が出ない、借金まみれ、別の仕事と掛け持ち。
それでも彼女が五年間、一度もステージを降りようとしなかったのは。憧れに追いつきたかったから。
「ティアちゃんがどんなアイドルになりたいかわからないけど、そんなふうになってくれたら嬉しいな」
「ティアはね、ミウちゃんみたいになりたいなー」
「えっ?」
「だってミウちゃん、いつも楽しそうにしてるから」
「……うんっ、ありがとう!」
ミウは嬉しそうに、少しだけ涙ぐんでティアを抱きしめた。
売上や人気だけがすべてじゃない。アイドルは、誰かにとっての「特別」になって元気を与えられる存在。
「貴様ら、そろそろ休憩は終わりとするぞ。次はみっちり通しで鍛えてくれるわ」
「はーい!」
「よろしくお願いします!」
ヴァルガンの掛け声に、ミウとティアは笑顔で応える。
再び音楽と、二人の元気な足音が響き始めた。




